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「結婚しよう」

2021.08.19

ほぼ一から書き直しています。四年以上も放っていましたが、今後やる気と時間があれば次回以降の話も同じように書き直しながら進めていければいいと思っております。


『魔物は人間の敵である』


 誰が言ったかもわからないその言葉は、いつのまにかこの国、この世界の常識となっていた。



♦♦♦

 


「これで手続きはすべて終了となります。今日からあなたたちは立派な勇者です。人類の未来はあなたたちの手の中にあると言っても過言ではありません。ご活躍のほどを心よりお祈りいたします」


 受付のお姉さんはどこか事務的な笑顔でそう告げた。

 勇者、とは聞こえはいいが言ってしまえばただの冒険者である。街周辺の警備強化やいざという時の戦力になるという名目で冒険者もとい勇者にはそれなりのリターンがある。魔物対策協会の加盟店での宿泊や物品購入であればランクに応じた割引などが例に挙げられる。


「では首飾りをお配りしますので右側の列の方から順番に取りに来てください」


 受付の人のその一言を皮切りに周りがいそいそと離席の準備を始める。会場にいる人数は十数人。幾ばくかもするとすべての人に首飾りが行きわたった。

 男は──ルカは受付から受け取った首飾りを首にかけた。わっかにぶら下がった銀のたまは勇者であることの証明ともなる。決して華美とはいえないそのたまをつまんで眺めていると、一人の男が近づいてきた。


「なああんた」


 呼びかけられたルカは声のしたほうに目線をくれる。歳はいくらか上だろうか。首にぶら下げた勇者の証は金色に輝いており、勇者としてワンランク上のゴールド帯であることが見て取れる。だが、面識がある相手ではない。いったい何の用だろうか。

 訝しむルカをよそに男は続けた。


「あんたはこの後どうするか、もう決めてるのか?」

「この後、ですか」

「そうだ。試験の様子を見させてもらったがそれなりに腕が立つようじゃないか。もしなにも目標がないんだったら俺のパーティーに入らないか?」


 どうやらパーティーの勧誘のようであった。身体能力の面で基本的には魔物側がまさっていることもあり、魔物の討伐を糧に銭を稼ぐものたちが有用な新人をスカウトすることは珍しいことではない。現に周りを見ても幾人かが同じように勧誘を受けていた。

 魔物と戦う以上仲間、とまではいかなくとも知り合いは多いに越したことはない。そこでルカは──

 

「え、無理です」


──秒で断った。


「え、無理!?」


 思っても見なかった返答に勧誘に来た男は驚きの声を上げた。相手はなりたてほやほやのシルバー帯勇者。仮にも経験と実績を積んできたゴールド帯の自分に何をこんなに無碍にすることがあろうか。

 引きつった顔でなんとか体裁を保ちながら男は言葉を繋いだ。


「む、無理って……。あ、あれかな、もう加入するところが決まっている、とか……?」


 むしろそうであってほしいとすら願う男。


「いえ? 別に?」


 当たり前のように否定する男。なぜこの男はこんなにもふてぶてしい態度なのだろうか。


「そう言う訳でもないのか!? なら! なんで無理なんだい!!」

「えーと、あなたもしかして本気で理由が分からないんですか?」

「あ、ああ……」


 想定外続きで戸惑いを隠せない男を見たルカは、心底呆れた顔で、それはそれはわざとらしい深めのため息をついてから答えた。


「そりゃあねぇ、あなたが男だからですよ」


「……………………は?」


 困惑する表情からようやく絞り出されたのはその一音だった。


「あのですねぇ、僕は男なんかよりかわいらしい女の子のほうが好きなんです。なのにどうしてわざわざむさくるしい男なんかと一緒に行動しなきゃいけないんですか!?」

「そ、そうは言ったって、一人だけで勇者をやっていくなんてのも限界があるだろう」


 もはやなんでこんなやつを勧誘しているんだろうと内心自問している男のその言葉に、ルカは大きな声で反論した。


「僕が勇者になった理由は誰にもとがめられずに魔物っ()に会うことですよ! わかりませんか!? 知能を持つ魔物のほとんどが女性の! メスの! 女の子の姿をしているんですよ!? 勇者の称号を持っていればある程度自由にいろんな街を出入りできる! そうすることで多種多様な魔物っ娘に出会うことができるんです! あなた方のような日々の暮らしのために人々の依頼をこなし時には力を合わせて街を守るような人たちと一緒にしないでください!」


 ──そんなのこっちから願いさげだ。

 もはやそんなツッコミも出せずに男は啞然としていた。未だかつて勇者という仕組みを出会い系かなにかのように扱うものがいただろうか。


「それでは僕はこれにて」


 大声につられて注がれた周囲の冷ややかな目線も気に留めず、ルカは颯爽とその場を去っていった。

 ──かわいい魔物に会うために。



♦♦♦



 見渡せば無遠慮に生えた木とひざ丈まではある草。背の高い木々の隙間から漏れた暮れはじめの太陽が何とか辺りを照らしている。広大な面積を誇るこの森は街からは大きく外れた位置にあり、よっぽどの物好きでないと滅多に人が訪れることはないという魔物が住むにはうってつけの環境だった。

 そんな森で一人の物好きな男──ルカが鬱蒼と生い茂る雑草の隙間にうっすらと見えるけもの道を進んでいた。おとなしそうな顔には硬い決意の炎をたぎらせて、注意深く周りを観察しながら歩を進める。探しているのは魔物の痕跡。落ちた体毛や残された足跡、幹についた爪とぎの跡などを頼りに進むべき方角を決めていた。

 進むにつれて増える痕跡に、はやる気持ちがありつつも身体には順当に疲労が蓄積されていた。特に近くに川があるのか、水の流れる音が聞こえ始めてからは休息を欲する気持ちがだんだんと増していく。

 さすがに一時の休憩を取ろうかと川辺のほうに向かっていると、その方角からバサバサと大きな羽音が聞こえてきた。ただの鳥、にしては大きく重たいその音にルカの期待は高まる。音をを立てず気配を消してゆっくりと進んでいくと、木々の向こう側に一つの影が見えた。


「あれは……?」


 まず見えてきたのは頭。動かすたびに肩にかかろうかというサラサラとした桃色の髪の毛が宙を踊る。そしてその下の人間でいうならば腕がある場所には立派な翼が。かろうじて胸部を隠す程度の簡易的な服を着た人間同様の胴体に、羽毛のような毛でおおわれた下半身。そして猛禽類のような足の先には鋭い爪が生えていた。


「ハーピィ……!」


 ルカは思わず声を漏らす。それに反応して半人半鳥の魔物がようやくルカを視界にとらえた。


「えっ、ニンゲン!?」


 ハーピィは驚きの声を上げた。それもそうだろう、こんな人里離れた深い森にやってくる人間なんてまずいない。この男が異常なだけである。

 まるで誘われるようにふらふらとルカは距離を縮める。──誘ってなどいないのだが。


「なによ! こっ、来ないで!?」


 あわてて大振りな動きで威嚇し声を張り上げるが、構わずルカはハーピーに歩み寄る。


「来ないでって言ってるのが聞こえないの!?」


 それでもルカの歩みは止まらない。


「来ないでってば! ニンゲンには耳ってもんがついてないの!?」


 人間と魔物。互いにいがみ合い殺し合いも起きる関係性。突然の、あまりに想定外な出来事に恐怖したのか彼女は腰を抜かしペタリとその場に座り込んだ。

 なおもルカは止まらない。もはやハーピーの目と鼻の先だ。

 そしてルカは更に一歩ハーピーに近づき片膝をついた。そして片手をハーピーに差し出して言った。


「結婚しよう」




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