episode.3 運命の出逢い
「地下に、こんな部屋があるなんて知らなかった…」
星名が知らないのもそのはず…祇王高校が建てられた今から50年前…初代の校長先生が少しでも明かりを灯そうと考えて特注した木を使って特別に、造られた。場所が地下にある為ほとんどの生徒が立ち寄る事がない。通称「薄気味悪いお化け屋敷」と呼ばれている。
「まだ時間あるし、とりあえずここで休んでようかな…」
星名は、窓際に座ってひと休みすることにした。すると、すぐにカーテンがふわっと揺れて冷たくて気持ちいい風が木の香りと共に漂った。
「冷たくて気持ちいい…何か、広すぎて1人じゃもったいないな…」
優しい風が、守るように包み込んで、傷ついた星名の心を癒してくれた。癒されて気持ちが晴れたのかいい気分のまま眠ってしまった。星名が眠りについてから、生徒が1人入ってきた。
〈扉を開ける〉
眠っていて、人が入ってきたことには分かっていない。
「ん?珍しいな…俺以外の生徒がいるなんて…」
1人の男子生徒は、星名のそばへ寄って肩を揺らしながら声をかけた。
「あの…そのままでいると風邪引きますよ。」
男子生徒が声をかけても、ピクリともせず反応しなかった。次は、最初と同じように肩を揺らしながら耳もとに唇を寄せて声をかけてみた。
「風邪引きますから、起きてください。」
「ん……」
耳もとで声をかけたおかげか星名がゆっくりと目を開いた。うっすらと開いてその先の目線には…
「起きました?大丈夫…」
「うわっ⁉う…いった…」
目の前にいた男子生徒を見て驚いて角に頭をぶつけてしまった。それを見て慌てて…
「だ、大丈夫ですか⁉…驚かせて、すいません…そっとさせておいても良かったんですけど…このままだと風邪引くと思って…」
真崎 遥。本作の主人公。星名の二つ年下の1学年で軽音部所属。兄:隼人のクールな歌声に惹かれ「素敵な歌を人に捧げたい」と思いで同じクラスの、親友を加えた3人を誘って入った。入部してから5ヶ月。まだまだ新人のような存在だ。グループ名は「Black Rose」
「あ、うん…大丈夫だよ…」
「良かった…怪我でもさせたらどうしようかって思いました…」
「不安にさせてごめんね…ぶつけたといっても軽くだから…心配してくれてありがとう…」
「いえ…怪我しなくてほんと良かったです…あ、お礼なんかいいですよ。あの…もし良かったら…隣いいですか?」
「う、うん…いいよ。」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて…」
星名の隣に座って、手に持っていた本を開いて読書を始めた。その姿に星名は見惚れていた。ふと重要な事を思い出し、問いかけた。
「読書中、ごめん…いきなりであれだけど良かったら…名前聞いてもいいかな…?」
「あ、大丈夫ですよ。いいですよ。俺は真崎 遥。1年です。」
(1年…ってことは、二つ下の後輩か…それに「遥」って女の子みたいな名前だな…顔つきも可愛らしいし…)
星名は、遥の名前を聞いて可愛いと思っていた。と、自分の自己紹介してない事に気づいた。
「私の名前、教えてなかったね。私は如月 星名。2年だよ。よろしくね。真崎君。」
(2年…俺より二つ上の先輩。それに「星名」って珍しい名前だな…初めて聞く名前…もしかしたら意外と気が合うかも…)
どうやら、遥は星名の珍しい名前が気に入ったようだ。しばらくして口を開いた。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。如月先輩。」
「っ…////」
笑顔で、「よろしく」と言ってくれた遥にドキッとしてしまった。その優しい笑顔から目が離せず、顔を赤くしてずっと見ていた。それと同時に鼓動がドキドキと高鳴っていた。