◆帰り支度
家出話のあたり
「忘れ物はない?」
西園寺に言われて、あたしは吹き抜けのリビングをさっと見渡した。
もともと着のみ着ままでやって来たから身軽なもんだ。
持ち物は財布と猫と、買って来てもらったパンツぐらいしかない。
すべて手にしているのを確認してから、あたしは頷いた。
「うん、大丈夫」
「よし。ちょっと待ってて、部屋から上着をとってくるよ」
「そういえば西園寺君の部屋ってどんな感じ? せっかくだし見てみたい!」
すると西園寺は、一瞬固まったのちにすかさず拒否してきた。
「ごめん、それは出来ない」
おや、なんだこの渋りようは。
そんな反応されたら余計に見たくなるじゃん。
「汚い部屋なら免疫あるからヘーキだよ?」
「そういうのじゃないけど。ダメ」
「えっちな本でも散乱してるの?」
「違う! 断じてそういうのじゃないから!」
「えーじゃあ好きなアイドルグッズでも飾ってあるとか?」
「……」
何気なく言っただけなのに西園寺の目が泳ぎだした。
え、ビンゴ!?
なにそれ絶対見たい!!
けどフツーにねだっても見せてくれそうになかったから、あたしは強硬手段をとることにした。
とりあえず表向きは諦めたふりを装う。
「そっか。なら大人しくここで待ってるね」
「そうして。すぐに戻って来るから」
安堵した西園寺が2階に上がるのを見届けてから、すかさずあたしも後を追った。
(慣れてるんだ、音を立てずに歩くの)
なんて中二病的な独白をしつつ、西園寺に続いてドアを開ける。
「じゃじゃーん! 来ちゃった!」
「うわっ」
ふっふっふ。すごい動揺してる。
こいつの弱みを握ったぞ!
あたしはほくそ笑みながら西園寺の部屋を見渡して――硬直した。
冷や水を浴びせられたような気分だ。
壁には引き伸ばされたあたしの写真が何枚も飾ってあったのである。