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番外編⑦ フィルベルト・アシュター

 アシュター公爵家の長男として俺は生まれた。アシュター公爵家は、国内でも有数の貴族で、その跡取りとして必要以上に才能を求められた。とはいっても俺はそれなりになんでもこなせるほうで、そういう重圧には正直そこまで何も感じていなかった。

 ただ俺がなんでもこなせて、それでいて一般的に見て美しい見た目を持っていたのもあって、初等部の頃から沢山の人々に囲まれた。アシュター公爵家の息子という肩書や見た目によってくる人間の多い事といったら、それはもう呆れるほどであった。

 正直、誰にも興味も持てず、関心も持てなかった。

 どうでもよかったというのが正しいのかもしれない。

 そんな俺が、ある一人の少女に興味を持ったのは中等部に上がってからのことだった。

 筆記試験の結果が張り出され、総合得点では俺が主席だったけれども、筆記試験では俺は二位だった。一位であるつもりだった俺としては驚いた。そして俺よりも上に並んでいたのは、ルビアナ・アルトガルというその名前だった。

 その女子生徒の事は少なからず知っていた。

 初等部からそこそこ有名だった。妹と弟の事を溺愛していると、そういう風に。

 対して気にも留めてなかった存在が、正直俺よりも上だと思ってもいなかった存在が、俺よりも高得点を取ったこと、そのことが悔しいと感じるよりも、それよりも、面白いという感情の方が湧き出て、そして俺はルビアナ・アルトガルに接触した。

 接触してみて、ルビアナの事をしって、なんて面白いんだろうって思ったのが最初だった。

 あいつは、俺がアシュター公爵家の息子だとか、見た目が美しいとか、そういうことを気にしていなかった。最初こそ、俺の事を様付で呼んで、他人行儀だったけれども仲良くなってそういう態度しなくていいといったら、「じゃあ、フィルって呼ぶ」ってあっけなくそんな風に笑ったのだ。

 萎縮してそんな風に呼べない人間も多くいる。俺がいいといってもそんな態度できない人間は数多くいる。だというのに、ルビアナはそういうことなかった。

 あとから俺にそんな態度をして潰されるとは思わなかったのかって聞いたら、驚いた顔をして言ってのけた言葉には笑った。

 ”フィルはそういうことする人じゃないって接してたらわかったから”ってそんな風にいったルビアナに興味が募った。ルビアナは周りにいる人間の事を大切にしていた。貴族としての人の情なんて、家族であろうと脆いものがある。だけどルビアナは父親の浮気相手の子供であったエドのことも、同腹の妹であるミカの事も同じように可愛がっていて、驚くほどに溺愛していた。家族が大好きだっていうことが話していればよくわかった。俺と仲良くなったのだから有頂天になってもおかしくないのに、むしろ俺に好かれていると思うかと思ったのに、そんなことはなかった。

 ルビアナは俺と仲良くしても周りに対する態度が一切変わらなかった。それでいて、ほかの女は俺がちょっと話しかけるだけで勘違いして暴走する女までいたのに、ルビアナはそんなこと全くなかった。一緒に居て楽で、傍にいると楽しかった。

 人と一緒に居て楽しいなんて感情、今まで沸いたことなんて全然なかったのに、ルビアナの傍は居心地がよかった。

 その感情が何かなんて、最初は全くわからなかった。

 周りの人間に、俺がルビアナの前ではよく笑うと指摘されて、それはもう驚いた。俺にはそんな自覚はなかった。今まで生きてきて、特定の人の前で笑うなんてそんなことなかった。そもそも俺は両親からも笑わない子だといわれていた。実際、俺は感情を外に出すことはあまりなかった。

 なのに、俺がルビアナの前ではよく笑っているだなんて、本当に驚いた。

 ルビアナは困っている人を放っておけない人間でもあった。首をよく突っ込んでいた。不幸より幸せなほうが絶対良いなんてそんなことをいって、動いていたりもした。

 そして俺のファンたちがルビアナを苛めた。

 ルビアナはそれを俺に言わなかった。俺に訴えかけることが一番手っ取り早いことであったというのに、そんなことをしなかった。

 他人には人に頼れというくせに、自分の事は自分で解決しようとするのがルビアナだった。俺が心地よいと思って、一緒に居て楽しいと感じてルビアナの近くにいるのであって、ルビアナから俺に近づいてきているわけではなかったのにファンというものは面倒だった。それは俺がきっちり話をつけてやめさせた。

 その時に、「フィルベルト様は、ルビアナ・アルトガルが好きなのですか?」などとファンの連中に聞かれた。正直そういうことは考えてもいなかったため、驚いた。

 俺は他人に昔から興味なんてなく、誰かに対してそういう恋愛感情を持つなんてことは今までなかった。

 だけど考えてみれば、俺はルビアナの傍が心地よくて、ルビアナが笑うと嬉しくて、他人にかかわるのは面倒だけどルビアナ本人やその周りの人間の事は知りたいと感じた。それはそういうことなのだろうか、と考えた。

 正直確信はなかった。

 だけどその後、ルビアナの事を好きだと騒ぐ男子生徒などの声を聞いたりするとどうしようもなく嫌な気持ちになって、ルビアナの隣にほかの男がいるのは嫌だと思っている自分に気づいて、俺はルビアナの事が好きなんだと自覚した。

 ただし、ルビアナはなんともまぁ、驚くぐらい鈍感で、俺がルビアナへの思いに気づいて、ルビアナに対して特別に接しているというのに、一切気づいていなかった。むしろ周りの生徒たちの方が俺の気持ちに気づいたことだろう。

 仲良くしているうちにルビアナは俺になんでも話すようになった。何かあると俺に相談しにくるし、俺に話しかけてくる。ルビアナはおそらく俺の事が好きだろう、という思いはあった。しかし自覚してからの方が面白い。それならば、ルビアナがその間に人にとられないように、そして、実家にも了承をもらっておこうと俺はそれから行動をした。

 で、ルビアナが自覚するまでは本当に長かった。

 あのアイルアが転入してきて、色々あってようやくルビアナは俺の婚約者になった。

 転生者だとか、前世の物語の世界だとか、そういうのを聞いても俺が信じたのはルビアナが好きだからで、ルビアナが俺に嘘をつかないって知っていたからだ。でもだからといってルビアナがルビアナであることは変わらないから、アイルアのことも救いたいって必死なルビアナのために動いた。

 あの転入生は学園にとっては害だったが、ルビアナが自覚するきっかけだったのだから、そういう点でいえば感謝できる。きっかけがなければルビアナは気づかなかっただろうが。

 

 そして今――――、


 「ルビアナ」

 「フィル」

 ルビアナは俺の隣で幸せそうに笑っている。

 そのことに俺はどうしようもない幸福を感じるのであった。








これで番外編も一旦終わりです。また思いついたら多分何かしら書きます。では、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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