番外編② リサ・エブレサックの幸せ
リサ様目線です。
――――この世界が乙女ゲームの世界だという事を、聞いた。
そして私リサ・エブレサックが、攻略対象であるシエル・エブレサックとライバルキャラであるリーラ・エブレサックの母親として登場するという事を。
前世の記憶において、友人の一人が乙女ゲームが好きでどういうものかは知っていた。知っていたけれども、もう何十年も生きているこの世界がそういうものだなんて私は考えてもいなかった。
たとえ、そうだったと知っても正直私には関係がない話だ。
私は家族が、シィクとシエルとリーラが、只幸せに生きられるならば、それだけで全てが良かったのだから。
ルビアナ・アルトガル―――その話を私にしてくれた少女の事を思う。
今、私の家に滞在しているメルト・アイルアの事をどうにかしたいと必死だった少女の事を。
メルトさんは現在、エブレサック家で勉強をしている。これから、この世界で生きていくための勉強を。だけれども、私がメルトさんを家に置いているのは決してルビアナさんのようにメルトさんを思っての行動ではない。私は私の家族にこれ以上の悪い影響がないように、メルトさんをまともにしたいというそれだけの話だった。
ルビアナさんは、見返りも何もなく、只不幸になってほしくないと行動を起こしいていた。正直、ああはなれないなと思う。
昔、シィクが惚れていた少女はヒメ・メシープルという名の女の子はすべてを救えるとでもいうように人の闇に簡単に触れ、常に笑顔であった。彼女がシィクを壊しかけた。でも彼女とは、ルビアナさんは違うとは思う。
そういう風に楽観的であるというわけではない。私と同じく、転生者であるからそれなりに精神年齢も高いだろう。頑張ってもどうにもならないものがあると知っていながらあれだけ一生懸命動ける人なのだろう、ルビアナさんは。
私は前世も含めてシィクと、そして子供たち以外に情がわいたことなどない。幸せになってほしいと願ったのは、シィクがはじめてだった。私は周りが言うように『優しい』わけではない。
ただ自分が生きやすい環境を整える、という事を前世から行っているだけであってルビアナさんのように他人に対して一生懸命になるという事は出来ない。そう、私ならそういう場面に遭遇したら自分に火の粉がかかってきた場合、誰かからそれで相談された場合、これ以上手を煩わされるのは平和ではないと周りを使ってそれを収めることをするだけだ。そこに、情はない。
シィクは、私が転生者ではなかったらルビアナさんが言っていたように壊れていたのだろうかと昔を思う。
人に執着してしまうシィク。そんなシィクを一度受け入れるといっておきながら、捨てたヒメ・メシープル。捨てられたシィクは壊れかけていた。そんなシィクに、私は近づくつもりはなかった。ただ、見ているだけのつもりであった。
でもシュアがシィクに働きかけ、シィクがこちらに近づいてきて、そして結果として恋人になって、結婚して、子供ができた。
前世では感じたことがなかった感情を、私は確かに感じている。誰も大切に思えず、誰かがいなくなっても悲しんでいるふりはできても、悲しむことができなかった私が、シィクの傍にいたいと、失いたくないと感じている。
そして確かに、幸せを感じている。シィクの傍にいて、夫婦であれること、子供ができて家族団欒ができること。どうしようもないほど、幸福だ。
「ねぇ、シィク」
私は、シィクに話しかけた。
シィクがこちらを見る。執着を帯びた瞳がこちらを見ている。けれど、それが逆に心地よい。執着しているのはシィクが私を特別と思っているからであり、それは嬉しい事だった。
「シィクは、幸せ?」
問いかけたのは、昔を思い出したからだ。
昔、私はシィクに告白された時に一度断った。幸せになってほしいからと、私は貴方を傷つけてしまうかもしれないと。だけど、それでも私がいいと言ってくれた。
幾ら私は冷たい人間だと、傷つけるかもしれないと、貴方の本質に耐えられるかわからないと、そう告げても、私がいいと言ってくれたから。
私はシィクに、幸せになってほしかった。
ずっと、ずっと見ていた。何にも興味がないようで、特別に執着してしまう不安定なシィクの事を。かかわるつもりはなく、幸せになってほしいと学生時代願ってた。
笑ってくれればいい、幸せになってくれればいい。それだけでいいと、思ってた。
幸せになってほしいといった私に、昔シィクは言った。
私がシィクの物になれば、シィクは幸せだと。そういってくれたから手を取った。シィクの事を幸せにしたかったから。
だからこそ、それから時間が経過した今、ふと気になった。
私はこの人を幸せにできているのかと。
「どうしたの、突然」
「昔の事を思い出したのよ。私は貴方を幸せにできないって一度告白を断ったことを。私は今、シィクを幸せにできているかなって思ったのよ」
そういったら、シィクは笑った。
「当たり前。リサがいるから、俺は幸せだ」
「そう、それなら良かった」
私はシィクを幸せにできているらしい。それにひどく安心して、嬉しくなる。
学生時代、幸せになってくれればいいと願ってた。私はかかわらないけれど、別の誰かと幸せになってくれればいいと。でも、今はシィクの手を取ったことが良かったと思っている。
シィクを幸せにするだけではなく、私も幸せになれたから。
私はずっと、これからもシィクと共に生きていく。
リサ様はシィク含む家族以外は基本どうでもいい人です。
ただ書きたかっただけです。