リーラ・エブレサック 4
私は心が狭いのかもしれない。ただ、カイエンの事が好きで、だからカイエンが他を見ることが嫌で。ノーヴィスを追いかけているカイエンを見ると、心の底から嫌で。狂いそうなほどに苦しくなる。
私は基本的に自分でも冷静な人間だと思うし、周りからの評価もそうだろう。
―――でも、大事な存在の事となると、私は冷静さなんて欠片ももちあわせられないほどに、心を乱してしまう。
「リーちゃん、どうしたの?」
久しぶりに会ったカイエンの妹のミーコに、そういわれるぐらいには私はわかりやすいらしい。
お母様なら、ほとんど周りに気づかれることなく、動揺していても笑えるのだろう。私はまだまだで、もっと自分の感情を隠せるようにならなければとそんな風に思う。エブレサック家を継ぐのはシエルで、私は家を継ぐわけではないけれども、それでも私は貴族なのだから、自分の感情をもっと上手に隠せるようになりたいとそんな風に思った。
「少し、考え事をしていたの」
ミーコとも付き合いが長いから、隠す事は本当に難しい。
「お兄様が、何かした?」
「カイエンは何もしていないわ」
そう、私に何もしない。私はカイエンが好きだけど、カイエンはきっと私の事をそんな風には考えていない。カイエンが、私を好きだとささやいてくれたらどれだけ幸せだろうか。想像しただけで顔が赤くなりそうだ。
ずっと傍にいて、ずっと幼い頃から見てきて、心の底からカイエンが欲しい。カイエンが私のモノであればいいのにと思う。
紛れもない独占欲。それを私はカイエンに感じている。
だからカイエンが女子生徒に騒がれるのも嫌だし、カイエンがノーヴィスを追いかけるのも本当に嫌だ。私とカイエンは年も離れているし、カイエンが学園を卒業したら今よりも会えなくなってしまう。
人は変わっていく生き物だ。
生きているからその変化は当たり前だ。
でも、だけど、カイエンが私の傍から離れていくのが怖かった。手を伸ばせば届く距離からいなくなるのが嫌だった。ただの、我儘だ。カイエンの意志を無視はできない。
だけど、傍にいてほしかった。私を見て欲しかった。他の人なんて見て欲しくなかった。カイエンに、私がカイエンを愛すように、愛してほしかった。私はカイエンのモノになりたいし、カイエンを私のモノにしたかった。
こんなどうしようもない独占欲を私が抱くのは、カイエンにだけだ。
狂いそうなほどの激情が心を渦巻いていて、シエルとかに時々吐き出していなければ私はおかしくなっていたかもしれない。――それだけの気持ちがずっと渦巻いている。
「リーちゃんは、お兄様の事、大好きだよね」
ミーコはそういって微笑んだ。ミーコのいう私がカイエンを『大好き』だという意味がどういう意味かはわからない。だって私はカイエンの事を恋愛感情で思っている事はミーコに言っていなかったから。
だけど、ミーコはにこりと微笑んで告げた。
「お兄様は、リーちゃんの事、多分、リーちゃんが思っているよりも大事に思っているよ。あれだけ外面が上手いお兄様にとって、リーちゃんは特別な存在だよ。もちろん、シー君もだけど」
私よりも年下なのに、ミーコは私の心を察しているのかそんな風に笑うのだ。ちょっと情けない気持ちになった。ミーコは私にとって妹みたいな存在なのに、そんなミーコにこんな風に言われるなんて。ミーコの方がお姉さんみたいじゃないかと。
「---そうだと、嬉しい」
特別だったらどれだけ嬉しいか。でもその特別は何番目なのだろうか。一番目でありたいと願うのは、私が我儘だからだろうか。でも、そうありたいと心が叫んでいる。
「リーちゃんは、お兄様の傍にいると幸せそうだよね」
「……そう?」
「うん! 私、りーちゃんがそうやってお兄様の傍で笑っているの見るの、好きだよ」
無邪気な笑みを浮かべるミーコ。私はそんなにカイエンの傍では笑っているのだろうか。自覚は特にないけれども、ミーコがいうのならばそうなのかもしれない。
ミーコにとってわかりやすいらしい、私の気持ち。
ずっと心の中で渦巻いているこの気持ち。それをカイエンに告げたら、私とカイエンの関係はどうなるのだろうか。
こんなどうしようもない独占欲を抱いている事を知れば、カイエンはひいたりしないだろうか。だって私はただの幼馴染なだけなのに、私だけを見て欲しいなんてそんな感情を持っているだなんて。
もし、カイエンが私から離れたら? きっぱりとふられたら?
私をそんな風に見ていないとしても、例えば私を好きにならないとカイエンに宣言されたとしても、私はカイエンの事を好きな気持ちをなくせないだろう。
カイエンが誰かと付き合って、カイエンが誰かと結婚して、カイエンが誰かと子供を作って、そういうのを見ていかなければならなくなるのかもしれない。そんなの、想像するだけで狂いそうだ。
カイエンは、ノーヴィスに関心はあっても、今まで私が見ている限り恋愛なんて興味がなさげだった。でも、そんなカイエンに、心から愛する人が出来たら? 私はどうなるのだろうか。私は、正気ではいられないだろう。
ずっと、最近そんなことを考える。
乙女ゲームでのリーラはヤンデレを覚醒させていました。
現実では家族とか幼馴染がいるため、ゲームより精神的に安定しています。




