リーラ・エブレサック 2
カイエンを好きだと自覚してから、私は自分の心を制御するのにただ必死だった。
私はカイエンが好きで。
カイエンの傍にいる人たちをねたむぐらいには好きで。
独占してくて。私の事だけを見てほしくて。
シュア様が言ったからってほかの女の子に優しくしないでってそんな思いさえも沢山わいていて。
私はカイエンに―――。
どんどんわいてきたのは、そういう気持ち。
カイエンの全てを私だけのものにしたくて。私以外見ないでほしくて。私だけを、私だけの―――。
そういう気持ちがわいて仕方がなくて、
「リーラ? どうして怒ってるんだ?」
ってそんな風に聞かれるようにもなってしまって。
カイエンの傍で、挙動不審になってしまっていた。カイエンにそれで変な奴だって思われたらどうしようって、嫌われたらどうしようって思いながらもこの溢れんばかりの気持ちが抑えきれなくて。
誰かにあたってしまったこともあって。それで、初等部になじめなかった。
シエルとはクラスも違ったし、私もシエルも、特に仲良い友達なんてものは出来なかった。そしてそれでいいと思っていた。私とシエルと、カイエンとミーコと、―――私は、それだけの限られた世界があれば満足だという事に気づいた。
お母様のようになりたかったから、このカイエンに対する独占欲をどうにかして、それなりに人と仲良くしていきたいとは思っていたけれども、それでもカイエンを見ていると、どうしようもなく苦しかった。
カイエンの周りには沢山の人間がいて、私にとって限られた世界だけで満足だったとしても、カイエンはそうじゃなくて。カイエンは、ずっと一緒に居たカイエンは、私の知らないカイエンを、私の知らない場所で作っていくのだ。
学年が違うから、ずっと一緒に居れないから。
私の知らないところでカイエンは、私の知らない知り合いを作る。
私の知らないところでカイエンは、私の知らない思い出を作る。
恐ろしかった。悲しかった。苦しかった。さびしかった。
胸が張り裂けそうで、苦しいと思った。
そんな私に気づいたのは、シエルだった。お母様がいつも真っ先に気づくけれど、私たちは別邸から通っていて、傍にお母様は居なかったから。
シエルは、私の双子の兄であるシエルは、なんだかんだで私の事を家族として大切にしている、そんな人だった。
冷たいけれども、優しい。シエルは私の大事な片割れだ。
「リーラ、大丈夫?」
別邸内の私の部屋にやってきて、シエルはそう聞いた。
「大丈夫って、何がですの」
お母様にはカイエンを好きな事は言っていたけれど、シエルにいうの、なんだか恥ずかしくて心配してくれているシエルにお礼を言いたかったのに、口から洩れたのはそんな言葉だった。
「カイエンの事」
だけど、シエルは躊躇いもせずそういった。
「リーラ、カイエン好きでしょ。カイエン、女の子囲まれてて嫌そうな顔している」
双子であるシエルに隠し通すのは無理だったらしい。というか多分シエルは最初から気づいていたのだろう。
思えば昔からそうだ。
シエルは私が隠していることだって簡単に見抜く兄だった。逆に私もシエルが隠していることも感情もなんだかんだで理解していたりもした。
私とシエルは互いに隠し事など出来ないのだろう。
「うん、嫌」
だから、私はもういいやと正直に答えた。
「本当にすごく嫌なの。私ね、本当、どうしてこんなに我儘なんだろうって思うぐらいにカイエンがね、私以外に笑いかけているの、嫌なんだ。私の知らないカイエンがどんどん生まれていくのも、本当に嫌なの。私だけのカイエンでいてほしいなんて我儘なのに。他の女の子にカイエンが笑いかけていると、その女の子を消してしまいたいなんてダメな感情沸いちゃってね。
……私ね、家族とカイエンとミーコとそんな感じの限られた世界があればいいって思ってしまうの。カイエンがね、離れていくの、本当に嫌なの。カイエンが、私の知らないカイエンが居るのが嫌なの。私は、カイエンとずっと一緒に居たくて。怖いの。初等部で私の知らないカイエンが沢山いて、カイエンは私の傍からいなくなるのかなって。でも、私、カイエンがほかの人と一緒に居るのだけでもやだから。本当に嫌で」
一気にそういう気持ちを吐き出したのは、ずっと胸に抱いていたそんな気持ちを誰かに言えないことに、余計に苦しくて、こんな気持ちが耐えられなくなりそうだったから。
言いながら涙が零れてしまって。カイエンが離れてしまうと、さびしいと苦しいと、ずっと思っていたから。
「……大丈夫、カイエン、リーラ、大切思っている。俺に、いくらでも話していいから、抱え込む、ダメ」
ってそういって頭をなでてくれた。私を心配しての言葉だってわかっているから、私はまた涙が零れて。
「俺は、リーラを応援している。だから、頑張れ」
って笑ってくれるから。私は、どうにか暴走して何かをやらかしたりせずにすんだんだ。
シエルが、大丈夫だからって、抱え込まないでってそんな風に笑ってくれたから。
シエルがいなかったら私は初等部のうちからどうしたらいいかわからなくてやらかして、カイエンに嫌われていたかもしれない。
 




