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リーラ・エブレサック 1

リサ様の娘のお話。

 私のお母様は、とても美しい人。

 綺麗で優しくて、それでいて、本質的には冷たい人。

 優しさと冷たさが共同しているなんておかしいという人は居るかもしれない。でも、私はお母様の事を優しいとも思うし、冷たい人だとも思う。

 お母様は、私のお母様であるリサ・エブレサックは、家族以外に関心は特にない人である。お母様の娘として生きてきたからこそ、お母様の近くで生きてきたからこそ、私はそのことを実感している。近くにいなければ、お母様の本質はわからないものだもの。

 お母様は、そういう人。

 だけど、優しい人。お母様の本質は冷たいけれども、お母様は、私たちにとっても優しい。私たち家族に愛情を注いでくれていて、私たちの事大切だって態度で示してくれている。

 それにお母様は本質的には冷たくても、外にはあまりそれを悟らせない人だった。それでいて冷たかろうとなんだかんだで人を救っている。人に好かれている。人に好かれる天才―――それが、私のお母様。

 社交界の華にして、エブレサック家を敵に回したら大変なことになると言わしめる原因。お母様の人脈こそが、このエブレサック家の一番の武器である。

 お父様は美しい人で、エブレサック家の当主としてきちんとその役目を全うしている。

 私やシエルだって、エブレサック家の名にふさわしくなりたいと、そうやって頑張ってたらいつの間にか神童なんて大それた認識をされるようになった。

 お父様や私たちの人脈だってそれなりだけれども、それでもお母様のその力は私たちなんかの持っているものとくらべものにならない。

 私はそんなお母様の事を尊敬している。お母様に憧れている。あんな風になりたいと思う。

 私はお母様のように大切なものと大切じゃないものをあんなふうに割り切る事は出来ないけれども、お母様のように人に好かれる、憧れられる存在になりたい。

 ――――最も、それは難しい事だってわかっているけど。そうありたいって願う理想は誰にも否定できないものだってそう思うから。

 「お母様のようになりたい」

 私がそうはじめて口にしたのは、たぶん5歳とか6歳とかそんな小さな時の事でしたわ。

 「リサ様みたいに?」

 そんな私の隣には、カイエンが居ましたの。私より二つ年上の、シュア様の息子。

 カイエンと私とシエルと、そしてカイエンの妹のミーコとはずっと一緒に育ってきましたの。シュア様がお母様の事大好きで、よく家にやってきていたからというのもあるでしょうが。

 「うん、お母様みたいな大人になりたい」

 「リサ様みたいにかぁ、それは大変かも」

 「大変でもお母様みたいになりたいの!」

 「そうか、じゃあ頑張れば」

 「うん、頑張る、だから――」

 カイエンは、私の言葉にお母様の凄さをなんとなく理解していたからだろうけど、難しそうな顔をして、だけど頑張ればって応援してくれた。

 「私がお母様のようになるの、見ててね」

 って、私はそんな風に言いましたの。

 その当時は私はお母様の本質とか、よくわかっていなかった。そしてカイエンに対する気持ちも明確に理解しているわけではなかった。

 だけど、私は、カイエンに見ててほしいと思った。だから、そう口にしていた。

 カイエンを好きだと気付いたのは、それからしばらく経ってからの事だった。

 カイエンは、頭がよくて、見た目も良くて、シュア様の言いつけで女の子に優しくしていて、そんなカイエンだからこそ、大きくなるにつれ異性に囲まれていた。

 私やシエルよりも二年もはやく初等部に入学したカイエン。

 私はカイエンが学園にいってしまって、中々会えなくて、とても寂しかった。さびしいって言った私を、シエルとミーコが元気づけようとしてくれたのも良い思い出だ。

 そして、ようやく初等部に入学できるって年になって、私とシエルは学園の初等部に入学した。

 そこで、すっかり人気者になって、異性に囲まれているカイエンを見た。

 シュア様に言われたからか、女の子に優しく、そして穏やかな少年としてそこにあった。カイエンってその頃から外面を作るようになっていた。素の、カイエンを知っている身としてみれば私とシエルはそんなカイエンの姿が不思議だったものだ。

 それで、私は、嫌だったのだ。

 カイエンが異性に囲まれていることが。女の子がカイエンの事を知った風に語ることが。カイエンの傍に居ることが。

 年が違うからって理由で、カイエンと私は一緒のクラスにはなれない。一緒に入学して、一緒に卒業するなんてことなんてできない。

 なのに、年が同じだっていうそれだけの理由で、カイエンと一緒に居れる彼女たちが羨ましかった。カイエンの傍は、私の居場所だって、そんな風によくわかんない独占欲をいってしまいたくなった。

 初等部の一学期が終わって、実家に帰って、そこで様子がおかしい私にお母様は言った。

 「どうしたの」と優しい笑みを、安心させるような、私の大好きな笑みを浮かべて。

 私はそんなお母様に自分のわけのわからない気持ちの事を告げた。

 そしたらお母様は驚いた顔をして、だけど、次の瞬間とっても優しい表情を浮かべた。

 「―――リーラは、カイエンの事大好きなのね」

 ってそんな風にいって。

 「カイエンと、私とシィクみたいになりたいってことよね?」

 って、そんな風にも笑った。

 それで、私はカイエンのことそういう意味で好きなんだって気づいたんだ。



 それから、長い片思いが始まった。




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