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第02話 新人メイドの受難

久しぶりの投稿です。


誤字脱字には気を付けているつもりですが、問題点がございましたらご指摘ください。

『親父のせいで飯がまずい』


 少し前の王女ならばそんなスレッドを立てたことでしょう。おいしいはずの食事は全くのどが通らず、部屋は異様なほど静まりかえっていました。聞こえるのは皿と銀のナイフとフォークが擦れる音のみで、その場に居合わせ王女の後ろに控えている新人メイドのミンレイは褐色の肌に脂汗を流し、顔をこわばらせていました。


 ミンレイは後学のためだと言われ、侍従長のベアトリス・クリフォードに王女の食事を補佐するようにと言われこの場所にいましたが、まさかこのような事態になるとは思わず、先ほどからベアトリスにアイコンタクトを送ります。


『侍従長!!助けてください!!』


 しかしベアトリスは笑顔を浮かべるだけで何も言いません。しかも新人のミンレイとは違い自身の間と言う物を完璧に理解しており、時折ワイングラスにワインを注いだり、食器を下げたりと間を保っています。さすがはメイド歴30余年の大ベテランであり、ベテランなのは恰幅の良い見た目だけではありませんでした。


そして食事の雰囲気を悪くした本人である王はというと、そんな雰囲気はどうでもいいと言わんばかりに、眉間にしわを寄せ機械的に食事を口に運んでいました。


姫は心底つまらなそうに、目の前の食事を見つめるだけで一切手をつけず、一言も喋ろうとしません。


 それから時が10分ほど流れます。料理長は一度だけ食事の進み具合を見に来ましたが、あまりの雰囲気の悪さにすぐに下がってしまいました。賢明な判断でしょう。


 このまま時は無情にも流れ続け、ミンレイの胃に穴でも開くのではないか?そう思われたその時です。王はゆっくりと行動しました。まずナイフとフォークを置くと、口をナプキンで軽く拭いました。


「クレア」


久しぶりに名前で呼ばれた姫、クレアは体を一瞬震わせ反応しました。王は言葉を続けます。


「もう一度言う、お前は今年中に嫁げ」

「嫌です!! 」

 

クレア姫は叫びました。きっとこの叫びは、廊下はおろか近くの中庭にまで届いている事でしょう。


「お父様は仰ったではありませんか!! アーサー兄様がこの城を去った次の日に『お前は王位を継げ』と!! それなのに今になって……」


 王は眉間にしわを寄せ、言葉を探すように考えている様子でした。


「それに私が隣国に嫁いだとしたらレカス王家は一体どうなるのです!?」

「それなら心配はない」

「何が心配ないと―――――」

「アーサーは近日中に帰る」


 王が言い放ったこの一言でクレア姫は止まりました。この王の一言は姫にとっては嬉しくもあり、同時に辛く悲しい物でした。やっと自分は変わる事が出来たのにもかかわらず、最も尊敬し、そして憎い実の兄は全てを掻っ攫うのです。姫の目頭が熱くなり、口からは嗚咽が漏れます。


「勝手すぎます…………兄様も……父上も……」

「三日後にニコールで各国の重鎮が集まる会合がある。勿論お前の夫となる男もいる。好きにお供を連れて、ニチャン王国の名代としてお前が会合に迎え」


 クレア姫はもう何も言いませんでした。そのまま王に背を向け足早に部屋を去りました。部屋にはクレア姫の足跡が響き渡り、その足音が遠ざかるにつれて王の虚しさは増してゆきます。後に残ったのは静寂と、クレア姫の涙の残滓でした。


「お言葉ですがレカス王、今回ばかりは少しお考えが浅く見受けられましたが?」

 

今まで王の後ろに控えていたベアトリスが口を開きました。ベアトリスの行動にミンレイは今まで以上に顔を青くし、心臓の鼓動は異様に早くなりました。


「分かっている、だが私は王だ。良き父と良き王の両立は難しい物だ」


 王そう言いつつ食事を再開しました。ワインと一息に飲み干し、ワインを注ごうとしたベアトリスを手で制止します。


「ところで………デザートはまだか? 」


ベアトリスは王の言葉に苦笑しつつ、料理長にデザートを持ってくるように伝えに行きました。新人メイドのメイリンを残して。






 父との食事をすっぽかし、足早に去ったクレア姫はというと、すぐに自室に向かい着替えもせずにベッドに倒れこみました。王の話を聞き激昂したクレア姫でしたが、冷静に考えると少し不可解な点があります。王は隣国に嫁げといいましたが、実はニチャン王国には隣国が2つあります。一つは北東には位置し、農業が盛んでありそれで生計を立てているヨウツベイル皇国、そしてもう一つは北西に位置し、数十年前に建国した比較的に新しく、機械産業で名を上げるニコール帝国です。


ニチャン王国、ヨウツベイル皇国、ニコール帝国、これら3つの国はさながら三食パンのように互いに隣り合っているのでした。


「確か両国の王子には一度だけ会った事があったような? 」


クレア姫は思い出そうと思考を巡らせますが、ぼんやりとしか思いだすことが出来ません。再び2つ3つと思案した後にベッドから降りました。


「とりあえずお風呂………」


 考え事は浴室に限ると思ったのでしょう。ノソノソと体を動かし始めました。確かな空腹感を感じつつも、あとで厨房に寄ればいいと考え、部屋のドアを開けました。そして最初にクレア姫の目に入ったのは、一人の少女でした。さきほど見たような褐色の肌にあまり見ない腰ほどある黒い髪、真新しいメイド服、そう、新人メイドのメイリンです。


「あら?あなたは先ほど給仕をしていた方ですね? 」


 メイリンは突如現れた姫に面食らってしまい、手に持っていたバスセットを落としてしまいました。


「あ、えっと……私は……」


 メイリンの頭の中はオーバーヒート寸前です。やっと貰った休憩で気が緩んでしまい、仕事をするオン・オフの切り替えがうまく出来ません。またしても嫌な汗が体を伝い始め、右往左往してしまいます。クレア姫はあまり緊張しなくてもいいのに、となんとも姫らしくな1考えでしたが、メイリンが知る由もありません。


「あなたメイリンでしたかしら?これからお風呂に行く予定なら、少し手伝っていただけないかしら? 」

「え?」

「ほら、行くわよ。私が使っている浴室はとっても広いから気持ちがいいわよ」


 クレア姫は強引にメイリンの腕を引き、ズンズン歩きはじめました。メイリンも落としたバスセットを拾おうとしましたが、指先が軽く触れたのみで拾う事は叶いませんでした。


「そんなことしたら侍従長に叱られます!! 姫様と入浴なんて!! 」

「大丈夫です。バレなければ問題ありません。仮にバレたらあなたに体を洗うのを手伝ってもらったと私が直接言います。」


クレア姫はスコッピ事件があったおかげ? で人が変わったようになりました。しかし本質は中々変わらないようで、自分中心の考えはまだ変わっていないようです。


ですが、王家の人間はこのくらいの性格でなければ務まる事はないでしょう。少しぐらい強引なほうがちょうどいいかもしれません。しかし、この時ばかりはメイリンにとっては災難でした。メイリンの悲痛な叫びは王宮中に響きますが、その叫びはクレア姫以外に聞こえることはなく、クレア姫自身もその悲痛な叫びを気にすることもなくメイリンの腕を引いて、まっすぐ浴室に向かったのでした。


 クレア姫が寝起きしている建物を出て中庭を通り、浴室がある別館に入ります。この別館には娯楽室や来客用の部屋など、様々な用途に使われます。メイリンは別館に入った後に焦ったように言いました。


「姫様、本当に叱られてしまいます。それに私は寝巻を姫様の部屋の前に落としたままですし………」

「それなら備え付けのローブがあるのでそれを貸します、ほら服を脱いで」


 姫様は脱衣所に入りドレスを脱ぎ始めました。なんとも慣れた手つきであり、ドレスを着なれている事がよくわかります。それに対し、メイリンは観念したのかおずおずとメイド服を脱ぎはじめますが、まだ慣れていないようです。背中の紐の結びがうまく解けないようです。


「動かないで」


クレア姫はそう言って、紐の結び目を解きました。この時、こういう妹が欲しかったと何とも感慨深そうな表情でしたが、背を向けていたメイリンは知る由もありません。

 その後、姫様はさっさとドレスを脱ぎ去り籠に放り込むと、引き戸を開けて浴室に先に入ってしまいました。メイリンも慌ててメイド服を律儀に畳んで籠に入れ、小走りでクレア姫の後を追います。


「うわぁ………」


 浴室に入ったメイリンが最初に上げたのは感嘆の声です。石造りの床と、木で造られた柵で四方を囲まれています。浴室にしては少し寒いと感じ、視点を上にずらすとそこには満点の星空が見えました。


 しかし、メイリンはそこが外だということに気がつくと、扉の陰に隠れてしまいました。


「ロテンブロ、と言うそうです。海の向こうにある極東の島国の浴室を元に父が作らせました。吹き抜けなので雨の日は使えないですが、晴れの日には星空を見ながら入浴を楽しめるのですよ」


 端のほうで体を洗うクレア姫はそう言いながら手招きをしまいした。


「あの……誰かに見られたりとかしないんですか?」

「誰も覘く輩なんていないわよ、背中を流してもらえる?」


 ハイと小さくメイリンは答えました。慣れた手つきで石鹸を泡立てると、スポンジで背中を洗いはじめます。強すぎず、弱すぎず、絶妙な力加減はクレア姫を驚かせます。


「うまいわね、ここに来る前はどこで働いていたのかしら? 」

「いえ、家で家事手伝いをしておりました。家計が苦しくなったのでこの国に出稼ぎに……」

「家はどこに?」

「南の名もない島国です」


 メイリンの言葉にクレア姫はピンと来た。


「ハミュッツ連合」

「はい、その支配地に住んでおりました」


ハミュッツ連合、それは小さく点在する南の国々を纏める国家規模、いえ、それ以上の組織です。数年前に内部分裂を起こし内戦が勃発、今の連合は形だけの張りぼてとなりましたが、内戦が始まる前は大きな影響力を持っていました。


「父は内戦に巻き込まれ、その時に体を悪くしてしまったので私が働いているんです」

「大変ですね……」

「それほどでもないです。妹と弟たちが学校に行くぐらいのお金を稼がないと」

「下の子たちがいるのね?どうりで体を洗うのがうまいはずだわ」

「ありがとうございます」


 クレア姫はメイリンを褒めて感心しました。この時、クレア姫は1つの名案を思い付いたのです。


「あなた、ここで働いていると言う事は勿論読み書きは出来るわよね?」

「はい、ちゃんと試験を受けて合格しましたから………」


 クレア姫は嫌な笑みをふっと浮かべました。この笑みはまだ2ちゃん巡りをしていたころのクレア姫の顔です。


「あなた、私の専属になりなさい」



次回の投稿は未定です。

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