花畑
花畑。
ここは、昔住んでいたところにある花畑だ。誰も来ないここを小さい頃、勝手に自分の隠れ家にした。親にも、兄弟にも秘密。僕だけの楽園にした。
ここに招待したのは、ただ一人。百合のように可憐な女性、紗江だ。
紗江はここに来るなり、涙を流した。こんなに美しいものを見たことがないと、僕に言ってくれた。その時、僕は決めたんだ。
この人と、結婚しようって。
小さなダイヤの指輪を渡し、ありったけの勇気を振り絞ってプロポーズした。顔から火を噴くとはこういうことなのかと、その時初めて理解した。でも紗江の透き通るような瞳が、僕を真っすぐ見てくれから、恐くなかった。
「私からも、いつまでも一緒にいてください・・」
この言葉を聞いた時、世界の色が一変して、僕は飛び上がりそうになるくらい喜んだ。
幸せの絶頂とは、このことだ。
一緒だよ。死ぬまで一緒だよ。握りしめたこの手は、絶対に離さない。離さなければ、一生一緒にいられる。
僕は、そう信じていたんだ。
なのに・・・
結婚式の一週間前、紗江は突然逝ってしまった。本当に、呆気なく。僕が知らないところで、逝ってしまったんだ。
神様なんていないんだと思った。なぜ、紗江なんだ?!僕らが何をしたと言うんだ?!ささやかな幸福を望んだだけなのに、与えられた運命はこんなにも残酷。
もう会えない。昨日まで笑っていた彼女は、目を閉じて冷たくなっている。
葬式が終わった後、呆然としていた僕は誰もいないところで声を上げて泣いた・・。