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夢解  作者:
4/22

お仕事開始

 福島和美。高校一年。夢にうなされるようになったのは、高一になったばかりの春から。

 淑とミウミがE駅で下車すると、彼女の母親が迎えに来ていた。

「随分、苦しんでおられるんですか?」ミウミが心配そうな顔をして、母親を見つめる。

「えぇ、きっと驚かれるわ・・酷い顔をしてるから」

 彼女の母親は、不安そうな声で言った。

 着いた家は、まだ真新しさが残る赤い屋根の家。

「どっかから、引っ越してこられたんですか?」淑が聞く。

「高校が決まった春に・・」

 仕事に関して淑はいつも冷静沈着だ。大きな猫目で周りを観察して、場面場面を記憶していく。

「どうぞ・・」

 通された部屋のドアには、カズミROOMと書かれた可愛らしい札がかかっていた。

 母親は、そのドアを慎重に叩く。

「和美、入るわよ」

 ドアをゆっくりと開けると、ベッドの上に座っている女の子が目に映った。

 痩せこけて、青白くなった顔。目の下にできた隈は、彼女の苦しみを物語っている。その姿には、生きる気力というものが全く感じられなかった。

「体、大丈夫?夢解の方がいらしてくださったわ」

 和美の虚ろな目が、二人を捕らえた。

「彼女と、話してもいいですか?」

「えぇ、どうぞ」

 淑は不安そうな母親をよそに、ずかずかと彼女の側に寄る。仕事に関して、淑に遠慮は一切ないのだ。

「氷壁淑と申します。こっちは助手のミウミ」

「夢解って、なん、なんですか?」

 和美は、片言を懸命に出す。

「あなたのように夢に苦しむ人を救おうと結成された組織です」

 淑の言葉に、和美の目の色が変わった。

「助けて・・くれるの?」

「はい。必ず」

 キリッとした表情をする淑には、すがりたくなるような強さがある。

 


 あたしは、闇の中にいるの。どこだか分からない場所に・・とてつもない不安を感じているの・・。走って、走って、やっと見えてきた景色はどこかの池。辺りは静まり返っていて、霧に包まれているわ。恐いの。最初はそうでもないんだけど、なぜか徐々に恐怖に襲われてくる。

 そして、あたしの名前を呼ぶ声がする。その声は、段々近づいてきて、突然、水面にあたしじゃない人が映る。その人が、あたしを呼ぶの。その人をあたしは知らない。名前も、顔も見たことないわ・・。でも、その人はあたしを池に引きずり込もうとするのよ。腕を掴まれた瞬間、恐怖で叫ぶの・・。

 そして、夢から覚めるわ。

 この夢に、あたしはずっとうなされてる。あたしは、あたしは・・・

 きっと、夢に殺されるわ。


「和美ちゃんの話し、どう受け止めたんですか?」

「お前はどう受け止めた?」

「私は、絶対危険だって思いましたよ!このままだったら、和美ちゃんがあの世に行っちゃうのも時間の問題です!早急に手を打つべきです!」

 ミウミが自信満々に答える。

「・・無害だと思うがな・・俺は」

「へ?」

 淑の以外な返答に、思わず目が点になった。

「な、何言ってるんですか!あんなに苦しんでいるのに!」

「もし、誰かが意図的に彼女を死に至らしめようとしているのなら、もうとっくに殺しているさ。でも、一ヶ月経っても彼女は死んでいない。ここがポイントだ。苦しんではいるが、死んではいない」

 どういうこと?ミウミの表情はそう訴えていた。

「多分、引きずり込もうとしてきたっていうのは、あの子が勝手に抱いた過剰な妄想だな・・人は恐怖に陥ると、勝手な想像が働くんだよ」

 ミウミはまだ納得がいかないのか、腕を組んだまま難しい顔をして歩く。

「まだ夜には時間があるからな・・ちょっと行くぞ」

「え、どこへ?!」

 この展開が予想外だったミウミ、淑のテンポについていけていなかった。


 春だというのに、淑が嫌いな冷たい風が吹く。

 二人が向かったのは、和美が住んでいた前の住所。 

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