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夢解  作者:
3/22

夢職 氷壁淑

 N区にある『夢解 事務所』

 商店街に入り、スーパーに負けそうな八百屋と、今にも崩れそうな時計屋の間に挟まれた鉄筋コンクリートのビルの二階に、それはある。

 錆付いた螺旋階段を上がると、これまた錆付いたドアが現れる。表札も何もないため、素通りしてしまう可能性もあるのだが、面倒くさがりのここの主人は未だに何もしていない。



「先生!このままじゃ、ファックス壊れますよ!!」

 止めどなくファックスから溢れ出てくる紙、紙、紙。まるで、悪いものでも食べて吐き出しているようだ。

「うわぁ!本部からの連絡事項もあるじゃないですか!」

 大量の紙の山の中には、期限が過ぎた重要書類もあるようだ。

 紙の山を掻き分け出てきた三つ編みの女の子は、この事務所の雑用係であるミウミ。いつも黒のワンピースを着て、この事務所の主人と戦っている。

「先生?せんせぇ!どこぉ!!」

 ワンルームの部屋に、ミウミの声が響く。

「ダァァア!!」紙の山から出てきたのは、赤いショートヘアーの猫目の男だ。

「先生!生きてましたか!」

 ミウミは目を丸くする。

「ミウミィ・・腹が減ったよぉ・・」

 目に涙を浮かべて出てきた男は、この事務所の主人、氷壁淑だ。いつも右側だけが跳ねている髪型が特徴的。

「もぉ先生!いい加減、このファックスから溢れ出る書類、ちゃんと取ってくださいよ!」

「腹が減ったんだぁ」聞いちゃいない。

「・・ご飯の前に、大掃除です!!!」

 ミウミの怒鳴り声は、外まで響き渡っていた。



「野辺の野郎、またメンドイ依頼を送りつけてきやがった」

 ざっと百枚はある紙は、全てこの事務所にきた依頼だ。

「けど、野辺教授がうちのことを宣伝してくれるお陰で、依頼が来るんじゃないですか!有り難いですよ」

 ミウミの掃除のお陰で姿を現したガラスのテーブルに、温かいココアが置かれる。

「迷惑極まりない、クソ教授め!人の事務所をペラペラと喋りやがって」

 淑は、依頼書を放り投げた。

「うちは、野辺教授の依頼のお陰で成り立ってるんですよ!そんなこと言ったら、罰が当たります」

 淑の返事はなかった。

 夢解とは、夢に苦しむ一般人を救おうと、アメリカで結成された組織である。今のところ、アメリカ本部と、中国支部、日本支部、イギリス支部が存在する。

 夢から一般人を救えるのは、他人の夢に入る力を持った「夢職」と呼ばれる人たちだけ。この「夢職」になるには、長い修行を必要とする。そのせいか、ごくわずかしか存在しないのだ。特にこの日本に存在する夢解の事務所は、淑のところを含め三つしかない。

 依頼は、毎日数十件くる有様だ。

「この依頼なんて、至急って書いてあるじゃないですか!」

 くしゃくしゃになった依頼書を伸ばし、ミウミは淑を見つめた。

 十三歳という若さで夢職の地位に着いた淑を、ミウミも尊敬はしているが、彼のこの面倒くさがりの性格だけは受け入れられない。不満を抱きながらも、二人が組んでから三年が経つ。

「それに先生、いい加減、依頼受けないと今月の家賃払えませんよ!」

 淑の顔色が真っ青になった。

「家賃なんかに負けてたまるかぁ!!!」淑は勢いよくソファーの上に立ち上がった。

「先生!もう三ヶ月分たまってます!確実に負けてます!!完敗ですよ!」

 

 こうしてしぶしぶ、淑は依頼を受けるのだった・・。   

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