表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢解  作者:
21/22

淑の過去

 いくら記憶が薄れてもいっても、劣化しないものがある。深い後悔と、重い罪の意識に駆られ、それはまるで昨日のことのように覚えている。背負った十字架は、まだ下ろせそうにない。

 全てが夢であったら、どんなによかっただろう。目覚めたら何もかも元通り、変わらない時が回りだす。

 そうだったら、どんなによかっただろう。



「何だこれ?」

 机の前に出された紙切れに、淑は顔をしかめた。

「辞表です」

 ミウミが、真っすぐに答える。

「今回のこと、凄く反省しました。自分の未熟さに、嫌ってほど気づかされたんです」

 心臓の鼓動が、激しく動く。

「私は、夢職にも向いてなければ、先生のパートナーにも向いてません。よく分かりました・・野辺教授のところに戻ります」

 心がこんなに締め付けられるのは、行きたくないと言っているもう一人の自分なのかもしれない。

 できることなら、この素晴らしい夢職と、ずっといたかった。

「・・俺な、夢職になる前・・他人の夢に入っては、悪さばかりしてたんだ」

「・・へ?」

 淑の過去。聞くのは、初めてだった。

「面白い力に魅せられて、手当たりしだい他人の夢に入って、そいつの夢をぐちゃぐちゃにしてた。・・前に会った、烏と一緒にな」

 ミウミは、声が出なかった。

「夢の中で暴れるとな、そいつの生活変わるわけ。ムカつく担任の夢に忍び込んで、メチャメチャ暴れたらさ、そいつ次の日から精神病院入っちまった」

 信じられなかった。夢に関してエキスパートの淑が、そんな過去を持ってるなんて。

「面白かったんだけどな・・俺は段々、違和感感じてた。これでいいのかって、自問自答してた・・そんな矢先、俺は夢解の連中に捕まった。この力を悪用する可能性があるとして」

 想像できない。

 この冷静沈着、頭脳明晰な淑が・・

「烏も一緒に捕まったんだ。けど、俺だけはあのクソ教授に救われた」

 野辺教授・・

「クソ教授は俺に、夢解に入って夢職として働けって言ってきたよ。最初は、ツバ吐いてやったけど、あんまり真剣な顔して何度も言ってくるから・・徐々にあいつの目を見るようになった」

 あんなに真剣に、自分と向き合ってくれる人に初めて会ったんだ。

 いつも独りで、ここにいるのに誰も気づいてくれない。俺は、そんな存在でしかなかったから・・。

「淑、人生はやり直しがきくんだよ」

 だから、俺の名を呼び、そう言ってくれた野辺に・・ついて行くことにしたんだ。

「あの・・烏は・・」

 ミウミが恐る恐る尋ねる。

「あいつは、夢解を脱獄した。そして、クソ教授に寝返った俺を、今でも恨んでんだよ」

 淑が、どこか遠くを見つめている。その目はどこか淋しそうで、まるで涙を堪える子どものようだった。

「ミウミ、お前にも同じことを言おう」

 淑は咳払いした。

「人生はやり直しがきくみたいだ・・だから、やり直す気があんなら、ここでやり直せ」

 淑の顔が赤く見えたのは、気のせいだろうか。

「先生、私、ここにいていいんですか?」

「・・俺は反省しろって言ったんだ。辞めろとは言ってない」

 ミウミはそれこそ子どものように、大泣きした。

「第一、お前がいなきゃこの事務所がゴミ屋敷になる」

 掃除係でもいい、ここにいたい。もっと一緒に、色んな経験を積みたい。

 いつか、立派な夢職になるために。

「あ、ありがとうございます!!」

「分かったから泣き止め!うるせーんだよ!」

「先生、私、一杯一杯、頑張ります!!」



 素直に泣ける、こいつが羨ましい。素直に笑える、こいつが羨ましい。初めて会った時、その真っすぐな瞳に俺は、自分にないものを感じた。

 ミウミ、お前は大丈夫だよ。いつか立派な夢職になれる。お前は、俺とは違う。愚かな俺とは違うから・・。

 いつか、全てを話せる時がきたら、何もかも、お前の前でさらけ出していいか?そしたらお前は、俺のことを受け止めてくれるか?

 揺らぐことのない真っすぐな瞳で、俺を見てくれるか・・?

・・どうやって終わらせよう・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ