和美の夢
暗い、暗い。またここに、来てしまった。右も左も、上も下も、あるのは暗闇だけだ。声を出しても、返ってくるのはこだました自分の声。
そんな中をしばらく歩き続けると、急に視界が開ける。目に映る場所は、池だ。その池は、どこかで見たことがあるが、思い出せない。辺りは少し霧がかかっていて、吐く息は寒くもないのに白い。
試しにあたしは、池に手を入れてみるが、何も感じない。なぜ、ここに池があるのだろうか・・どうして?
「カズミちゃん・・」
突然、背後からあたしの名を呼ぶ声。
振り返っても、誰もいない。
「カズミちゃん・・」
まただ。
あたしは辺りを見回して、声の主を捜す。
「誰?」
「カズミちゃん・・」
声は段々近づいてくる。あたしは、正体の分からない声に体が震えた。
「誰なの?!」
叫んでも、叫んでも「カズミちゃん」しか返ってこない。
イヤだ、恐い。誰?あたしは頭を抱えて、しゃがみこむ。池に映ったのは、真っ青になった自分の顔だ。
「ねぇ・・カズミちゃん」
池の水面が揺れると、映っていた自分の顔がゆっくりと変わる。
「カズミちゃん・・」
現れた顔を、あたしは知らない。見たこともないし、記憶には残っていない。
「ねぇ、カズミちゃん!!」
水面からその子は姿を現し、あたしの腕を掴んだ。
引きずりこまれる!!あたしは、悲鳴を上げた。
目覚めた場所は、自分の部屋のベッドの上。大量の汗が、シーツの色を変えていた。呼吸が上手くできず、体はまだ震えている。
鏡に、真っ青な顔と目の下にできた酷い隈が映る。あれが・・あたし?あんなにやつれたの?
「和美ぃ!遅刻するわよ!」
母親の声が、頭の中に響く。朝が来たんだ、学校に行かなくちゃ。でも、頭が働かない。そういえば、ここ何日まともに眠ったことがない。
でも、学校に行かなくちゃ・・。
ふらつきながらもベッドから降りると、視界がぐるっと回転した。目の前は真っ暗になり、それ以降の記憶は止まってしまった。