リアル
東京タワーよりでかいドラゴンが、オレ目がけて飛んで来るんだよ。俺は何も持ってないから、最初は逃げているだけなんだけど、段々倒せるんじゃないかなって思えてきてさ。オレ、格闘ゲームとかRPG好きだから!タイミングを見計らって、オレはドラゴンに飛び乗るんだ。不思議なくらい、体が軽いんだぜ?
そして、ドラゴンに無事乗ったら、ドラゴンの頭とか体とか、叩きまくるの!どんなけ叩いてもオレは全く痛くないけど、ドラゴンは叩くごとに悲鳴を上げるの。
凄いだろ?オレ、毎晩そいつと戦ってんだよ!
ねぇミウミ、夢職なんでしょ?一緒にドラゴンを倒しに行こう!
空知の表情に、嫌とは言えなかった。夢職と嘘をついたのは、見栄を張った。
なけなしの、見栄・・・今となっては後悔している。
けれども、後には引けない。ミウミの家に行き、そこで彼の夢に入ることを決心した。淑がいなくても、ずっと一緒に色んな夢に入ってきたんだ。力は、きっとついているはず。
一人でも、大丈夫。
「ミウミ?」
我に返った。
「え?」
「大丈夫?」
一瞬、自分がどこで何をしようとしているのか忘れていた。けど、決心したことはすぐに頭の中に戻ってきた。
「大丈夫。ね、空知くん、今眠い?」
「ん・・ちょっとだけ。横になってもいい?」
「もちろん」
フワフワのクッションを貸し、空知はそれを枕に横になった。ちょっとだけと言っていたものの、学校帰りで疲れたのだろう、数分で寝入ってしまった。
「大丈夫・・先生のようにすれば・・」
手に汗を握りながら、ミウミは空知の夢に入って行った。
茨・・一面、鋭い刺に包まれた世界。四方八方、茨が敷き詰められている。
夢の中では痛みは感じないが、見ているだけで痛い錯覚に陥りそうになる。
「空知くん?」
辺りを見回すが、空知がいない。
「空知くん?!」
ミウミは、茨の中を走り出した。
どこ?彼の夢の中なのに、本人がいないなんて・・
「ミウミィ!」
声がした。安堵と同時に、不安も過ぎった。
「空知くん?」
彼の姿を発見したのはいいが、目の前の光景にミウミは絶句した。
空知の言った通り、そこにいたのはドラゴンだ。東京タワーより遥かに大きい・・
「空知くん・・本当に、コレに乗ったの?」
「うん。ミウミもきっと乗れるぜ、オレに任せて」
空知は生き生きとしている。その姿は、何か自信に満ちた姿だ。けれどもミウミは、まだ不安に狩られていた。
何か・・違う。
「ミウミ?」
ドラゴンなて、ファンタジーの本や映画でしか見たことないから、本物がどういったものなのかは知らない。だけど、ここにいるドラゴンのむき出しになった黄色い目や、ごわごわしている皮膚、羽の色、そして奇声は、まるで本や映画からそのまま飛び出してきたもののようだ。
・・リアルなんだ。そうだ、この夢はリアルすぎるんだ。
普通は、どことなくモヤがかかっていて、何が何だかよくわからない夢の世界が多い。が、はっきりと分かる茨の世界は、痛くないと分かっていても痛みを感じるくらいリアルだし、ドラゴンなんていないと分かっていても、あれを見たら恐怖におののくだろう。
何で、こんなにも・・
「ミウミ、何してんだよ!一緒に倒しに行こう!」
すると突然、ミウミと空知の間を引き裂くように、何かが飛んできた。
「キャァ!」ミウミは尻餅をつく。
飛び去ったのは、小さなドラゴン。まだいたのかと、ミウミは目を疑った。
「空知くん、大丈夫?」
「平気だよ。あんなちっこいドラゴンがいたなんて」
空知は、キョトンとした目でミウミを見た。
「ミウミ、どうしたの?」
凍りついたようなミウミの顔、震える体。
「そ・・空知くん・・う、腕・・」
「え?」
自分の腕に目をやる空知。血の気が引いた。
右腕が、ない・・・。
「・・わぁぁあああ!」
叫ぶ空知。
あの小さいドラゴンが、空知の右腕をくわえている。
落ち着け、これは夢なんだ。ミウミは自分に言い聞かせ、空知を落ち着かせようとするが、体が動かない。あまりにもリアルな場面に、腰が抜けている。
「そ、空知くん・・」
空知が気を失った。
まずい。夢の中で気を失うと、目覚められなくなる。淑が言っていた。
淑・・淑・・
「せ、先生!!先生!!」
泣き叫んでいた。何度も、何度もその名を呼んだ。
助けてほしくて・・
「呼んだか、ミウミ」
聞こえてきた声に、現れた姿に、ミウミの目から大粒の涙がとめどなく流れ出した。