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夢解  作者:
19/22

リアル

 東京タワーよりでかいドラゴンが、オレ目がけて飛んで来るんだよ。俺は何も持ってないから、最初は逃げているだけなんだけど、段々倒せるんじゃないかなって思えてきてさ。オレ、格闘ゲームとかRPG好きだから!タイミングを見計らって、オレはドラゴンに飛び乗るんだ。不思議なくらい、体が軽いんだぜ?

 そして、ドラゴンに無事乗ったら、ドラゴンの頭とか体とか、叩きまくるの!どんなけ叩いてもオレは全く痛くないけど、ドラゴンは叩くごとに悲鳴を上げるの。

 凄いだろ?オレ、毎晩そいつと戦ってんだよ!

 ねぇミウミ、夢職なんでしょ?一緒にドラゴンを倒しに行こう!



 空知の表情に、嫌とは言えなかった。夢職と嘘をついたのは、見栄を張った。

 なけなしの、見栄・・・今となっては後悔している。

 けれども、後には引けない。ミウミの家に行き、そこで彼の夢に入ることを決心した。淑がいなくても、ずっと一緒に色んな夢に入ってきたんだ。力は、きっとついているはず。

 一人でも、大丈夫。

「ミウミ?」

 我に返った。

「え?」

「大丈夫?」

 一瞬、自分がどこで何をしようとしているのか忘れていた。けど、決心したことはすぐに頭の中に戻ってきた。

「大丈夫。ね、空知くん、今眠い?」

「ん・・ちょっとだけ。横になってもいい?」

「もちろん」 

 フワフワのクッションを貸し、空知はそれを枕に横になった。ちょっとだけと言っていたものの、学校帰りで疲れたのだろう、数分で寝入ってしまった。

「大丈夫・・先生のようにすれば・・」

 手に汗を握りながら、ミウミは空知の夢に入って行った。



 茨・・一面、鋭い刺に包まれた世界。四方八方、茨が敷き詰められている。

 夢の中では痛みは感じないが、見ているだけで痛い錯覚に陥りそうになる。

「空知くん?」

 辺りを見回すが、空知がいない。

「空知くん?!」

 ミウミは、茨の中を走り出した。

 どこ?彼の夢の中なのに、本人がいないなんて・・

「ミウミィ!」

 声がした。安堵と同時に、不安も過ぎった。

「空知くん?」

 彼の姿を発見したのはいいが、目の前の光景にミウミは絶句した。

 空知の言った通り、そこにいたのはドラゴンだ。東京タワーより遥かに大きい・・

「空知くん・・本当に、コレに乗ったの?」

「うん。ミウミもきっと乗れるぜ、オレに任せて」

 空知は生き生きとしている。その姿は、何か自信に満ちた姿だ。けれどもミウミは、まだ不安に狩られていた。

 何か・・違う。

「ミウミ?」

 ドラゴンなて、ファンタジーの本や映画でしか見たことないから、本物がどういったものなのかは知らない。だけど、ここにいるドラゴンのむき出しになった黄色い目や、ごわごわしている皮膚、羽の色、そして奇声は、まるで本や映画からそのまま飛び出してきたもののようだ。

 ・・リアルなんだ。そうだ、この夢はリアルすぎるんだ。

 普通は、どことなくモヤがかかっていて、何が何だかよくわからない夢の世界が多い。が、はっきりと分かる茨の世界は、痛くないと分かっていても痛みを感じるくらいリアルだし、ドラゴンなんていないと分かっていても、あれを見たら恐怖におののくだろう。

 何で、こんなにも・・

「ミウミ、何してんだよ!一緒に倒しに行こう!」

 すると突然、ミウミと空知の間を引き裂くように、何かが飛んできた。

「キャァ!」ミウミは尻餅をつく。

 飛び去ったのは、小さなドラゴン。まだいたのかと、ミウミは目を疑った。

「空知くん、大丈夫?」

「平気だよ。あんなちっこいドラゴンがいたなんて」

 空知は、キョトンとした目でミウミを見た。

「ミウミ、どうしたの?」

 凍りついたようなミウミの顔、震える体。

「そ・・空知くん・・う、腕・・」

「え?」 

 自分の腕に目をやる空知。血の気が引いた。

 右腕が、ない・・・。

「・・わぁぁあああ!」

 叫ぶ空知。

 あの小さいドラゴンが、空知の右腕をくわえている。

 落ち着け、これは夢なんだ。ミウミは自分に言い聞かせ、空知を落ち着かせようとするが、体が動かない。あまりにもリアルな場面に、腰が抜けている。

「そ、空知くん・・」

 空知が気を失った。

 まずい。夢の中で気を失うと、目覚められなくなる。淑が言っていた。

 淑・・淑・・

「せ、先生!!先生!!」

 泣き叫んでいた。何度も、何度もその名を呼んだ。

 助けてほしくて・・

「呼んだか、ミウミ」

 聞こえてきた声に、現れた姿に、ミウミの目から大粒の涙がとめどなく流れ出した。    

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