嵐の予感・・
「いいねぇ〜淑ぅ!今も昔も、その冷たい目は健在だぁ!!」
気持ちの悪い、引きつった笑い声に、鳥肌が立った。
「田崎くん、メイさん・・キミたちはもう用済みだからぁ・・消えてくださいねぇ」
そう言った烏が手を二回叩くと、田崎とメイは一瞬にして消えた。
「せ、先生?!」
残されたのは、手錠だけ。
「俺の手錠ぉ〜!」烏は手錠を拾い、軽くキスした。
「今頃、二人とも記憶のないまま目覚めてるな」
「記憶がないって?!」
困惑したミウミは、無意識に声を荒げる。
「メイと田崎の中にある、俺らに関する記憶は烏によって抹消された」
見開いた目のまま、ミウミはそんなことをしでかした烏を見つめた。
「可愛い子だねぇ淑ぅ・・彼女、名前はなんて言うのぉ?」
烏の笑みに、ミウミは思わず淑の後ろに隠れた。
「で、烏。今回の目的は、俺に会うためか?」
「大当たりぃ!丁度使えそうな駒を見つけたんでねぇ〜利用しちゃったわけぇ」
いつも一人で、憧れる人を見つめる男。手が届かないとわかっているのに、食い入るように見ていた姿を見て、こいつは使えそうだと思った。だから声をかけた・・。
淑に会うために・・。
「やれやれ、モテる男は辛いよ」淑が鼻で笑う。
「分かってくれるぅ?俺ってば、キミを殺したいほど愛しちゃってるのぉ!」
なんて、不気味な目をする人だろう。
「そいつは困るなぁ。殺される前に、殺しとくか・・」
「クハハァ!!!キミに俺を殺すことはできないよぉ・・だって、俺の方が強いしぃ」
烏は舌を出し、口を回りをなめる。
「どうだろうな?試してみるか?」
「今夜はやめとくよぉ・・それに、俺は戦いに来たんじゃなくて、警告しに来ただけだからぁ」
「警告?」淑は眉をひそめた。
「そぉ!機は熟した・・俺らは行動を開始するぅ。死にたくなかったら、夢職を辞めることだよぉ〜」
行動を開始?
「わざわざソレを宣言するってことは、自分たちが勝つとでも思ってるのか?」
「当然〜!無力なお前らはぁ・・指でもしゃぶって見ていてよぉ」
烏が、ミウミに目をやった。
「こっちに来るかいぃ?可愛い子は大歓迎だよぉ」
目を逸らし、淑の腕を強く掴んだ。
正直、この場に立っていることさえ恐い。
「じゃぁそろそろおいとましようぅ」
舞台役者のように、烏は深々とお辞儀をした。
「警告はしたからねぇ淑ぅ」
「次会う日まで殺さないでおいてやること、感謝しろよ。烏」
淑の言葉に、背筋が凍りつくような笑みを残し、烏はその場から消えていった。
夢の中で殺しができるとしたら、この世には完全犯罪が多発する。他人の夢に入ることができる夢職には、それが可能だ。
殺し目的でこの力を使う奴らが現れたら。またそれが、組織化されたら・・太刀打ちできるのは同じ力を持つ、夢職のみ。警察だって入り込めないんだ・・。
あり得ない戦いが始まるのに、そう時間はかかりそうにない。
もしかしたら、嵐は目の前までやってきているのかもしれない。