突然の来客
突然の来客に、淑とミウミは固まっていた。
ピンク色の長い髪を高く二つに結び、二重の大きな瞳はなぜかブルー。モデル体系の彼女に、淑の目は点になっていた。
「・・メイさんって、あの・・ご本名ですか?」
「本名は逢瀬美和って言うの。五月にデビューしたから、芸名をメイにしたの」
メイと言う名は、淑が唯一しっている、ドラマ、ラジオで活躍するアイドルだ。
「あの・・そんな凄い人が、うちに何か?」ミウミも、緊張を隠せない。
「野辺先生の紹介で来たの。メイ、一ヶ月くらい前からよく眠れなくて・・」
初めて、淑は野辺がここを紹介してくれたことに感謝した。
「夢にうなされるの・・」
メイは上品に、出された紅茶を飲む。
「毎晩ですか?」
「うん・・」
ミウミの目に、メイの不安な表情が映った。
「それは苦しいですね・・ね、先生?」
返事がない。
「先生?」
口を開けたまま、ちゃっかり色紙を用意している淑。依頼人だということを、完全に忘れている。
「あの、サイン頂けますか?」
「もぉ先生!!!!」
珍しく仕事熱心だと思ったらこれだ!
メイは夢の中で椅子に座っている。目の前に、もう一つ椅子があってその席は最初、空いているそうだ。すると、誰かが来てその空いている席に座る。白いTシャツを着た、太めの男が目に映る。
男は座るなり、にっこり笑う。そして、質問しだす。家族構成、友達関係、服の趣味、よく行く場所、恋人はいるか・・質問はとめどなくて、耳を塞ごうとしたら、いつの間にか両腕が手錠で椅子につながれていて動かせない。
必死に抵抗しても、体は動かない。男の声が頭の中に響き続ける。
毎朝、泣きながら目覚めているようだ。
「気持ち悪い夢ですね・・」ゾッとしたのか、ミウミも顔色を変える。
「えぇ・・けどね、続きがあるの。もっと、恐い・・」
メイは身体を震わせていた。
「その男、メイの握手会に現れたの」
淑の目つきが、やっと変わった。
「メイ、すっごく恐かったんだけど・・頑張って笑顔作ったの。それで、握手したときね・・その男言ったの」
背筋がゾクッとした。
「どうして、僕の質問に答えてくれないの?って」
あの瞬間は、今も鮮明に覚えている。笑った男は、とても冷たい手をしていた。
「先生、何なんですか?こういうのって・・」
ミウミの問いかけに、淑の回答はなかった。
「淑さん、助けてください!」
目の前にいる、か細く初々しいメイ。世界中の美女でさえ、彼女のこの表情には勝てないだろう。
「依頼は、どんなものでも受けます。安心してください、メイさん」
・・この、いつもと百八十度違う態度の男は、一体誰?依頼はどんなものでも受けます?いつも渋い顔して、嫌々受けてるくせにぃ!!
「ありがとう。メイ、すっごい安心したぁ!だって、こんなにかっこ良くて、頼もしい方が守ってくれるんだもん!」
頼もしい?眉間にシワを寄せたミウミが淑を見ると、彼の目は完全にメイの笑顔の虜になっていた。