夢でもいいから・・
「紗江さんも、一安心でしょうね」
ミウミが紗江の墓石に手向けた花は、百合だ。
「あぁ」淑も手を合わせた。
「章吾さん、仕事にも復帰したみたいです。元気になって、本当によかった」
ミウミの笑顔は、何の屈託もない。彼女の笑顔を見ると、わけもなく安心する。
「先生には、心に決めた人とかいないんですか?」
「いねぇよ」
鼻で笑いながら答えた。
「憧れますよね、運命の人とか」
そうでもない。と言う代わりに、淑は首をかしげた。
「紗江さん、章吾さんはもう大丈夫ですからねぇ!見守ってあげてください!」
「墓石に話し掛けるなんて、変わってるな?」
呟いた淑に、ミウミは膨れっ面を向けた。
「紗江さんはちゃんと聞いててくれますよ」
「はいはい・・」力のない返事を返した。
人は、死んだら終わりだ。幽霊なんて、俺は信じない。一度失ったら、戻ってくることなんてないんだ。
「お前、死んだ奴で会いたい奴いるか?」
「そうですねぇ・・祖父に会いたいです。たまに、夢にも出てきますよ」
夢ねぇ・・それも、ミウミが抱く妄想だろう。
「先生は?」
「いねぇよ」
即答した。
夢でもいいから、会いたいと願った。けれども、現れることはなかった。
思えば俺は、アイツが死んでから夢なんて見なくなった。
「先生?」
不覚にも涙が零れそうになったから、慌てて背を向けた。
「帰るぞ」
「は・・はい」
そのことに、ミウミは気づいただろうか・・。