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夢解  作者:
11/22

解放

 夢解の奴は、僕が夢で死ぬと言っていた。どういうことだ?あんな若僧に、何が分かるんだ?僕は、夢を見ているだけだ。

 幸せな夢を・・

 医者なのに、僕は紗江を救えなかった。自分の不甲斐なさに、生きることを辞めてしまいたいと思った。紗江のいない生活なんて意味がない。

 紗江に会いたい。会って話をしたい、あの笑顔を見たい、手を握りたい、抱きしめたい。夢の中なら、彼女に会えるんだ。紗江に。

 紗江・・・

「動くなっ」

 誰だ?!

「お医者様、あんたを救いに参りましたよ」

 振り返ったそこに立っていたのは、あの夢解の連中だった。



「死んだ人が夢に現れるってのは、よくあることなんですか?」

「ああ。それ以外にも、大切な人や憧れている人が出てくることはよくある」

 勉強家のミウミは、鍵つきのメモ帳に書き込む。

「普通は、夢の続きってのは見られない。極まれにあるが、今回の医者のように毎回見るのは問題だ」

「私は、少し羨ましいですけど・・」

「あの医者の姿を見ただろ?多分、三度の飯より眠ることを優先しちまってる。あのままいけば、栄養失調になりかねないし・・それに」

 淑がどんよりとした空を見上げた。

「夢と現実の境目が分からなくなるのも、時間の問題だ」

 その身を滅ぼしても、会いたい。その気持ちが淑には理解できなかった。

「ま、救われたくないって思っている奴に手を出すのは困難だがな」

 ミウミは、確かに、と呟き腕を組んだ。

「けど私は、無理にでも救った方がいいと思います」

「・・当然だ」

 二人は目を合わせ、幸せそうな笑みを浮かべながら眠る章吾の夢へと入って行った。



「こ、ここで何してる!」

 章吾の目が、動揺している。

「何って、助けにきたんだよ」

 冷静な淑の姿が、章吾の怒りに触れた。

「邪魔しないでくれよ!!何なんだよあんたらっ!僕のことは放っておいてくれ!」

「そうしたいのはこっちも一緒だ。けど、家賃がかかってんだ!手ぶらで帰るわけにはいかねぇんだよ!」

 なんか、理由がカッコ悪い・・・。

「とにかくだ、お前をこの夢から解放する」

「やめてくれ!紗江に会えなくなる!!」

 淑の顔つきが明らかに変わった。

「あんたの婚約者は死んだ。医者のくせに、そんなことも分からないのか?」

「先生、言いすぎですよ!」

 ミウミが淑の腕を掴んだ。

「言いすぎ?事実を述べて何が悪い」

「死んだよ・・確かに死んだ。でも、夢でなら紗江に会えるんだ!だから・・」

 淑が吹き出した。

「夢でなら会える?バカか?あの女は、あんたが抱いた妄想によって生まれた、紗江に似ている女だ」

「何を証拠に・・」

 言葉につまる章吾。彼の目には、笑顔で立つ紗江の姿しか見えていない。

「本当の紗江なら、弱っていくあんたを見て何も言わないわけないだろ?哀しみに浸って、夢にすがりつくあんたに、紗江ならなんて言うか・・あんた分からないのか?」

 ・・紗江なら・・

 しっかりしてよ、章吾!

「紗江は・・」

「こんな夢に、いつまでいるつもりだ?死ぬまでか?それより医者なら、やるべきことが山ほどあるんじゃないのか?」

 章吾は、力が抜けたようにその場にしゃがみこんだ。

 そうだ、紗江がいつも言っていた・・。

『章吾には、人を命を救う力がある。あなたは、私が一番尊敬する人よ』

 紗江・・紗江・・・

 章吾は、声を上げて泣いた。

「・・さ、目を覚ますぞ」

 淑の声に、ミウミも頷いた。

 淑の手から光が生まれる。

「依頼人を解放せよ」

 その光は、優しく三人を包んだ。

「夢解・・」

 

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