夢で死ぬ
「大きな家ぇ・・」ミウミの開いた口が塞がらないのも無理はない。
立派な瓦屋根の依頼人宅は、大河ドラマにそのまま使えそうな家だ。
「依頼料、ふんだくってやろうかな・・」
淑の呟きに、ミウミも否定はしなかった。
インターホンを鳴らすと、着物姿の女性が現れた。
「依頼を受けました、夢解の氷壁淑です」
「お待ちしておりました。どうぞお入りください」
丁寧な言葉に、なぜかミウミが少し緊張した。
「す、素敵なお屋敷ですね?」
「もう古くなっていますんで、恥ずかしいですわ」
女性と話すミウミの不自然な笑みに、淑は思わず吹き出しそうになった。
屋敷の中は、時代を感じるほど古く、置いてある骨董品の数々には相当な値がつくのだろうと思った。この空間は、まるで時間が止まっているようだ。
客間に案内されると、高級さがあふれ出している和菓子を出された。淑は手を付けなかったが、ミウミはガキのように満面の笑みを見せながら食べている。
「依頼内容について、詳しく知りたいのですが」淑が話しを切り出した。
「はい、息子の章吾のことなんです。あの子、就職が決まってから何だかおかしくて・・ここ最近じゃ、それが酷いんです。特に、朝起こすなんてことはしたことないのに、今じゃ私が行っても全然だめなんです」
「疲れてるんじゃないんですか?」ミウミが、母親の様子を伺いながら尋ねる。
「始めは、医師として疲れているとは思っていたんですが、今は仕事も休職中ですし・・何だか私には、起きることを拒んでいるように見えるんです。前だって、何で起こしたんだって私に怒鳴ってきましたから・・」
そんな子じゃなかった・・母親はそう言いたそうだった。
「今、いますか?」
「えぇ」心配そうな目を、母親は淑に向けた。
「そうですか・・それと、寝言が気になるようですが・・」
「は、はい・・。サエって言うんです」
サエ?
「多分、亡くなった婚約者の名前です」
何となく、起きない理由が淑には見えていた。
「母さん?」
部屋のドアが開いた。
立っていたのは、息子の章吾だ。長身で、ひ弱そうな体つきをしている。全身が真っ白で、体は、今にも倒れそうなくらい細い。
ヤバいところまできている証拠が、淑の目に映る。
「お客さん?」
「えぇ。夢解の方たちよ」
母親がそう言うと、章吾は血相を変えた。
「夢解って、夢に関する相談にのるとこ?」
母親が、頷く。
「・・僕のこと相談してたの?」
「だって母さん、あなたが心配なの!サエさんの名前呼び続けているし、体もそんなに痩せちゃって・・」
「勝手なことすんなよ!!僕の体は僕が一番分かってるんだ!余計なお世話だっ」
怒鳴り声は、近隣に響き渡る。
「・・おい、あんた本当に自分の体を分かってるのか?」
「せ、先生!」確実にキレている淑を、ミウミは必死になだめようとしている。
「僕は医者だぞ?!当然だ!」
「医者だから?関係ないね。・・断言してやるよ」
母親も、ミウミも、この状況に動揺を隠せないでいた。
「あんたこのままじゃ、夢で死ぬぞ・・」