~旅立ち~
暗く血生臭い部屋の中、初老に差し掛かった男は片手にくたびれた用紙を持ったまま一点を見つめていた。
「・・・覇王の卵。」
男の見つめる先には、円筒形の水槽がある。
水槽には一定の間隔で脈動するチューブや無数の文字の羅列が直接書かれており、中には半透明な緑色の液体で満たされている。
コポッ・・・コポポ・・・
「私の【容れもの】となるに値する・・・クククッ。」
コポッ・・・コポポ・・・
水槽の中には、何か黒い塊が入っていた。
「もうすぐだ。もうすぐ私の願い・・・世界の破滅【ラグナロク】が叶う!!ククッ・・・クククッ・・・クカカカ!」
破滅への物語が始まる。
森の中にある木造の小さな小屋。
その中で寝ている者の顔に、窓から差し込む朝日が降り注ぐ。
「ん?・・・朝か?」
小屋の住人は、もそもそとけだるそうに起き上がる。
「ふわあぁ・・・眠い。」
ググッと背伸びをし、固まった体を解す。
住人は17・8歳位の青年で、肩までの黒い髪に黒い目をしている。
タタタタタタタタッ
「・・ッチ。」
外から聞こえてきた何かが走る音に、面倒臭そうに舌打ちをした。
バァァァァアン
まるで悲鳴を上げたような音を立て、ドアが開く。
「カイル!朗報だ!!金貨15枚!?」
部屋に入ってきたのは青年。彼は小屋の住人・・・カイルに話があったようだ。
「キース・・・五月蠅い。まだ日が昇って間もないだろうが、殺すぞ?」
カイルは朝が苦手なのか、かなり不機嫌そう言った。
「でさでさ!金貨15枚なんだって!!」
そんんかカイルに気が付かないのか、キースは興奮しきっている。
ヒュンと風を切るような音と共にトンと何か固いものが刺さる音がした・・・キースの顔の近くで。
「・・・ご、ごめんなしゃい。」
横目でそれを見たキースは、冷や汗が止まらなくなった。カイルがナイフを投げてきたのだ。興奮していたキースも、流石に大人しくならざる負えなかった。
「わかれば良い。それでなんだって?」
カイルはまだ眠いのか、欠伸をしながらベッドから降り、キースの脇を通り外へ出る。毎朝の日課となっている水浴びをするためだ。
「それがさ!金貨15枚貰えるんだよ!!」
キースはカイルの後について外へ出る。
「それだけじゃ解らないだろう。ちゃんと理解できるように言え。」
服を脱ぎ、全裸になりながらキースを睨む。
「えーっと、だから・・・領主のゼークの所で武術大会があるんだ。それで、その大会に優勝すると金貨15枚貰えるんだって!」
「なるほど。ゼークか・・・また無駄遣いをする奴だ。だが、そのお陰で俺らハンターは稼がせてもらえるか、そこは感謝だな。」
水浴びを終え、少し汚れがついている布で水けを取っていく。
「それでカイルはどうする?」
勿論行くよな?とニヤっと笑うキース。何か裏がありそうだな。
「そうだな、受け付けはいつだ?」
「昨日だ!!」
・・・・・・・
「もう一度言ってくれ。受け付けはいつ・・・だ?」
「昨日だ!」
聞き間違えではなさそうだ。