『推しの子』を勝手に再構築してみた
『【推しの子】』という漫画がある。
私は、この作品のキャラクターが素晴らしいと思っている。
星野アイから始まり、アクア、ルビー、有馬かな、黒川あかね、MEMちょ、斉藤ミヤコ……。
とにかく、キャラクターが立っている。
びっくりするぐらい立っている。
有馬かななんて、彼女に本気で恋をしてしまった読者も少なくないのではないだろうか。
ちなみに、私の推しはMEMちょである。
あの子、いいよね(笑)。
しかも、この作品を手がけたのは、赤坂アカ先生と横槍メンゴ先生だ。
『かぐや様は告らせたい』も面白かった。
『クズの本懐』も面白かった。
そんな二人が組んで作った漫画なのだ。
面白くないわけがない。
……と、言いたいところなのだが。
私は『【推しの子】』という作品について、どうにも納得できないところがある。
物語が中盤から失速してしまったことだ。
もちろん、面白いエピソードはいくつもあった。
芸能界の裏側を描いた話も興味深い。
登場人物たちの人間関係も魅力的だ。
しかし、作品全体の面白さという意味では、序盤を超えることができなかったように感じる。
特に、星野アイが殺害されるところ。
あそこが最大のピークだった。
そして、個人的には子供時代のアクアの方がずっと面白かった。
前世が医師であるアクアが、幼い身体で大人顔負けの行動をする。
その奇妙なギャップが面白かったのだ。
ところが、物語は復讐劇へと進み、中盤から終盤にかけて、私の中では面白さが失速していった。
そして、あのエンディングである。
アクアが神木ヒカルを道連れにして死亡する。
……。
いやいや。
これはないだろう。
もちろん、悲劇的な結末が悪いと言いたいわけではない。
問題は、その結末に至るまでの物語が、私には十分面白いものに感じられなかったことだ。
これだけ魅力的なキャラクターを生み出した二人が組んで、どうしてこうなった?
そんな感想を抱いてしまった。
かつて、私たちは似たような作品を知っている
『新世紀エヴァンゲリオン』だ。
テレビアニメ版の最終回。
あの「おめでとう」で終わるエンディングには、賛否両論があった。
その後、旧劇場版が制作され、さらに新劇場版として物語そのものが再構築された。
そして『シン・エヴァンゲリオン劇場版』へと至る。
私は、あの再構築によって、エヴァンゲリオンは最高傑作になったと思っている。
もちろん、旧作の結末を支持する人もいるだろう。
しかし、ここで重要なのは、一度完成した作品であっても、作り直してはいけない理由などないということだ。
しかも、エヴァンゲリオンは単にエンディングを変更しただけではない。
物語の途中から、まったく異なる展開を見せていった。
だったら、『【推しの子】』でも同じことができるのではないか。
これだけ素晴らしいキャラクターがそろっているのだ。
設定も面白い。
序盤も面白い。
だったら、途中から作り直してみたらどうだろう。
そこで……。
私は勝手に『【推しの子】』を再構築してみた。
もちろん、原作者の意図とはまったく関係のない、私個人の勝手な妄想である。
ここから先は、原作の重大なネタバレを含む。
また、原作と違う事件の真相を考えるため、独自の設定も加えている。
ご了承いただきたい。
アイの殺害は絶対に残す
まず、星野アイが殺害される事件。
これは絶対に残す。
なぜなら、この事件こそが『【推しの子】』という物語の出発点だからだ。
アイが殺害されたことで、アクアは復讐を決意する。
ルビーは母親の夢を追いかける。
双子は芸能界へと進んでいく。
したがって、アイが生きている世界を描くつもりはない。
ただし、事件の真相は変更する。
アイ殺害の真犯人は、神木ヒカルではなかった。
では、誰なのか。
私が考えた真犯人は……。
斉藤ミヤコである。
そう。
アクアとルビーを育てた、あのミヤコだ。
「ええっ!?」
と思われたかもしれない。
しかし、私はこれが十分に成立すると思っている。
ミヤコには秘密があった
ミヤコは、かつて性暴力の被害に遭いかけたことがあった。
襲ってきた男から逃れようとして、必死に抵抗した。
その結果、男が死亡してしまった。
もちろん、最初から殺すつもりなどなかった。
正当防衛が成立する可能性もある。
しかし、当時のミヤコは恐ろしくなり、その場から逃げてしまった。
警察にも届け出なかった。
そのまま年月が過ぎた。
やがて壱護と出会い、結婚する。
芸能事務所の仕事を手伝い、星野アイとも出会う。
ミヤコはアイを娘のようにかわいがっていた。
アイもミヤコを信頼していた。
しかし、ミヤコにはどうしても知られたくない秘密があった。
過去に人を死なせ、その事実を隠してきたことだ。
もし今さら発覚したらどうなるのか。
逮捕されるのではないか。
今の生活をすべて失うのではないか。
そんな恐怖を、ずっと抱えていた。
天才子役アクアの何気ない行動
ここで、幼いアクアが登場する。
アクアは前世の記憶を持つ天才児だ。
子供とは思えない言動をする。
私は、この頃のアクアが特に面白かった。
そこで、その才能を物語の重要な伏線に使う。
ある日、アクアは何かのためにミヤコの私物を勝手に借りてくる。
それをアイの部屋に持ってきてしまうのだ。
その品物は、ミヤコの過去の事件につながるものだった。
ただし、アイにはそんなことはわからない。
アクアももちろん知らない。
アイは、その私物をミヤコに返す。
「ミヤコさん、これ、アクアが勝手に持ってきちゃった。ごめんね」
「……見たの?」
「うん」
「……そう」
そこで、アイは何気ないひと言を口にする。
「でも大丈夫。私、誰にも言わないから」
アイは笑っている。
ところが、ミヤコは笑えない。
顔が青ざめる。
知られた。
そう思ってしまったのだ。
しかし、実際にはアイは何も知らない。
単に、ミヤコの私物について、ちょっとした秘密でも見つけたつもりになっていただけ。
ところが、ミヤコは違う意味に受け取ってしまう。
自分が過去に人を死なせたことを、アイが知ってしまった。
そして、誰にも言わないと約束してくれた。
……。
本当に?
誰にも言わない?
いつか、うっかり誰かに話してしまうのではないか。
もし壱護に知られたら?
警察に知られたら?
ミヤコは恐怖に取りつかれていく。
自分がかわいがってきたアイ。
娘のように思っていたアイ。
しかし、そのアイが、自分の人生を破滅させるかもしれない。
ここで、ミヤコは取り返しのつかない選択をする。
ミヤコは神木ヒカルを知っていた
ここで、神木ヒカルが登場する。
神木はアクアとルビーの父親だ。
ただし、今回の再構築では、神木がすべての事件を仕組んだ黒幕というわけではない。
アクアの前世である雨宮吾郎が殺された事件。
こちらには、神木が関与していたことにする。
神木はリョースケを使ってアイを襲撃しようとした。
しかし、襲撃は失敗し、吾郎が殺害された。
その事件のあと、斉藤壱護は神木の危険性に気づいていた。
壱護は妻のミヤコに話していた。
「あいつは危険な男だ。アイには近づけたくない」
このとき、ミヤコは神木の存在を知る。
そして、神木がアイの交際相手であり、双子の父親であることも知る。
もっとも、そんなことをアクアやルビーに知らせる必要はない。
だから黙っていた。
それだけのことだった。
ところが、数年後。
アイに秘密を知られたと思い込んだミヤコは、神木の存在を思い出す。
かつてアイを襲撃しようとした危険な男。
その男に、アイの住所を知らせたらどうなるだろう。
……。
ミヤコは神木に住所をリークする。
神木が何をするのか、確実にはわからない。
リョースケが再び襲撃する保証もない。
しかし、アイが死ねば秘密は守られる。
あとは運任せだ。
そして、リョースケがアイを殺害する。
ミヤコはアイを殺したかったのか
ここが重要だ。
ミヤコはアイを憎んでいたわけではない。
むしろ、本当にかわいがっていた。
殺したいほど嫌いだったわけでもない。
しかし、自分の秘密が暴露されることを恐れた。
そこで、危険な人物にアイの住所を流した。
もし何も起こらなければ、それでいい。
でも、もしアイが殺されれば、自分の秘密は守られる。
そして実際にアイは殺された。
ミヤコは自分に言い聞かせることができる。
「私が殺したわけじゃない」
「私は住所を教えただけ」
「本当に殺されるなんて思わなかった」
しかし、それは自分への言い訳にすぎない。
自分が危険な人物に情報を渡したことは事実なのだから。
だから、ミヤコは二人を育てた
ここで、原作の設定が生きてくる。
アイが殺されたあと、アクアとルビーを引き取って育てたのは誰だったか。
ミヤコである。
私は、この設定をそのまま残す。
ただし、意味が変わる。
ミヤコは、アクアとルビーを育てることを当然の責務だと考えていた。
なぜなら、自分が二人から母親を奪ってしまったからだ。
もちろん、二人への愛情は本物である。
決して演技ではない。
本当の母親のようにかわいがり、育て、成長を喜ぶ。
しかし、その裏側には、誰にも言えない罪があった。
これなら、ミヤコの魅力を壊さずに真犯人にできる。
そして、彼女の献身的な行動そのものが、終盤で新しい意味を持つことになる。
アクアは間違った犯人を追い続ける
さて、アクアである。
アクアはアイの殺害について、神木ヒカルを疑う。
それには理由がある。
神木は実際に、前世の吾郎殺害事件に関与している。
そして、アイの住所も神木からリョースケに伝わっていた。
だから、アクアは考える。
前世の自分を殺した事件と、アイが殺された事件。
二つとも神木が仕組んだのではないか。
実に合理的な推理だ。
ところが、実際には二つの事件の黒幕が違っていた。
最初は神木。
二度目はミヤコ。
アクアの推理は途中まで正しかった。
しかし、最後の最後で間違っていた。
しかも、事件の発端には幼い自分の行動が関わっている。
アクアは何も悪いことをしていない。
アイも何も悪いことをしていない。
それなのに、何気ないひと言をミヤコが誤解したことで、アイは殺されてしまった。
そしてアクアは、長年にわたって復讐を続けてきた。
最後にアクアが知る真実
物語の終盤。
アクアは、ようやく事件の真相にたどり着く。
神木は、アイ殺害事件の真の黒幕ではなかった。
事件を仕組んだのはミヤコだった。
自分とルビーを育ててくれたミヤコ。
ずっと母親代わりだったミヤコ。
そのミヤコこそが、アイを死に追いやった人物だった。
さらに、もう一つの真実を知る。
アイは、ミヤコの秘密など何も知らなかった。
ただ、何気ない言葉を口にしただけだった。
ミヤコが勝手に誤解した。
そして、殺害事件を引き起こした。
……。
さて。
アクアはどうする?
自分たちを育ててくれたミヤコを告発するのか。
ルビーに真実を伝えるのか。
それとも、ミヤコとの長い年月を考えて、別の答えを探すのか。
私は、ここに『【推しの子】』の新しいエンディングを作る余地があると思っている。
少なくとも、アクアが死ななければならないという結末にはならない。
どうだろう?
もちろん、これは物語の骨格にすぎない。
ミヤコの過去の事件。
アクアが持ち出した私物。
神木が再びリョースケを動かす理由。
アクアがミヤコの関与を突き止める過程。
そうした部分は、もっと丁寧に作り込む必要がある。
しかし、この構造なら、私は原作よりも面白い終盤を作れるのではないかと思っている。
しかも、主要キャラクターをほとんど変更する必要がない。
アイも、アクアも、ルビーも、有馬かなも、黒川あかねも、MEMちょも。
みんな、そのままでいい。
原作の魅力を残したまま、事件の真相と結末だけでなく、そこに至る物語そのものを再構築するのだ。
そして何より、私が好きだった幼いアクアの行動が、終盤で重大な意味を持つ。
最初に読んだときには、ただ面白かった子供時代のエピソード。
ところが、最後まで読んでからもう一度読み直すと、まったく違う意味に見えてくる。
そんな作品にしたい。
念のため言っておくが、私は『【推しの子】』が嫌いなわけではない。
むしろ、キャラクターは大好きだ。
だからこそ、あの結末が惜しい。
エヴァンゲリオンが物語を再構築したように、『【推しの子】』にも、もう一度新しい物語を作る機会があっていいのではないだろうか。
……。
もっとも、こんなことを勝手に考えているのは、私だけかもしれない。
しかし、これだけは言いたい。
あれほど素晴らしいキャラクターたちを、あの結末だけで終わらせるのは、もったいない。
それにしても……。
やっぱりMEMちょはいいよね(笑)。
あとがき
実は、今回の再構築を考え始めたとき、真っ先に思い浮かんだのが斉藤ミヤコだった。
というのも、原作を読んでいて、以前から少し引っかかっていたのだ。
ミヤコだけ、なんだか立ち位置がおかしくないか?
アイが亡くなり、壱護も苺プロから姿を消した。
それなのに、ミヤコは苺プロに残り、アクアとルビーを育て続ける。
もちろん、愛情や責任感という説明はできる。
でも、そこまでする理由が本当にそれだけなのだろうか。
特に印象に残っているのは、アクアの葬儀で、有馬かなに激怒した場面だ。
あのミヤコの感情の激しさ。
もちろん、母親代わりに育ててきた子供を失ったのだから、当然ともいえる。
でも、何かもっと大きなものを背負っているようにも見えた。
そこで、今回の再構築ではミヤコを真犯人にしてみた。
すると、驚くほど話がつながってしまった。
……。
ん?
ちょっと待てよ。
ひょっとして、原作の真犯人もミヤコなんじゃね?
いやいや、そんなわけないか。
……。
ないよね?(笑)




