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そしてプロローグへ

 ぐふ。ぐふふ。

 げへへへへへ。

 いろんな人間に声をかけた俺っちの評価は、疑う余地なく礼儀正しい貴族の鑑だ。絶対。うん。

 妄想は終了。


 各地の学生が集まりきったことでレーオン中央学院の入学式が始まり、我ら新入生一同は集められて……睡眠導入魔法を喰らっている。


「栄えあるレーオン中央学院の……」


 ……ぐう。はっ⁉

 危ない。また眠るところだった。


 近くにいるダリル君はしっかり聞いているようだが偉いもんだ。

 例えるなら心地よく温かい日差しを浴びている横で、聖典の音読をしている司祭がいたなら、誰だって眠ってしまうだろうに、彼の背筋は全く乱れていない。

 いや本当に、出てくる奴全員が似たようなことしか言わないせいで飽きてきた。

 それに噂の女神様たちを見れるかと思ったけど最前列にいるっぽいため、後ろの端の俺では物理的に無理だ。

 結果、酷く退屈な入学式で眠りを我慢……がま、ん。ぐう。

 はっ⁉ 分かったぞこの世界は崩壊する!

 ……なんだ夢か。


 人界のパワーバランスが崩れて世界が崩壊する夢を見てしまった。

【女神】、【聖勇者】、【聖女】の三セットが揃ってるのに、そんなことが起こる訳ねえよ。はははは。


「栄えあるレーオン中央学院の……」


 お爺ちゃん、それはさっきも言ったでしょ。

 って違うお爺ちゃんだわ。

 来賓だ。こういう時は来賓を数えて心を落ち着かせるんだ。


 流石に世界中から貴族の子弟を集めただけあり、入学生の数は男女合わせて軽く二百人以上。

 それに合わせて来賓は王家の人間、光の灯教の枢機卿。更によく分かんねえ偉そうな人間が大勢。


「栄えあるレーオン中央学院の……」


 ちょっとまって、ループしてないよね?

 知らないうちに悪魔とか魔人の罠にかかったりしてない? 大丈夫?


「今年度から学院長になるトバイアスです。皆さん、入学おめでとう」


 あ、ちょっと違う感じの人間が出てきたが……学院長を名乗る割には随分若い。

 二十代後半? 男ながらも真っ青な長髪に、柔和な光を称えた金色の瞳。優し気な風貌と長身。

 女の子が困っていたらそっと近寄り、助けるような優雅さを醸し出してる……なんかちげーな。

 ポエマー次兄がまさにそんな感じでアホほどモテるが、こっちは妙に取り繕ってる感がある。


「皆さんは大きく期待されているでしょう。しかしここは学びの場です。失敗することも、不安に思うこともあるかもしれませんが、それを補佐するのが我々大人の役割ですので、どうか皆さんも大いに頼ってください」


 あれだな。靴で頭を思いっきりひっぱたきたい。

 変に真面目な学院長としての言葉を言ってるからだな。


 正直に、皆さんかっこ公爵家以上の方。特に御令嬢。と言えばいいじゃん。

 学院全体の責任者風な発言をするから妙なことになるんだ。満遍なく視線を映しているように見えて、意識が御令嬢エリアから全く動いてないぞ。


 ロジャー兄上の無念の一撃とかいう訳分からん技術を喰らってる俺っちは、そういったことに敏感なのである。

 とりあえず要注意人物っと。

 ま、木っ端の俺が心のメモ帳に記載したころで活用する機会はないんだけどね。


「それでは男爵家、子爵家の皆様はこちらへどうぞ」


 あ、はい。どうも案内係さん。

 どうやら伯爵家以上は別の扱いらしい。ってそりゃそうだ。

 マナーも学ぶべきことも段違いなんだから、寮ならともなく学び舎で一緒にされたら付いていけねえよ。


「ダリル君、よくさっきの睡眠導入攻撃に耐えられたね」

「実は殆ど覚えてないんだ」

「これは達人だわ。ちなみに俺って露骨に寝てた?」

「う、うーん」

「沈黙は雄弁に語っている!」


 案内係に付き従いながら雑談タイム。

 一見すると優等生なダリル君だが、中々にやるらしい。そして俺はちょーっぴりやらかしてるらしい。


「いやでも仕方ないよケイ君。僕なんか無限ループに陥ってるんじゃないかと思ったくらいだし」

「あ、俺も俺も。顔上げて見たら違う人間だったから愕然とした」

「本当にね」


 やはり雑談。雑談は心にゆとりを齎す。

 一人と二人は大違いなのだ。


「ところでなんで外に行ってると思う?」

「僕的にはイヤーな予感がしてる……」

「だ、だよね……」


 なんで俺らは外に向かっているのか、誰か知りませんかねえ?

 兄上たちの話をもうちょっと真剣に聞いておくべきだったか……。


「これより体力測定を行なう。とりあえず走るんだ」


 校舎を抜けて馬鹿広い運動場に辿り着いた俺達を待っていたのは、ムキムキの教官たちだったとさ。

 なに⁉ 狭間の向こうの同胞よ! 鬱エロゲーにはふくらはぎの血流が重要とはどういうことだ⁉

 そういう概念の世界⁉ 純真だからまるで意味が分からない!


「さあ走るんだ!」


 ええい足を鍛えて何になると言うのだ!

 じゃあ一番先頭はいただきますね。


「あっ⁉」

「ふははは甘いぞダリル君! このケイには最後は一緒にゴールしようね。なんていう甘っちょろい考えは無ーい! 男とは頂点を目指してしまう生き物なのだー! という訳で男諸君、いざ尋常に勝負だ! ふはははははは!」


 男爵子爵の息子連合軍がえっ⁉ みたいな感じ俺に視線を送ってくるのが分かったが、新たな出会いを果たした男は夕日を背景にして戦うのがお決まりらしい。ならば今回は走力という分かりやすいもので男比べをするのだ!


 実際、こう言われてちんたらしてられない奴が走りだし、どうしていいか分からなかった者達も釣られて走り出す。

 どうっすか教官殿の皆さん。俺っち役に立つでしょ。だから兄上たちのやらかしは忘れてくださいね。

 問題があるとすれば短距離走じゃなくて疲れるまでってことなんだけど。


 それからしばし。


 あ、頭が割れる!

 心臓と肺もだ!


「走れ走れー!」


 後ろから俺らを追い立てる厳つい教官の声が響く。


「ひーっ! ひーっ!」


 マジで苦しい!

 自分でも若干運動音痴気味なのを自覚しているんだが、偉大なる長兄に付き合わされて体力だけはある方だと思っていた。

 しかし、数名の人間はくたばって虫の息とは言え、結構な数が残っているだと⁉


「おえっぷ」

「あ、気持ちよくなってきた」

「んぬおおおおお!」


 訂正。残ってる奴もいっぱいいっぱいらしい。

 今にも吐きそうな奴、最高にハイになってる奴、もう呻くだけの奴など十人十色の死体だ。


 ああ畜生! 体ってのは誤魔化せることができても、絶対に物理的限界が訪れちまう!

 精神は肉体を超越するとかいう奴がいるけど、ブレーキぶっ壊してるだけなんだから、物質界でそれやったら普通に死ぬっての!


「はっ。はっ。はっ」


 ダリル君も必死だ。

 かなり鍛えてる彼には多少の余力はあるが、それでも慣れない環境で思ったより体力を消耗しているらしい。


「負けた方がちょい辛料理にチャレンジ!」

「乗ったよ!」


 そこに俺がいらんこと言いいながら、ダリル君の横を通り過ぎるとすぐに追い抜かされた。

 食堂にあったちょい辛メニューに興味を持った俺らだが、実は罠的料理じゃないかと警戒して、その時はお流れになった。

 それを賭けることによって自身を追い込み奮い立たせるのだ!


「ここで豆知識! 入学最初期の体力測定で優勝すると豪華景品はありません!」

「だよね!」


 馬鹿やってるとは思うが、なんか喋ってないと死んじゃう生態しているため、とにかく適当なことを口にする。

 その間にも一人、また一人と脱落し、五十人以上の集団が十人ちょっとに厳選されていく。

 突然、爽やかイケメンボーイ、ケイ君に電流が走る。


「ギ、ギブアーーーップ!」


 あ、あ、足攣ったー!

 おのれ有機物質め! 主人に反逆するとはいい度胸だ!

 っていうかマジで物理的に動かせねえ!

 いだだだだだだだだっ!

 意識はビンビンに覚醒して元気いっぱいなのに、肉体が付いてこれねえとかどうなってやがる!


「な、鈍ってる!」


 思わず情けないことを口走ったが、よくよく考えると俺ってば、一か月馬車で揺られてここにきてるじゃん。生徒の中でもかなり長期間の馬車旅だから、そりゃあ鈍るか……。


 お、僅かに残った集団も次々に脱落し、一位になったのはーーーー……ダリル君!


「お見事! あんたが体力大将! さあ彼を称えよう級友諸君! それどころじゃないっぽいね」


 手を叩いて彼を祝福するが、周囲の反応は無い。

 し、死んでる……。

 なんならダリル君も、し、死んでる……。


「おー。今年の生徒はタフだな」


 中年教官が感心したように呟いた。

 やっぱりな、おかしいと思ったんだ。体力だけはあると思っていた俺が微妙な順位だったのは、この世代にガッツがありまくるせいだったらしい。

 あとでロジャー兄上方式のトレーニングしよ……。


「とりあえずこれが、現時点での君達の体力ということになる」


 うんたらかんたらごにょごにょぺちゃくちゃ。

 教官の声を適当に聞き流す。

 政務のお勉強とか実家でしてるでしょ? 勿論、勉学をするなら支援するけど、戦場の指揮官としてのお勉強や、交友を育んで悪魔や背信者、ヤバい化け物達に備えてね。という場なのだ。

 そして御令嬢の方は、花嫁修業や政務の知識を身に着けつつ、交友を広げていつか嫁ぐ家で人脈係となり、家を支援するのである。


「では解散」

「ダリル体力大将、生きてる?」

「ひょ、ちょ、ひょっと怪しいかも」

「ろれつも怪しいや」


 ありがたい教官の言葉がいつの間にか終わると、晴れて体力大将となったダリル君に声をかけたが、自己申告通り結構怪しいわ。


「や、やり過ぎたぁ……」

「何を言っているのだ大将。男とは馬鹿騒ぎして反省した後、またやっちゃう生き物なのだから、常時やらかしていると同義だ」

「そ、そういうものぉ?」

「そうそう。だから一位おめでとう! はい皆拍手!」


 へたり込んでいるダリル大将に拍手を送りながら称賛して、周囲のぴくぴくしているゾンビにも促す。

 偉大なる勝者とは、皆の賞賛を受け取るべき存在なのだ。


 その後俺たちは、わーっとやってきた使用人の皆さんに介抱され、無事生き延びることが出来ました。まる。

 まあ、攣った足が元に戻れば元気いっぱいなんですがね。


「ふーんふーん」


 鼻歌を歌いながら校舎を彷徨う。

 やっぱ疲れた体には美人さんを見るのが一番なのに、ダリル君を筆頭とする子爵男爵連合軍は完全に敗走しており、俺だけが孤軍奮闘している有様だ。


 じゃああれだな。図書室に行けば美人な司書さんがいてっ⁉

 直感だ。反射だ。こうしなければらないという断定だ。

 つまり。


「お疲れ様でっす!」


 体育会系である。

 ぞろぞろと歩いている三十人以上はいそうな一団は、俺が見たことないくらいのキラッキラッオーラを纏っており、一目でヤバい集団だということが分かる。

 そんな集団の前に立てばどうなるか分からないので、即座に隅によって頭を下げ、俺は壁だと念じてやり過ごすしかない。


「流石は女神様、聖勇者様、聖女様ですなあ。まさしく一騎当千。古今無双。強力無比」

「いやまったくだ」


 恐らく集団の中心部から声が聞こえた。

 俺はポエマー次兄がマジ何言ってるか分からないせいで、一言も聞き逃さない癖が付いてるから間違いない。

 夕焼けと夜の境界がどうのこうの。星の巡りがうんちゃらかんちゃら。みたいな感じで話されても分かんねえんだよ馬鹿兄貴。


 そんなポエマーのことは放っておこう。

 大事なのは口調的にどうやら当事者。つまり女神、聖勇者、聖女がいるっぽいことだが、若干反応に困っている感じだな。

 まあ、女性が猛将みたいな例えをされたらそりゃ困るか。


 尤も噂じゃあ、早くも三大美女とか言われているくらいに美人らしいが、直角に腰を曲げてる俺じゃあ顔はおろか靴だって見えない。


 そういや鬱エロゲーってなんだ?

 壁と一体と化す間の暇つぶしに、狭間の同胞よ情報プリーズ。


 え? 三大美女を堕落させるために、邪な連中が夢や精神世界とか言われてる場所に忍びこむ?

 それを知った俺にど、どうしろって言うんだ……かっこ震え声。

この後にプロローグ突入。

時系列が面倒になるのは分かってるんですが、盛り上がる話を最初にしておかないと、第一話と二話のpv数の差がヤバいんすよ(*'ω'*)実体験

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