とある青年
生まれた時のダリルは確かに祝福された。
双子の妹も同じだ。
すぐ後、称号が分かるまでは。
「ふ、【不幸なる者】?」
父母も、使用人達すらも絶句した、あまりにも直球な称号は赤子だったダリルの人生を壊した。
いや、これが通常の貴族家ならぎょっとするだけに留まっただろうが、ダリルの妹が得た称号のせいで話が更にややこしくなってしまった。
「リズベットは【聖女】なのに?」
妹、リズベットはなにもかもがダリルと対照的。あるいは彼の全てを吸い尽くしてしまったような存在だ。
後にあまりぱっとしない外見へ育ったダリルに比べ、リズベット天に愛されたとしか言いようがない美貌を持ち、更には偉大なる称号を得てしまったのだ。
それでも枢機卿の父はダリルを迫害するつもりはなかったが、体制や組織というものは異様なまでに体裁や面子に拘る。
「【女神】、【聖勇者】の称号持ちまで確認されたのだ。【聖女】の傍に【不幸なる者】がいるのは困る」
どこから聞きつけたのか、光の灯教とレーオン王国の王家が圧力をかけ、次代の看板になるリズベットたちの傍に、ダリルがいることに強い拒否感を示した。
この不幸を齎す称号は、死に直結するようなものではなく、単に巡り合わせが少し悪くなる程度で、歴代の所持者の多くは色々ありながらも生き抜いた。
しかし聖女の隣に並び立つにはあまりにも字面が悪く、流石に殺せとは思っていなかったが、かなり強い圧力で遠ざけろ。もっと言えばどこかへ養子に出せと要請し続けた。
それに光の灯教の司祭階級は妻帯も一応許されていたが、“家”を持たず子供や妻には相続権がないので、長男だろうと養子に出しても問題ないのは間違いなかった。
「兄上にお願いするしかないか……」
ダリルの父は、実家にいる兄にして現役の公爵に頼めばいい養子先を紹介してくれるか、場合によってはそのまま息子を引き取ってくれると思い頼ったが、本当に巡り合わせが悪かった。
本格的に接触したタイミングで公爵が突然、心臓のトラブルで命を落とし、前妻の子と後妻一派が相続でもめ始めたのだ。
これでは実家を頼ることはできず、なにより事情を知っている極一部の中でダリルの評価が完全に定まってしまう。
まさにこの巡り合わせの悪さこそが恐れていた事態だといわんばかりに、光の灯教や王家が圧力をさらに強め、最上級の貴族は家を傾けられたら困ると、ダリルを拒否した。
結局ダリルは、裕福ではあるが上からの命令には絶対に逆らえないストーン男爵家の養子。しかも元々長男がいたので家を継がない次男の養子という、貴族的には訳の分からない存在と化した。
そしてよりにもよって、十数年後のダリルに秘密が最悪の形で漏れた。
「つまり僕は……聖女様の兄?」
「はい、そうなります!」
明らかにストーン家の人間と違う髪色、目。更には不幸の称号を持ち、自身について自問自答していたダリルは父と妹の立場を知る。
その秘密を齎したのは彼の父の実家、つまりは公爵家の老いた使用人だ。
使用人の中でも最上位に近く、当時の騒動に若干触れる機会があったこの老人が、今更秘密を暴いたのは公爵家の現状が絶望的だったせいだ。
前妻の子と後妻一派が一年ほど争った跡目争いは、おどろおどろしい政治劇の果てに後妻一派が勝利したが、その勝因は前妻の子の病死。不審死だ。
外から見ればあまり怪しくなかったが、内で働いている者は強い違和感を抱き、なんとか正そうとしたときに、前公爵の弟の子という強い血統を持つダリルのことを思い出した。
「残念ながらダリル様の御父上はこの件に触れられず……」
老人にしても本来なら、ダリルの父に介入してほしかった。しかし聖女の父となったことで、雁字搦めどころではない状態に陥っており、老人から見ても公爵家への介入など無理と断じるほかなかった。
「我々が必ずや陰謀を暴きますので、ダリル様が正統を正してください」
だが……当時の政治的騒動や配慮は老人にとってどうでもよく、大恩ある公爵家の正統を正すために活動し、数年かけてダリルに接触する準備を整え今に至る。
……老いたというべきなのだろうか。それとも老い先が短いからこそ、仕方ないと思うべきなのだろうか。
なるほど、陰謀があったとしよう。それを暴けば公爵家を継ぐ者が、血統的にはダリルが最有力になる状況だ。それに加え聖女の兄、枢機卿の息子という看板も機能するだろう。
称号は多少気になるが、それでも今の公爵家を考えると何倍もマシなのが老人の考えだ。
しかしである。
片や存在理由すら分からない養子の次男で【不幸なる者】。片や世界の次代を担う【聖女】で、ダリルが養子となった原因の一つ。
いきなりダリルが渡される権力と、聖女達の後ろ盾を担っている家の家長、更には聖女の兄という立場。
更に真相を知ったリズベットが抱く罪悪感。
これらがもし間違った化学反応を起こした時の破滅的連鎖など、老いた使用人は全く考慮していなかった。
あるいはだからこそ、ダリルは不幸なる者なのだ。
「ダリル・ストーンです。ストーン男爵家の次男になります」
「これはご丁寧に。ウィンター家の三男、ケイです」
分岐の全てを叩き折られたのも、広義では不幸の内に入るのかもしれないが。
そしてもう一点。全ての分岐で発揮する機会はなかったがこの青年、異様に友情に厚く……親友なら男爵家の三男坊だろうが、公爵家の地位を手に入れれば妹に、彼へ嫁げと言い出しかねないかなり重い男だった。
鬱エロゲーにさっぱりした男などいなあああああい!(偏見)




