やはり気が利く男
えー。久しぶりにポエマー兄貴に会った数日後。
なんかレアさんのご実家、フォスター公爵家が俺の婚姻状況を確認しただけに留まらず、本格的にポエマーに接触してるらしい。
いやそんなことはいい。
マズい。非常にマズいぞ。レアさんが男爵家三男の俺なんかに嫁いだら、恥かくなんて言うレベルじゃねえ!
どう考えても政治的無茶振りでレアさん的には最悪な状況!
じゃあ仕方ないので、ポエマーにどんな感じかを聞いて、必要なら公爵家で裸踊りでもしましょう。
流石にそれだけやったら何とかなるだろ。うん。
ってな訳で、一旦ポエマーと合流だ!
「あれ?」
王都で宿泊している屋敷から出ると、少し先を行ったところに……制服姿のレアさんと侍女の人達がいた。
ひょっとして俺に御用です? すいませんね。ちょっと派手に踊るんで勘弁……んん?
「ケイ君、事情は聞いてるよね?」
「ちょーっと複雑なことになってることなら」
「私のためにならないから、公爵家で派手に踊るかー。みたいに思ってるでしょ?」
「ぎょっ⁉」
な、何故それを知っているのですか⁉ ひょっとして顔に出てた⁉
「やっぱりね。私が知ってる君ならそうすると思ってた」
「いやほら、どう考えても」
「ねえケイ君」
「は、はい?」
世界の道理は我にあり!
思った通りだと言わんばかりのレアさんに説明責任を果たそうとしたら、彼女がなにやら意味深な表情で近寄ってきた。
スゲーいい匂いですね。
あ、なんか耳元で囁き声が。
「君が思ってる百倍くらいは、私、ケイ君のことが好きだよ」
「ふぁっ⁉」
「じゃあね」
ふんわり微笑んで去っていくレアさんの後ろ姿を見送る……な、なにがどうなっている⁉
助けてポエマー!
大急ぎで館に向かう!
「やあ、そろそろ来ると思っていた。大いなる星の輝きに隠れた人を見るのは、泥の中から金を探すより余程難しいが、我が弟はそれを成したらしい」
「誰がどう見てもレアさんは称号持ちだから凄いんじゃなくて、頑張ってるから凄いんでしょう!」
「それを輝く剣には?」
「訓練中に端折った似たようなことを言った気はします」
すんげえ余裕な姿でいつも通りのポエムを発揮してる兄貴だが、予想外なことでむせたのは忘れねえぞ!
そんでポエマーが言うには、レアさんを聖勇者ではなく人間として見たのが作用したとか。そんなの当たり前だろうが!
「それでどうなんです?」
「輝きの剣は我が弟の意向を第一にと言ったようだが、逆を言えばそれが解消されれば、夜空に星が流れる如き速さで動くだろう」
「そんなに乗り気なんすか⁉」
「兄が見たところでは」
「でも俺ですよ⁉」
「自分をお喋りで賑やかなだけの小僧だと思うのは、我が弟の悪い癖だね」
し、信じられねえ。
いったいなにが起こっているんだ⁉ 世界の終わり⁉
「では世と時、星の流れを語ろう」
お願いしまーす。
あー。えー。
王太子的にはロジャー兄上が遠い親戚になってハッピー。
レアさんの兄貴的には、レアさんを追い出せてハッピー。
レアさん自身は俺と結婚出来てハッピー。
そんでウチの家的には、援助を貰えてハッピー。
俺はお喋りな仕事を貰えた上で、レアさんと結婚出来てハッピー。
そんな話って……本当かよ。
「どう思う?」
「いや、そりゃあ全部が本当なら嬉しいですけど……ええ?」
そりゃあレアさんみたいな、陰でずーっと努力してる優しい人と結婚出来たらいいなーとは思うけど、現実の選択しとして現れたらビビる。
「では進めよう。父も悪い話ではないと思うはずだ」
「あ、はい」
「自分が当たり前と思っているものを、他者が好むとは思えないものだが、現実にはよくある話だ」
「すんげえ分かりやすい言葉だけど、かえって分かりにくくなった……!」
普段のポエムじゃなくて、なんか人生経験の差を感じる普通の言葉だと逆に混乱するわ!
「それでは輝きの剣の屋敷に手紙を頼む」
「直接行った方が早いけれど、面子は大事ですものね」
「不文律というのは誰が考えたのやら」
「では行ってまいります!」
肩を竦めるポエマーから公爵家への手紙を預かった。
つまり俺が気楽に預かれる程度の内容しか書いてないんだろう。
非公式どころかつい先日、いきなり持ち上がった婚姻話の段階で王都の屋敷を預かってるポエマーが公爵家に直接行くと、余裕がなくガツガツした印象を与えかねないし、実家の父上達にも連絡が届いていない。だからこれからも仲良くしてくださいね。的なありきたりな手紙を交換する段階だ。
そう考えるとやっぱ手順を無視しまくってる、レアさんの兄貴はとんでもなくかっ飛ばしてるな。
そんで俺は当事者ながら単なる学生でもあるため、現段階の手紙を送る係としては適任だろう。
婚姻話の本人が王都の屋敷預かり役の手紙を携えて重要な案件だと理解を示しつつ、まだ無位無官の小僧ですからと言える丁度いい立場なのだ。
で、だ。
「何度も言わせないでいただきたい! レアの籍が王国にある以上、貴殿一人の要請には従えない!」
「それは分かっておりますが、こちらにも事情があるのですよ」
すんげえ揉めてる。
あそこは間違いなくレアさんの実家、フォスター公爵家の王都屋敷の筈だが……いるのはレアさんと、どことなくレアさんに似ている人。多分あの人がお兄さんで……相手は赤紫の服を着た温和そうな中年の司祭の三人だ。
「神に仕えるべき三称号の一つ、聖勇者が独自の行動を取られるのは私としても困るのです。少々よからぬ動きがある以上、神殿で保護されるのが最善だと思いますが?」
「だから! 何度も! 言わせないでいただきたい! 王家の! 許可を! 貰ってしてほしい!」
「総本山から命じられている以上、私も子供の使いではないのです。お願いします」
ふーむ。どうやらあの中年司祭、温和そうなのにかなり無理言ってるな。無言のレアさんはひたすら困惑してるし、そのお兄さんは血管がブチ切れそうだ。
聞けば三大美女の護衛を任されてるっぽいが、レアさんに限っては完全に指揮系統が違うため、余所の司令官兼司祭がやって来てもお願い以上は出来ない。出来ないのだが、事実上強制しようとしてるわ。
そんで実はこっちも子供の使いじゃないし、一応俺も王国の一員なんで見過ごすことは出来ないんすわ。
「ウィンター男爵家の三男、ケイ・ウィンターです! 王都の館を預かる兄、イライジャ・ウィンターからの手紙を届けに参りました!」
ほら、第三者もいるんだからここは落ち着いて……えっ⁉
「イライジャ・ウィンター⁉」
中年司祭が、こんなところにいる筈がないお化けでも見た様な顔になると腰を引き、今から現れる怪物に備えるように周囲を見渡した。
ちょっとポエマー兄貴ー。貴方本当になにしたんすかー?
しかしそれなら話が早い!
「ですがその前に! 学院ではお嬢様を巻き込んで騒ぎを起こしておりますが、訓練に必要なことなのでどうかご容赦いただきたいです!」
「う、うむ! 話は聞いている。だが訓練でのこと故、我が家も父上も気にしていない。しかしこのまま帰してはよからぬ噂が続くだろう。レア、お茶と菓子があった筈だな? 侍女を纏めて準備をせよ」
「は、はい!」
よし、レアさんの兄貴も乗ってくれた。
謝罪をしに来た者を屋敷に招いて、お茶を飲ませて帰らせる。そしてこの件は手打ちですよと振舞うのが貴族的習慣!
そんでポエマーにビビってる様子を見るにこの司祭は、俺がすぐ帰らないならこれ以上手出しはしない筈!
「……どうやらお取込みのご様子。自分はこれで失礼させていただきます」
凌いだ!
中年司祭はここにいたくない。つーか、俺の傍にいたくないと言わんばかりに足早に去っていった!
「はあ……助けてもらったな。感謝する。ネイハム・フォスターだ」
「ケイ・ウィンターと申します。厚かましいですが、お茶を楽しませていただきます」
「是非そうしてくれ。少なくとも王城にいる父上が戻るまで気が抜けん。ごほん。歓迎しよう」
なんかその場の流れで公爵家のお茶を飲むことになったんだが…… 上流階級のマナーとか知らないけど勘弁な!




