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不幸なる者の喜劇

 ケイの友人にして、斜め上を突っ走っているダリルもまた、養子先が持つ館を訪れていた。

 が。


「申し訳ありませんダリル様……ご当主様もこの行事の重要性を分かってはおられるのですが、途中の橋が大雨で落ちてしまったらしく……」

「あ、あらぁ……」


 流石は不幸の称号を持つ者。

 ダリルの養父だって、様々な貴族の子弟が王都に訪れ、更にその親も集うこの行事の政治的重要性を理解していた。

 そのため若干余裕をもって王都を目指していたのだが、運悪くその道中にある橋が壊れてしまい、館にいるのは元々いた家臣たちだけである。


「その様子を見るに怪我とかは無いんだよね?」

「はい。それは間違いありません」


 ダリルの問いに家臣は頷く。

 彼は養子先で虐待や軽んじらるようなことはなく、怪我の心配をする程度の情や関係はある。

 だが不幸の称号を持ち、妹は聖女。父は枢機卿のダリルを養父や次期当主の長男が、全く別の存在として扱うのは仕方ない。ダリルの疎外感の原因になっていても、どうしようもない事なのだ。


「大事にならなくてよかったと思おう。巻き込まれてたらぞっとするよ」

「はいダリル様。すぐお茶をお持ちいたします」

「うん。お願い」


 その養子先での疎外感も本当に少しだけ残っているが、今の彼は学院で馬鹿騒ぎする仲間と友人がいる。

 養父が無事で安堵したと心から口にしたダリルは、単に顔を見せただけでは館の者達に不義理かと思い、にこやかに頷いてお茶を楽しんだ。


 その後、ある程度の時間を潰したダリルは、学院生徒が宿泊している屋敷に戻ると、与えられた部屋でくつろぎ……厄介ごとに巻き込まれた。


「っ⁉」


 まだ日もあるのに、いきなりダリルの周囲だけが黒い靄に包まれ、部屋が現実とは思えないおどろおどろしい空間に早変わりする。


「っ⁉」

「ああ、落ち着いてほしい。少し君と話がしたいだけなんだ」

「誰だ⁉」

「言っただろう? 話をしたいんだよ」


 突然のことに慌てたダリルは部屋を抜け出そうとしたが扉は開かず、ならばと窓に体当たりしたがびくともしない。

 そしてどこからともなく響いた声に反応しながら、部屋の隅を背にして死角を減らそうとした。


「話すことなんてない!」

「君の妹への企みもかな?」

「た、企み……⁉」

「そうだ」


 威勢よく啖呵を切ったダリルだが、穏やかな謎の声に慄く。

 妹と親友を何とかくっ付けるために画策しているなど、当事者であるケイを含めて誰にも言っていない秘密だ。

 しかし確かに、訓練中のリズベットとケイを観察していたのは今思えばかなり露骨で、誰かに怪しまれても不思議ではなかった。


 そして思わず上擦った声を発したダリルの反応は、まさに真実を言い当てられた被告のようだ。


「妹の人生を木っ端微塵にするなど、人に、世間に、そして世界に言えぬ企みだ。しかし、分かる者には分かるのだよ。ああ、なんということだ。聖女が単なる女になればいいと思うなど、神をも畏れぬとしか言いようがない」

「違う! 彼女だってそれで幸せになる筈だ!」


 この言いようは間違いなく、ダリルの企みを確信している。

 清純の代名詞にならなければならないリズベットがケイと交われば、確かに聖女としての彼女は、肉欲を持つ女として扱われる。

 そうダリルには聞こえた。


 そして謎の声も、ダリルの反応で自身の確信を深めてしまう。


「いいやそれこそが違う。本当は、君の、望みの、筈だ。ええ? 彼女が堅苦しいと言ったか? 解放してほしいと言ったか?」

「うぐっ⁉」


 囁き声にダリルは反論できなかった。

 これをダリルが訳すと。

 戒律で雁字搦めの自由が無い妹は、ケイと結婚して新たな自由を得るだろう。というのは単なるお前の言い訳だ。本当は親友と離れたくないから親戚になりたい、お前のエゴに過ぎない。

 となる。

 ダリルが訳せば。


「少々言い過ぎてしまったことを謝ろう。そして神は救ってくれないが友人()は違う。君が辛いと思った時に、理不尽だと思った時に神は救ってくれたかな? いいやそんなことが起こりえないのは、君が一番よーく知っている筈だ。だからこそ、友人()だけが君を助けてやれる」

友人(ケイ)……それは……そうだけど……」

「そうとも、神は救ってくれない。だが君の考えは非常に正しいものだ。誰だって自分の幸せのために行動する。だから君も幸せになっていい」

「結局何が言いたい!」

「なーに焦ることはない。まずは君が公爵家の当主となった後、またその企み(聖女堕落)を聞かせて欲しい。君が思っているよりもずっと早いだろうがね」

「ま、待て!」


 謎の声は困惑するダリルを放っておいて、一方的に会話を打ち切る。


(ど、どういうことだ⁉ 僕以外にもケイ君と妹の結婚を望んでいる人間が存在するのか⁉ なぜ⁉ 光の灯内の権力争いが絡んでいるにしても迂遠すぎる! ひょっとしてウィンター家を取り巻く何かが絡んでいるのか⁉)


 ダリルは心の中でただひたすら困惑したが、ある意味において必然だった。


 真実を知っている者からすると、誰がどう考えてもダリルは現在の状況に満足している筈がないし、入学前の彼について調べると、それを肯定するような結果しか出てこないだろう。

 だから妹への嫉妬心と現状への不満を刺激すれば、非常に凄惨なことになる……のはちょっと前の話。

 その思い込み故に発生した喜劇だった。


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