ウィンター家の価値と次兄
なんだか世界観が汗臭くなってる気がする!
はっ⁉ 夢か。
じゃあロジャー兄上経由で王太子殿下に連絡して、三大美女の精神に侵入してきてる奴をチクるのだ!
という訳にはいかないっぽいんだよなあ。
狭間から垂れ流される情報によると、最初に侵入して来るはずの触手ちゃんは、やっぱ小動物レベルじゃないとおかしいっぽい。
じゃあどうしていきなり見張り台サイズがやってきたのか。
どうも狭間の考察によると、認知によって精神生命体に近い触手ちゃんは強化されるんじゃね? 的な議論が交わされたことがあるとか。掲示板? へー。便利だね。
そんで堕ちた三大美女が操られて、現実世界で話したから手が付けられくなった論が最近の流行らしく、強い奴が現実世界で触手ちゃん達を認知し過ぎると、ヤバイルート一直線になる可能性が高いとかなんとか。
で、だ。
はい。あの時、俺は触手ちゃん達を認識してたので、ちょっとパワーアップに加担してました!
ええー、ワンオペっていうの? 続行! 責任取って根絶やしにします! つっても責任は狭間の同胞にあるんだけどね。
現実逃避はこれでおしまい。
「ああケイ坊ちゃん。お待ちしておりましたよ」
「ざっと三十年ぶり!」
「ほっほっ。坊ちゃんは生まれておりませんなあ」
とある館の前で、使用人の爺さんに軽く手を上げる。
館の名前はウィンター男爵家、王都の館。
当主が王都に来たときに宿泊したり、代理人を置いて政治的中枢との連絡を取り合うための、貴族なら誰でも設置している館だ。
そんで俺ら学生は、実家が所持してる館に顔を出しとけということで、今ここに来る羽目になった。
そう、つまりはポエマー兄貴の職場だ。
「星の流れは緩やかでありながら、時として大きく動くね」
二十代中頃。腰まである長い金髪と、すんげえ細目から覗く真っ青な瞳。体調が悪い訳じゃないが驚くほど白い肌に細身な体型。平均的な身長の俺よりちょっと高い男性。
我がウィンター家が誇る時もあるし、匙を投げる時もある男。
「お久しぶりですイライジャ兄上。今日は結構分かりやすいですね」
ポエマー兄貴ことイライジャ・ウィンターが微笑んでいた。
いや、マジで今日は分かりやすい。
俺が学院に通い始めて、王都に顔を出したことを労ってくれてるんすよね。長いこと貴方の弟やってんで、それくらいは余裕で分かりますよ。
「身に収めた蔵書はどうかな?」
「パンパンですよ。隙間もないくらい励んでます」
「だが古い蔵書でも、栞をしておいてよかったと思う時はあるよ」
「温故知新って言うんですよね」
懐かしき兄弟のやり取り!
俺がガキの頃はこのポエマーマジで酷くて、人語じゃないレベルだったけど、流石にお喋りケイ君と話し続けていたら俗に染まり、一回解読するだけでよくなった。
なんならロジャー兄上も、俺の影響で一言か二言は喋るようになったため、俺のお喋り力は三兄弟最強と言っても過言ではない!
「でも今日は少し本を閉じるといい」
「ありがとうございます」
「三つの最も輝く星はどうだった?」
「頑張り屋さんで尊敬してますよ。まあ、今は王都騎士団と揉めてるんで、バッチバチに輝いてそうですけど」
「星に手を伸ばそうとする人間が増えた。そして人の欲と欲が結び、固着し、絡み合ったものをどうにかすしようとするなら、全てを切るか燃やすしかない」
「泣こうが喚こうがボコボコにし続けて、きっちり墓穴に叩き込むってことですね」
「清らかな鈴のような真理だね」
「ところで学院じゃあ、あいつらの弟かあ。みたいな感じを受けたんですけど、なにされたんです?」
「……」
「兄上の方は何も鳴りませんね」
「過去を見る時は光の加減によって大きく違うものだよ」
「なるほどー」
ちょっと久しぶりにこのやり取りしたわ。
そんでどうも、イライジャ兄上的にも王都騎士団は鬱陶しい存在らしく、出来れば潰れて欲しいなー。みたいな感じを醸し出してる。
この人、ロジャー兄上にひょっとしたらワンチャンあるんじゃね? レベルの人だから単独で騎士団を壊滅させることが出来はするんだろうけど、それが無理だから社会なのだ。
「輝く剣の家の異音がこちらに聞こえてきた」
兄弟仲良く食卓に座ると、ポエマー兄上が細くしなやかな指で流麗な顎を僅かに擦る。
輝く剣ってことは……。
「レアさんのご実家でなにが?」
「外の土と水を混ぜたらどうなるか、調べている足跡があった」
「え? レアさんって公爵家ですよね? なんで?」
「恐怖が見るのは先ではなく、過去だからさ」
「ひょっとしてレアさん、実家の跡継ぎとうまくいってない感じです?」
「兄と明らかにね」
うわ。ポエマー兄貴がしっかりとした口調で断言しちゃったよ。
そんで兄上曰く、どうも公爵家はレアさんを外様の貴族家に嫁がせようとしてるらしい。
この場合の外様とは狭間の知識とほぼ同じ。レーオン王国が世界を統べた統一戦争で、最後まで抵抗してた連中を意味する。
我らウィンター家も元はかなり血筋が良く、一応どっかの王族をギリ名乗れるレベルの存在で、山岳地帯に籠って抗戦していたとか。
そんな外様にレアさんを送り込もうとするとか、レアさんの兄貴はちょい血迷ってるな。
「外の畑で次が育つと、己には関係ないから安心できるんだろう」
兄上が嘲笑を浮かべている。
なるほど。確かに外様との間に出来た子なんて、初代国王の時から功績ある公爵家の相続権は無いに等しい。だがそこまで念入りにするとなれば、もう正気が半ばないぞ。
「という訳だ。そのうちの一人よ」
「ふむふむ……は? 頭打っちゃいました?」
「今の王冠は感情で反対するだろう。しかし次の王冠は、理性と感情で褒め称えるかもしれない。だから次の王冠からよくぞ気が付いたと。その献身を忘れぬと言葉を賜れば、輝く剣の兄の子は安泰だね」
「はいいいいいい⁉ ウチの家が滅茶苦茶になるじゃないっすか!」
「新たな芽を作ればいい。外と内を繋ぐ新たな芽を」
「俺が新しい家を作ったら結局意味ないんじゃないっすか⁉」
「必要なのは名ではなく血と役割。この二つだと判断すれば、可能性は多少ある。多少」
なんで俺がレアさんの旦那候補の一人になってんだ!
はいではここで、王国側のメリットについて考えてみましょう。王家に最も近い公爵家を介して、ロジャー兄上、イライジャ兄上が遠い親戚関係になります。マジ頼りになりますね。これだけでもお釣りが出ます。
というか、王太子の感じからすると万歳三唱しそう。
じゃあ直接王家の娘なりを兄貴二人に送ればいいじゃねえか!
まあ、兄貴二人は結婚してる上に、遠い親戚関係じゃなくて直接は劇薬になるのが目に見えてるので、王太子以外の王家が大ブーイング。どっかを迂回する必要がありますね。
あと、微妙にぎくしゃくしてる王家と外様の橋渡しができる……かもしれない家が出来ます。
外様ってのはつまり、最後まで統一戦争で抗って生き残った連中だ。その子孫もまた一癖も二癖もあって、何かしらの特別な能力を所持していることが多いので、王国が硬直している今の時代に放置し過ぎるのはよくありません。
外様独自の交友関係があって、王国との繋がりが強い位置の家が欲しいですね。
おお! こんなところに徳級が低く目に見えて扱いやすい、しかも兄二人と仲がいいハンサムボーイが転がっている!
わーお。きちんと意味があるわ。
「まあでもないでしょ。ほんっとに無理筋ですもん」
俺の言葉に兄上が二度頷いた。
いくらなんでも、公爵家と男爵家の婚姻は無理も無理。物理的にほぼあり得ない。
イライジャ兄上もそれが分かっているから、レアさんの兄が外様の家を調べていると知った時、愕然としただろう。
そりゃあレアさんみたいな人と結婚出来たら嬉しいけど可能性はゼロ。
夜に太陽が昇ってくるくらい!




