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王都

「そう言えばケイ君は王都に来たことある?」

「うんにゃ。ないから、実は結構楽しみにしてるんだ」


 今日もまた歩いて王都に向かい、ダリルと雑談で時間を潰す。


 俺ら熱血体育部は割と余裕だが、伯爵以上の子息は結構きつそう。座学多めだと大変なんだろうなあ。俺は頭をあんまり使わない立場でよかったわ。


 やはり足腰。足腰は昼も夜も全てを解決する。

 え? なんで夜も解決するんだろう……分かんなーい。はははは。って前も似たようなこと思ったな。


「ただ、学院の街も碌に見終わってないのに、王都なんて見たら卒倒するかも」

「僕もそうなりそう」


 俺とダリルはそう大きくない領地が地元だ。

 そのため学院を囲うようなデカい街にも圧倒されたのに、そこよりもっとヤバい王都なんて想像も出来ないわ。

 きっと住民は上も下も、黄金を纏って輝いてるに違いないね。


「ソワソワ」

「ソワソワソワソワ」


 なんて言葉が聞こえてくる。

 勿論錯覚だが、子爵や男爵の子息がわくわくして雰囲気が漏れまくってるのだ。


 どうも王都なら、俺らにもムフフなねーちゃんを宛がってくれるようで、希望するかのアンケートが行進の途中で行われた。この工程を挟んでおかないと、婚約者がいる奴が揉めるから大事である。

 そんで俺は青春ラブレター必須派として、あんまり興味が無いからパス。ダリルも同じっぽいな。


「無事に到着できたのは奇跡かも」

「本当にな……」


 ダリルの呟きに思わず反応してしまった。

 俺らの先頭集団を見てくださいよ奥さん。なんと今なら全商品二倍! なんてジョークを呟かないとやってられないくらいギスギスしてるんですが。


 それもこれも王都騎士団の連中が、滋養強壮の飲料に一枚噛んでたせいだ。


 教官や学園関係者、更に三大美女の侍女さんたちが、ふーん。そういうことするんだねー。みたいな疑いの眼差しを騎士団に送る。

 騎士団は、我々はあくまで三大美女を気にしての行動だった。変な疑いを持つんじゃねえ。こっちは王都騎士団ぞ?

 そこへ訪れた何も知らない王都への案内人。


 つまり三つ巴が起こっている!


 こういうときは教会に助けを求めたらいいとひいひいひいひい爺さんが言ってたかもしれん。

 助けてくださーい!


 あ、はい。王都騎士団とは利権で握手してるんすか。ちっ。使えねー。

 どうもかなり昔、王都周辺が安全になって暇になり、金がほしくなった騎士団と、各地の教会から安全に金を運びたい光の灯教がくっ付いて、それからずっと結びついてる関係らしい。


 だから今現在はちょーっとバチバチしてる王国と光の灯教のパイプ役になってて、それが余計に特権的階級だと自認する原因になってるとか。

 自分の変わりは存在しないという自己認識は、腐敗への最短ルートだわ。


 結論。教会はこの件について、何してんだこらぁ! 疑われるような真似はするんじゃねえ! 程度は言えても、テメエぶっ殺すぞ! までは踏み込めない。

 ついでにレーオン王国側はデカすぎる利権の塊をつついたら、藪蛇になる奴が中枢にいるから無理。

 社会って大変ね。


「人が多くなってきたね」

「こりゃあヤバイかも」


 ダリルの声で現実に戻る。

 恐らく段々と王都に近づいてるから、人の密度が増してるわ。


 きっと遠くから見てる人間の中には、暗殺組織や裏社会の人間、秘密結社の邪悪魔法使い。俺が最強だあ! と思ってる武芸者に魔法使い。その他大勢が混ざってるんだ。


「王都の人達は偉い人に慣れてるだろうけど、今年はちょっと特別だしね」

「耳が潰れたら筆談しようぜ」

「書くものが手元にないなあ……ちょっと誰かに借りてくるよ」

「言ってる最中に割と冗談になってないんじゃないかと思いました。はい」

「僕も」


 ダリルと小粋なジョークを交わしてると思ったけど、今年度はヤバいかもしれん。

 王都の人口密度で、三大美女を称える叫びが発生したら、王城が揺れるような騒ぎになるんじゃなかろうか。


 で、あれが王都?


「耳を取り換える準備をしとくか。うちの学院ならそんな職人もいるだろうから、後で教官殿に予約を頼もう」

「僕の予約もついでにお願いしていい?」

「よしきた」


 小高い丘を越えたら、そこには巨人の住処がありました。

 王城の先端らしきもの以外、全てを隠している途方もない高さの城壁が、何処まで続くんだと呆れるしかない程に伸びている様は圧巻の一言だ。

 あんなところに入って歓声の余波を受けたら、絶対に耳が破裂するに決まってる。


 皆さん、覚悟はいいですか?

 行くぞー!


「わわわわわわわわわ!」

「あああああああああ!」

「いいいいいいいいい!」


 衝撃波だあああああ!

 びりびり震えるような攻撃が襲い、なんか断続的な音にしか認識出来ねえー!


「あああああ……」


 そして俺らの周囲は萎んでいく。

 悪かったな普通のガキ共で!


 ま、三大美女のお顔は慣れてる俺らですら、本当に同じ人間ですか? と思っちゃうくらいには次元の違う美しさだ。

 超母性的なルシールさん。すんげえかっこいいレアさん。滅茶苦茶可愛いリズベットさん。

 一人でも世界の主役になれる美貌が、三人勢揃いしているのだから、それを直に見た王都の人間が興奮するのは無理もなく、人々の気持ちはよーく理解出来る。


 花弁が舞い、人々の歓声を受け、一行は堂々と進んでいく。

 以上!


「ふー。疲れた疲れた」


 俺が凱旋した英雄なら演説でも語ったところだが、行事の主な目的は王家に顔見せすることだ。

 だからそのまま、王国が用意してくれた馬鹿みたいに豪華な宿泊施設に向かい休憩!

 俺が使用していいのか分からないレベルのベッドに寝ころび、脚を思いっきり広げてくつろぐ。


 って思ってたけど、なんか騒がしいな。

 この屋敷の入り口か? まさか敵襲⁉


 ざわざわしてる場所に向かうと、そこにはロジャー兄上並みに、いる世界を間違えてそうな太い男がいた。

 二十代中頃から後半。獅子のような長さで真っ赤に燃えるような赤毛と、これまた赤い瞳。

 見上げる必要がある筋骨隆々の体。服装は地味ながらも確かな品質の良さを感じさせるが、服に憐れみを覚えてしまいそうな程に、筋肉でパンパンに膨れ上がっている。


 ……ふぁっ⁉ 絵画で見た王太子殿下やんけ!

 なにやっとんじゃワレェ!


「またゆっくり話そう」

「はい。ありがとうございますゲオルグ様」


 あ、王家の端っこにいる男子生徒に声をかけている。

 どうも久しぶりに親戚に会う感じで、ここを訪れたらしい。フットワーク軽いなおい。


 むっ⁉ お付きの人間が王太子、ゲオルグ殿下に耳打ちすると、なんか視線が俺に向いた⁉


「ウィンター家の三男? ロジャーの弟か?」


 父上、母上。どうやら僕はここまでのようです。

 そんな興味に満ちた様な声音を出されたら、出て行くしかねえわ。


「はっ! オーギュスト・ウィンター男爵の三男、ケイ・ウィンターです!」

「ゲオルグ・レーオンだ。ロジャーは元気か?」

「はいそれはもう。風邪を引いたら、世界の終焉を覚悟しなければならない人ですから」

「わはははは! 確かにな!」


 非公式な場だから跪きはしないが気合を入れて口を開く。

 絵画エリアの人から聞いた話を信じると、ロジャー兄上とすげー仲がいいっぽいんだよなあ。


「俺を見てどう思った? 正直に答えよ」

「ロジャー兄上と殴り合って、よく生きてるなあと」

「わはははははははははははははは! 俺もそう思う! 死ぬかもしれんと感じたのは、一度や二度ではなかった! わははははははは!」


 多分、ロジャーの弟だから、何か面白い反応が返ってくるんだろうなあ。的な軽い感じで話題を振られた。正直に答えろと言われたら、なんの遠慮もなく言ってやろう!

 ほんっとによく生きてるなアンタ。

 炸裂魔法で雲まで打ち上げられてからの自由落下か、ロジャー兄上と殴り合えの二択を突きつけられたら、俺はノータイムで空中水泳を選ぶ。


 だって雲まで吹っ飛ばされた方がまだ生存確率高いもん。


「わははははははははは! 邪魔をしたな!」


 俺の答えが随分気に入ってツボにはまったのか、爆笑し続ける王太子が去っていった。

 嵐みたいな人だったな。


 じゃあ、部屋に戻ってくつろぐとしよう。

 このケイ・ウィンターに心底からの緊張は無いと思っていただきたい!

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