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きちんと今を持ってる男

時系列的にはプロローグより少し前。

物語の本当の始まり。

 おー寒い。

 あったかい布団なんてものとは無縁な、我が実家ウィンター家のベッドから抜け出し、本当に貴族かよと言われること間違いなしのオンボロ服を着こむ。

 着替えを手伝ってくれる侍女や執事なんて夢のまた夢。

 山岳部の小さな街と、周囲の農村を統治するウィンター家の侍女のおばちゃま方は、自分の家の仕事が片付いたら来てくれるお手伝いさんみたいなもんだ。

 専門の侍女を雇って教育までするのは通常の貴族の話で、貧乏男爵家には無縁なのである。

 ……美人なメイドの幼馴染? あ、ねえよそんなもん。


 なお偶に囁きかけてくる狭間の向こうの同胞は、国を富ませることに関してかなり信用出来ず、こうすればいい……かも。責任取らないけど。どうだったかな……。専門の知識を持ってもない奴が内政なんて出来る訳ねえだろ。みたいな感じで全く役に立たねえ。


「おー寒い」


 あの五十代男性は! 俺の内心と全く同じことを呟きながら歩いている我が父上様、オーギュスト・ウィンターだ。


「おおケイ。学院の準備はきちんと終わっているか?」

「勿論です」


 我が父に対して自信満々の笑みを浮かべる。

 レーオン中央学院に通うのは長男だろうが三男だろうが、貴族に生まれた者なら義務だ。その準備は完璧としか言いようがない。

 尤も準備していようが備えていようが、どうしようもない物だって存在する。

 例えばつるぴかな頭とか。


「あべべっ⁉」

「憐れむように頭を見たな? な?」

「そんなことはあるかもしれませんしないかもしれません」


 クソ親父め。つるぴか頭にちょっと同情しただけでチョップを叩きつける奴があるか! 教会に泣きながら駆け込んで非道を訴えるぞ!

 ごほん。

 我が父オーギュスト・ウィンターこそウィンター領を統治する貧乏貴族で、俺との血統を感じる青目に金髪……あ、ごめん。髪はなかったね。


「あべべべべっ⁉」

「また見たな?」

「二発もチョップをしましたね⁉」


 ち、ちくしょう。

 ガリガリの貧乏貴族に見えて、体はきちんと引き締まってる父上のチョップは痛いのなんの。

 これ以上つるぴか頭を考えると、俺の頭がカチ割れるので別のことを考えよう。残念だが母ちゃんの方も備えているが小皺を隠せていないっっッッッッ⁉。


「ぐべらっ⁉」

「ケ、ケイー!」


 こ、この頭に突然炸裂した痛みと、突然の衝撃。更に父上の悲鳴から導かれる答えは!


「お、おはようございます母上」

「ええおはよう」

「ど、どうして可愛らしい末っ子に暴力を?」

「さあ、どうしてかしら?」


 やはり我が母エリナ・ウィンター!

 世界で主流な金髪碧眼でちょっと、いや、かなり目つきが鋭いご婦人。

 父上から生気を吸い取ってるんじゃないかと思う程度には、微妙に……若く、ウィンター家が誇らない問題児兄弟長男、次男と品行方正な末っ子の母。

 問題児三兄弟? 知らんな。

 年齢は。


「ぐべべべべべっ⁉」


 父母揃って二回も暴力を⁉

 ぐれるぞ!


「あ、兄上は帰られましたか?」


 ぐれたいが形勢不利なため、問題児筆頭の長兄について尋ねた。

 我が長兄はそりゃあ問題児で、領内の村近くに狼が出たと聞いて、単身向かっちゃうくらいの問題児だ。


「先程帰った」


 父上、母上の言葉ではない。

 ぬーっと現れたのは長兄、ロジャー・ウィンター!

 身長二メートル近く! 体重は軽々百キロオーバー!

 俺と同じく短い金髪と悪すぎる人相に相応しい碧眼の目つき!

 馬鹿げた筋骨隆々な体!

 なにより……。

 相変わらず作画が違う!

 狭間の向こうの情報曰く、線が細くキラキラしてる空間に八十年代劇画タッチを持ち込んだが如き暴挙!

 花輪作るのが趣味なのに指がデカすぎて上手く出来ないのはここだけのっ⁉


「ごばっ⁉」


 い、意識がとんだ!

 兄上。アンタのガタイでチョップしたら、貧相な弟はマジで死んじゃうって!


「なんで学院に行く日に家族総出のチョップを受けなきゃならいんだ……ぐすん」


 次兄は王都で色々仕事しているため、俺は学院に向かう祝うべき日に、ここにいる家族全員からチョップを受けたという訳だ。神様、俺がなにをしたって言うんです?


「顔に出ていた」


 親子三人揃って異口同音に言わなくてもいいじゃない。ちょっと指で顔の形を確認。

 で、出てたかもな。


 さて、飯も食い、最後の確認を終え、何年使ってるのかも分からない馬車に向かう。


「坊ちゃん、行ってらっしゃいませ」

「うむ!」


 家の家事を終え、ぽつぽつと城にやって来て仕事をしているおじちゃん、おばちゃん連合に胸を張って頷く。

 実家は貧乏だが領地は極貧という訳ではなく、まあ普通? といったウィンター領の民は穏やかなものだ。

 何百年も前にレーオン王国が大陸制覇を成し遂げた際、敵対していた先祖は山岳部でゲリラ戦を展開して、心底面倒臭がらせた歴史もあったりするが、今は平穏そのものである。


「程々にな。程々に」

「何を仰っているのです父上。揉め事を起こさず、品行方正で、成績優秀。生徒の模範になれるのが僕ですよ」

「だったら念押しなどするか」


「……」

「あの、なにかないんですかね母上?」

「風邪をひかないようにと思いましたが、ひくはずがないと気が付きました」

「まあ、賢いと風邪の方から逃げ出すものです」


「息災であれ」

「ありがとうございます兄上。ちなみになんですが、学園の教官殿があいつの弟かあ……みたいな感じで僕を見ることはあります?」

「……」

「兄上も黙っちゃったよ。え? 本当にあり得そうなんですか?」


 家族との温かな別れの筈だが、おかしいな。思ってたのと少し違う……ってよく考えたら、俺も兄二人を送り出す時に感動のワンシーンなんて演出してねえわ。

 土産物よろしく! って言葉以外を言った覚えもねえ。


「それではケイ・ウィンター! レーオン中央学院に行って参ります!」


 口数が少ない長男、何言ってるか分からないポエム次男、喋り過ぎの三男。と称えられるウィンター家兄弟の末弟、ケイ君が世界に羽ばたくのだ!


 おんぼろ馬車に乗り手を振る。

 さらば故郷! さらば家族! さらば、えーっと、幼馴染の美少女はどこかな? 存在すらしてないわ。


 よし、寝るか。

 同行者の女の子なんて縁も所縁もないため、馬車内ですることが本当に無い。

 でもなあ、俺ってば線が細いから揺れる馬車の中で寝れるかなあ……。

 ぐう………………すやぁ……………。


 …………。

 眠っているのに称号が俺へ接触していることに気が付く。変なことを言っている自覚はあるが、そうとしか表現できない。


 ウィンター家の人間が持つ称号は結構強力で、偉大なる長兄と王都でいろいろしてる天然次兄も、目ん玉飛び出しそうになるような称号持ちだ。

 そんな俺の称号は【狭間の夢追い人】。称号を判別できる司祭のみならず、一家全員が首を傾げる羽目になった。

 そして何ができるんだこれと考え、色々試した結果……家族にも言っていない秘密を抱えてしまう。


 なんか異世界的な場所に繋がり、はっきり言ってコレ厄ネタだから、詳細がバレたら殺されるね。と脅されてるのだ。プルプル。怖い。

 神様、僕を助けて! そんなこと言っても助けてくれないから神様なんですけどね。ははは。


 まあ、それはどうでもいい。神の意向なんて重要なことじゃない。なんなら酷いことにしかならないから関わってくんなとすら思う。

 どういう訳か神の救いってのは、当事者が頼むから放っておいてくれと思うようなことを起こすのだ。

 報告・連絡・相談をメモ帳に書いとけ。ああ、狭間からの情報によると、ホウレンソウする相手がいないから度々しくじって、魔界だの悪魔だのが生まれたんだった。こりゃ失敬。


 じゃあ俺、本格的に寝るんでお休みー……。


「おー……体がバキバキだわー……」


 山を越え谷を越え一月かけてやって来ました、レーオン王国の第二都市、レーオン中央学院都市。

 冗談でもなんでもなく、各地の貴族を一か所に招いて教育する施設を作ったら、周囲に相応の超都市が出来上がってしまい、王都の次にデカい街はと聞かれたら、全員が学院周囲の街だと断言するレベルになったのだとか。


 お陰で街に入っても随分長く馬車の中にいる羽目になった。

 んん? あれはなに売ってるんだろうか。小遣いで買えるかな?

 金がほしいからどっかで雇ってくれねえかなあ。

 流石は大都会。女の子もおしゃれだ。

 兄上二人もここで暮らしてたのか。俺も引っ付いて行けばよかった。

 学院の中はどんな感じだろうか。

 ……。

 え? まだ到着しないの? あとどれくらい感想足したらいい?


「着きましたよ坊ちゃん。頑張ってください」

「うむ!」


 御者をしてくれたおっちゃんに応えおんぼろ馬車を降りる。

 ぽ、ぽかーん。

 人間って心底呆れたら、大口空けて上を見るんだな。

 アホみたいにどでかい学び舎……つーかこれ、王城とか宮殿って表現できるような白亜の建物が、アホ面晒している俺の前の前にあった。

 い、いかん。これじゃあ貧乏貴族丸出しだ。と言いたいところだが、他にも新入生らしき人間が馬鹿面晒していたので、俺だけという訳ではないらしい。


 ま、まあいい。

 胸を張って堂々と十人は並んで歩けそうな門をくぐる。

 ことはなく隅っこを歩く。

 きっとど真ん中を歩いたら伯爵以上の人間に目をつけられて、男爵の三男風情が! とか言われちゃうのだ。

 ならば最初から目立たないように移動して、余計なトラブルを起こさないように気を付けるべし。これぞ処世術!


 新入生の手続きは……あそこだな。

 机が置いてあって複数人の大人もいる場所が、受付じゃなかったらなんだというのだ。怪しい勧誘か?


「入学させていただきます、ケイ・ウィンターであります! 兄、ロジャー・ウィンターとイライジャ・ウィンターがお世話になりました! よろしくお願いします!」


 こうやって挨拶することで馬鹿兄二人がどれだけやらかしたかも同時に……同時……に分か……る……。

 あーあー。マジかよって顔だわこれ。

 ですが安心してください。一言二言しか喋らねえ長兄と、何言ってるかさっぱり分かんねえポエム次兄に比べ、僕はコミュニケーションお化けっすからね。


「ウィンター家の三男かぁ……」

「そう言えば今年だったな……」


 ちょっと離れたところにいる大人たちが小声でぼそぼそ喋ってる。

 本当にあの二人、どんだけやらかしてんだ? 普通、貧乏貴族の三男が来て、例のあの家的な反応するなんて異常だろ。

 しかも今年だったな、とか、俺がどの年に来るか事前に確かめてるような感じじゃん。


「ケイ・ウィンター……ウィンター家の三男で称号は……【狭間の夢追い人】……? で間違いないか?」

「はい! これが書類になります!」


 なんだこの称号? と言いたげに首を傾げた大人に必要書類を手渡す。

 確かに俺の称号は意味不明だが、長い歴史を有する学院にはもっと訳の分からない称号持ち生徒が混ざっていたと、どっちかの兄に聞いた覚えがある。


「では徳級の確認をしてから寮に案内する」

「はい!」


 徳級とは称号を持ってる人間の強さ的なもので、一徳が鍛えた凡人。五徳が超人で、七徳は怪物を越えた怪物になる。

 逆に悪党どもはこれが罪級と呼称されるが、清く正しい俺が罪を重ねてるだって? ナイナイあり得ない。

 逆に徳は天にまで罪上がって。じゃなかった。積みあがって。


「一徳未満」


 あっ。はい。

 誰だよ素人みたいな司祭を連れて来たの。称号に関連する鑑定は司祭の専売特許とはいえ、人材が薄くなってるんじゃなーい?

 そりゃあ百徳まである俺の全てを感知しろとは言わないけど、せめて十徳くらいは気が付けよ。

 と、自分を慰めてみる。

 真面目な話、歴史に名を刻んだ大天才の少年が、どうも幼いころから六徳級だったのに、新米司祭が三徳と判断したんじゃね疑惑がある。

 つまり司祭の技量から大きくかけ離れた徳やら罪は、正しく認識出来ないっぽいんだが……流石にレーオン中央学院に関わる司祭なんてベテラン中のベテランだ。見た目も七十歳ちょっとのお爺ちゃんだし。

 つまりつまり俺は間違いなく一徳未満。ぐすん。


「それでは案内しよう」

「お願いします!」


 教官殿にとっても一徳だの一徳未満だのはいつもの話らしいが、あの二人の弟だから油断しないぞ。という雰囲気が漏れまくってる。

 マジで下剋上でもしたんすか兄上様方?。


「ここだ」

「やだなあ、自分の実家は男爵家ですよ? こんな豪勢なのは伯爵様以上でしょ?」

「いいや合ってるし、公爵から男爵まで全員が同じ寮だ」


 う、嘘だろ教官殿?

 いや、確かに兄上たちから寮がデカいとだけは聞いてたけど、男爵やら子爵なんて高貴なる方々に虐められるのが定番的存在じゃん。それを全員纏める? 正気じゃないね。

 ふ、噴水がある。花壇もだ! 執事っぽい人まで⁉

 あまりにも生活水準が違い過ぎる環境に、このケイ様ともあろうものが具合が悪い⁉


「ここは男子寮だからメイドは連れ込むなよ」

「はははは」


 教官殿のちょっとしたジョーク笑う。

 いや……態々そんな注意をしてくるってことは、実際に前例か未遂があったのだろう。

 けしからん。けしからんぞ! ふんすふんす!

 よーし分かった。俺の最初の仕事は授業に出ることじゃなく、風紀を取り締まることだ。

 女を連れ込むようなそぶりを見せようものなら、例え相手が伯爵の息子だろうが、公爵家と繋がりがあろうが断じて許さん!

 嫉妬じゃないよ。本当だよ。


「部屋には使用人が連れて行ってくれる。そこの君、ケイ・ウィンターを案内してくれ」

「はい、直ちに」

「よろしくお願いします!」


 教官殿に差し出された俺が勢いよく挨拶すると、三十歳ほどの使用人さんが面食らう。

 学生だからこそ、お世話になる人には挨拶するべきである。

 とは言っても、流石に伯爵家以上の子弟になると面子があるため、下位の者への言葉は最低限になるが、貧乏貴族の三男に面子などありはしない。


 それに人脈を形成しておけば、なんかあった時に飴玉くらいはくれる筈だと淡い期待を抱く。

 実家はあんまりそう言うのが発達してないから、飴一つでも雑用をしますぜ。へへへ。


「こちらへどうぞ」


 使用人のあんちゃんに案内されて足を踏み入れた場所は別世界でした。

 つるつるの床。ぴかぴかの花瓶。よく分かんねえ絵画。ばっちり決め込んでる同年代。

 帰ろうか。住む世界が違うわ。


「ケイ様、ご案内します」

「あ、はい」


 残念。逃げ遅れてしまった。

 一名様はいりまーす。

 らっしゃいませー!

 こうやって自分を誤魔化さないと、ちらほらいる真の高貴なる者達に目が眩みそうになる。

 きっと笑ったら天気が晴れて、泣いたら大雨になるような人達ばかりなんだ。


「こちらがお部屋です」


 まあ、なんと素晴らしいのでしょう。

 実家の俺の部屋の三倍は広そうな部屋。綺麗なベッドに調度品、お花だってあるじゃないですか。

 偉大なる長兄がベッドが小さかったとか言った時に、そりゃあんたのガタイならどこでもそうだろうと思いつつも、若干心配してたんだが普通にちゃんとしたベッドだわ。


 しかも個室だからプライバシーもばっちり!

 奇声あげながらベッドの上で妙なポーズをしながら飛び跳ねても問題ない!


「ご説明の方をさせていただきます」


 はいお願いします。

 要約するとマジで女はぜーったいに連れ込むな。

 揉めたら施設の人間に報告しろ。

 女を連れ込むな。

 門限破るな。

 女を連れ込むな。

 見られたくないもんを部屋に放置するな。

 女を連れ込むな。

 その他色々。ってことっすね。


 どんだけ昔、連れ込んでたんだよ……。


「それに加え、偉大なる称号【女神】、【聖勇者】、【聖女】を持つ方々も今年から入学されますので、お気を付けください」

「ぶっ⁉」


 思わず鼻水が垂れそうになった!

 その称号を持ってる人間がいることは知ってたけど、同い年だったんかい!

 マジのガチの激やばだよ。俺みたいな奴が話しかけたら首がスポーンだ。


 まあ安心してくださいよ。

 そんな高貴な称号を持つ人間と、こんな木っ端が接点持つなんてあり得ませんから。

 それこそ神に誓ってもいいですよ。

 ◆

 ケイ・ウィンターという男はきちんと今を持ってる。生きてる。

 でも捨てられる。

 理由は女の子が酷い目に会うのが気に入らないから。


 何もないから捨てられるんじゃなくて、ちゃんと持ってるのにアレかよと物語を構成するためにプロローグを少し先の時系列にしやした。

 あと、時系列が面倒になるのは分かってるんですが、盛り上がる話を最初にしておかないと、第一話と二話のpv数の差がヤバいんすよ(*'ω'*)実体験

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