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第二章 いつもの日常

「やあケイ。今日もかっこいいな」

「流石は俺らの中で一番のイケメンだ」


 俺の妄想ではない。早朝ランニング前、男爵子爵の息子連合軍が、精一杯の笑顔を俺に向けてきた。

 なんか悟りでも開けそうなツラしてやがるな。

 ま、原因は分かりきってる。


「あそこにいるぞ」

「あっちにもだ」


 ぼそぼそ喋ってソワソワしてる原因も、俺の涙ぐましい努力が実を結び、我らの青春をのぞき見している御令嬢が増えたからだ。


 いやあ、朝の走り込みは効くなあ。とか、男の友情とはああいうものなんだなあ。とか、婿養子を探している令嬢の近くで呟き続けた甲斐があったわ。

 そんな訳で俺の熱血運動部に懐疑的だった者達も掌をくるりとせざるを得ず、次男三男同盟の結束は固まった!


「ケイ君、レア様がまたいるよ」

「あ、ほんとだ」


 ダリルに促されて校舎の近くを見ると、かっこいいねーちゃんのレアさんがいた。

 あの人、最近よく俺らの朝練をよく見に来るんだけど、公爵の娘が次男三男同盟から婿を探す必要はない。

 だから理由は多分、俺らの馬鹿騒ぎに混ざりたいんだろうな。彼女はそんな感じの人間だ。

 男兄弟で揉まれた俺のセンサーが、強くそれを感じ取っている!


「ケイ君を見に来たのかな?」

「俺を? どうして? Why?」

「なんとなくそう思った」

「ま、これだけお喋りな奴を珍しく感じたのは十分ありそう」


 一瞬、ダリルに不思議なことを言われた気がした。しかしよく考えると、レアさん周囲で俺くらいぺちゃくちゃ喋る奴は珍しいだろうから、ある意味新鮮なのかもしれない。


「では走るぞー!」

「おー!」


 やる気に満ちている仲間達に号令を発して走る!

 流石にこの集団にレアさんを混ぜるのは不可能としかいいようがない。しかしやりようなど幾らでもあるわ!


「ぐええええ!」


 今日は三大美女が参加する訓練のため、俺らは床をゴロゴロと転がる。

 が! しかし!

 レアさんが剣を握って突っ込む瞬間!

 ここ!


「教官んんん! 実は俺のお喋りって半分くらいセーブしてて、本当は今の倍はベラベラ喋り始めるんだわ! ロジャー兄上にチョップされても止まらねえって言ったら、教官たちならヤバさが分かるっしょ! ちなみにこの言葉に全く意味は無いんだけど、声がデカすぎて集中力削がれるなら儲けものかなーって! 一瞬の油断も出来ないレア様の攻撃捌いてる最中に、こんなぺちゃくちゃお喋りする奴、うざいってレベルじゃないのは僕もよーく分かってんですけど、実戦はなにがあるか分からないじゃないですか!分かります分かります! ちょっとの物音とか動きを察知しないといけないのに、アホが喋ってたらくたばれと思いますよね! 後はやっぱ皆で戦ってるみたいな連帯感も必要ですよね! それにあれっすわ! あれあれ! この年頃は馬鹿やって仲良くなるもんなので、快く聞き続けてください! でも本番は悪魔にいらんこと言いまくっておちょくるのでどうかご安心を! 効果はほらこの通り!」

「うるせえええ! げえっ⁉」

「隙あり!」


 勝った。事前の作戦通り!

 レアさんを青春の馬鹿騒ぎに巻き込みつつ、真面目に勝利を目指す我が秘策発動。

 自分でもやたらと声がデカいと思う特性を活用して、神経尖らせている教官たちにベラベラ喋りまくり、その隙をレアさんが突くのだ!


 三大美女のお付きの侍女さんたちがやべー目で俺を睨んでくるが勘弁してくださいよ。

 仮想敵の悪魔は名誉なんて全く気にしないんだから、おちょくって注意力が散漫になるならぼろ儲けだ。


 それにほら、レアさんの口元が引き締まってるでしょ? あれはいい感じに楽しんでるからっすわ。


 なお最近、侍女さんたち……というか実家からの干渉が弱まっているようで、訓練中に三大美女が窘められることがほぼなくなっている。

 なんかあったんかね? 僕ちゃんは大貴族じゃないから、お上の考えはよくわからん。


 あ、ルシールさんからは、やんちゃな殿方ねえ。と苦笑しそうな雰囲気が滲み、リズベットさんは、そういうのもあるのか。と妙に感心している様な気がする。いい子は真似しちゃ駄目ですよ?


「ケイ・ウィンター。素晴らしい発想だな。うん。間違いなく」

「ありがとうございます!」


 尊い犠牲になった教官に褒められた。教官殿の言葉を借りるなら、うん。間違いなく。

 やっていい範囲のことなら、とりあえずやらなきゃ損っすよね。


「お前ならどこでも生きていけそうだよ本当」


 でしょー? やっぱコミュ力は最強の武器なんすよ。聞いてますか二人の兄上?


「ケイ・ウィンター……ウィンター?」


 ごろごろと転がった時の傷を、リズベットさんが癒してくれている最中、俺の名前。というか苗字を呟いた。


「ロジャー・ウィンターとイライジャ・ウィンターの弟です。長兄はなんか、王太子殿下と殴り合ったとかなんとか」

「やはりそうなのですね。ウィンターのご兄弟は有名ですよ」


 うおっとびっくりした! リズベットさんと話しているつもりだったが、後ろにいたルシールさんに声をかけられた!


 あ、前のリズベットさんと後ろのルシールさんのいい匂いに包まれて、なんだか幸せ……。


 というかあの二人、どんだけやらかしてんだよ。リズベットさんはピンと来てないようだけど、ルシールさんはかなり心当たりがあるようだし、侍女さん達も、え? あのウィンター? みたいな感じじゃん。

 ほんと、兄貴たちがすいませんね。でも僕だけはまともな常識人ですので、安心してください。


「本日は終了。解散」


 ういーっす。お疲れっした!

 それと同時に退散! もし侍女の方々に呼び出され、品格がどうのこうのと言われたら、仰る通りですと頷くしかないため逃げる!


 じゃあ明日も頑張りましょう!


 ◆

 ◆

 ◆


「ケイ……ウィンター……ケイ……ウィンター……」


 女達の部屋で何度もその名が呟かれた。

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