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神罰執行・無限大罪、魔界侵攻

 燃えた燃えた燃えた燃えた燃えた燃えた燃えた燃えた燃えた燃えた。

 大気が燃えた。

 雲が燃えた。

 溶岩が燃えた。

 石が燃えた岩が燃えた大地が燃えた。


「え?」

「は?」

「な?」


 爆心地近くにいた悪魔が燃えた。


 一瞬だ。

 一瞬で何もかもが燃え尽きた。


「下の魔王だああああ!」

「下層の魔王がやってきたぞおおおおおおおお!」


 定まった形はなく、山よりも大きな燃え盛る炎を見た悪魔達は、下の魔界にいる魔王の誰かが攻め込んできたと思った。


 しかしきちんと情報を収集している魔王たちの意見は違った。


「ちょーっとこれは予想外ねえぇ。下から上がって来てる奴の報告は無いからぁ、私たちより先に女神達にちょっかいをかけてる連中かしらぁ?」

「不明。現状の対処を優先。推定、九から十罪」

「魔界を攻めるだあ⁉クソッタレが舐めやがって!」


 会議中の余裕は何処へやら。

 蜜花の口調は穏やかだったが頬は引き攣り、純粋は早口。獄炎は青筋を浮かべて怒り狂いながらも、いきなり飛び出すような真似をしない。


 八罪級の魔王から見ても、猛り狂う火花は尋常ではない罪を背負っており、明らかな格上だったのだ。


『!!!!!!!!!!!!!』


 火花が揺らめいて前進した。

 たったそれだけで物質界を恐怖に陥れた数多の悪魔が消し飛び、代わりに消えない火の道が出来上がる。


『獄炎じゃないけどぉ、本当に舐めてくれるわねぇ……』


 蜜花に恐怖と怒りがこみ上げる。

 あまりにも堂々としている姿は、単純に力押しで陥落させた方が早いと言わんばかりで、魔界に君臨する魔王の神経をこれでもかと逆撫でした。


 ただ事実として、十罪級なんてものは神話時代に一軍の責任者として、神の軍勢と殺し合った大将格だ。

 八罪程度は小僧のようなもので、明確に一線を画す存在だった。


「いやちょっと待て。あそこは渇水の縄張りじゃねえか?」

「あ」

「同意」


 その時、獄炎がふと冷静になると蜜花と純粋が同意した。


「儂の寝床を燃やしたのは貴様かあああああああああああああああああああ!」


 この声が聞こえていたのだろうか。

 魔界第一層全体を揺らすような大声が轟くと、火花の近くにあった火山が立ち上がり殴り掛かった。

 比喩ではない。

 本当につい先程まで火山だったものに岩の手足が生えたのだ。


 名を渇水。

 第一層にいる存在では最年長かつ、限りなく九罪に近いため最強ながらも、普段は休眠している魔王だ。しかし流石に隣に十罪級が現れたら話は別で、自分を無理矢理起こした火花に襲い掛かった。


「今回だけは加勢してやるぞ爺!」

「はあぁ。今更死ぬ覚悟が必要とは思わなかったわぁ」

「攻撃開始」


 獄炎、蜜花、純粋が驚くべき速度で駆けると、渇水に加勢する。


『!』


 前代未聞の魔王共闘に、火花はなんの感情も見せない。

 ただ本能的に、魔界に存在する全てを塵にした方がいいと定め行動しているだけの抜け毛は、恐怖や鬱陶しいと感じる感情すらなかった。


 だから光り輝く。

 燃え盛る。


「やべえっ⁉」


 獄炎が人生最大の危機を覚え、魔力で編み出した障壁を全力展開。

 直後に爆発した火花は太陽の如き輝きを発して、純粋の住処である蟻塚の様な建造物ごと、なにもかもを吹き飛ばした。


「概念攻撃と推定!」


 それに怒り狂う余裕が純粋にはない。

 火花が纏う迸りは物的存在のみならず、概念すらも焼却する攻撃であり、全力の魔力で自身を守らねば魔王だろうが一瞬で消え去ってしまうだろう。


「ぬぁめるぬぁああああああああああああ!」


 舐めるなと叫んでいるつもりの渇水が、削られている体表を気にせず火花に殴りつける。

 その一撃は大地を揺らして、周囲の火山から溶岩が漏れ出すほどだったが、この程度で死ぬなら誰も恐怖しない。


「くたばれやああ!」


 天を羽ばたく巨大な鳥。もしくは堕ちた不死鳥のような姿に変じた獄炎が、火花に突っ込んで身を削る。

 破壊と再生の力を持つ獄炎は異常な攻撃力と再生力を兼ね揃えており、自身が多少削られてもまたすぐに再生することが出来た。


『!』

「適応進行中! 防御壁展開!」


 お返しとばかりに火花が猛ると、火花の解析を進めている純粋が巨大な防御壁を展開し、初撃よりも若干の余裕をもって防ぎきる。


「今度、お菓子でももってきてあげるわぁ!」


 純粋に守られた形の蜜花が、全身の花を開かせて甘い香りを漂わせる。

 口も鼻もない火花に対して、花の香りがどう作用すると言うのだ。と思う者は、悪魔と相対すれば死ぬしかないだろう。


 存在そのものに作用する甘い香りは火花の感覚を確かに狂わせ、炎のくせに膝をつく様に崩れる。


「こいつひょっとして、なんも引き出しがねえんじゃないか!」

「言ってる場合か若造! 進んでるだけでこやつは目的を達しつつあるわ! 住処が無くなれば元も子もないぞ!」


 てっきり死闘を越えた死闘になると思っていた獄炎は、火花が単純な行動しか出来ないことに気が付いて嘲る。

 しかし渇水に言わせれば、この火花はあちこちに移動して周囲を巻き込むだけで、第一層の破壊という戦略目標を達成できるのだから、技量云々以前の問題だ。


「同意!」


 純粋も渇水の叫びに同意する。

 実際火花は、魔王たちを絶対に打ち倒す脅威と認識しておらず、とりあえずこの地を壊し尽くすために移動していた。


「ああもうぅ! 知能を極限まで落とす代わりに強くするのは基本的な技術だけどぉ、ここまで変なことできるものぉ⁉」


 敵としてすら認識されていないことに蜜花はプライドを傷つけられるが、それでも手を緩めず誘惑を続ける。


 そして確かに罪の格なら火花が圧倒していた。

 だが火花には知性も経験もなく、決まった行動をとるゴーレムのようなもので、その全てが単純な反応しか示さない。

 これでは一度傾いた流れを変えることなど不可能で、後はもう流れ作業のようなものだ。


「散々ビビらせやがって! この代償は高くつくぞ!」


 火の粉から弾け飛ぶ炎の雨を獄炎は躱し、純粋が蜜花と渇水を守りつつ、溶岩の拳と花の香りが叩き込まれ続ける。


 それでも……それでもだ。


「マジで被害が洒落にならないんだけどぉ!」


 自分の領域まで燃え始めた蜜花が悲鳴を上げる。

 火花が巨体過ぎるため影響力が大きく、ゆっくり移動している割には被害が拡大し、これを元に戻そうとすれば千年近い年月が必要になるだろう。


 しかも、第一層の中心付近に火花が辿り着くと、更に話が変わってくる。


「げえっ⁉」

「いかんぞこれは!」

「自爆攻撃と推定!」

「嘘でしょぉ⁉」


 ここで炸裂すれば一番被害が大きいと判断したのか、火花が自身を圧壊させるように力を籠め始めたではないか。

 純粋が計算したところでは、最大まで力をため込んだ場合、第一層の半分以上が燃え尽きるのは間違いなく、運が悪ければ魔界第二層への穴すら開きかねない。


 しかし自爆攻撃にリソースを裂いたため、防御がかなり疎かになっていた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 四柱の魔王が好機。あるいはもう後がないとみて、持てる力の全てを注ぎ込む。

 純粋の破壊エネルギーが。

 蜜花の概念を惑わす香りが。

 獄炎の迸る火が。

 渇水の圧倒的質量が。


 全て、猛り狂う火に直撃した。


『ッッッ⁉』


 存在の核に直撃を受けた太陽は身を捩り、なんとか己を維持しようとしたがバチバチと弾け、身が削れ、霧散し、ついには維持出来なくなる。


『……!』


 そして最後は声なき断末魔を発して……消え去った。


「はあっ……! はあっ……! 畜生め!」

「わ、わたしぃ、百年くらい寝るから報復はよろしくねぇ……」

「疲労困憊」

「ど、どこの誰か関わってるか知らんが、ぜ、絶対に許さんわい。とりあえず物質界の人間を万人は八つ裂きにせ、ね……ば……」


 物質界の大きな街どころか、巨大な湖にすら匹敵しそうな大穴が出来上がり、その付近で魔王たちが荒い息を吐く。

 吐いて、止まった。

 破壊と再生こそが炎?

 ならば火の粉とてそうだ。


「嘘だ……」


 魔王たち。火山の渇水すらも顔を大きく見上げた。


 鱗に覆われた体は山だった。大地だった。

 首は天に聳える道だった。神を殺すための槍だった。

 顔は蛇だった。神の敵たるモノだった。


 ----天よ、私は見ました。

 忌々しき蛇が貴方を覆う。

 それは七つの頭と七つの冠を携え、十の角が冒涜の印を刻み嘲笑っていました----


 ----耕した土を踏み鳴らしては尽きた川に変え、雲を飲み込みては溢れる硫黄に変え、海を飲み干しては底なしの谷にする----


 ----天は問うた。

 なにゆえに全てを滅ぼすのか。

 それは答えた。

 愚問なり。我が我であるがゆえに----


 ----あれこそは蛇なり。あれこそが獣なり----

 ----黙示録の獣なり。汝……罪なり----


 怒りの()、来たれり。

 十一罪級、獣降臨。


 顕現可能時間残り二秒。


 獣の口から硫黄が漏れた。


 それは稲光のように地を裂き、天を引き千切り、悪魔を塵に変える。


 八罪魔王渇水、消滅。

 八罪魔王蜜花、消滅。

 八罪魔王純粋、消滅。

 八罪魔王獄炎、消滅。


 並びに物質界侵攻軍、消滅。


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