お喋り三男「悪党が大物ぶって、えらっそうに会議してると顔面にパンチしたくならねえ? 俺はなるね!」
魔界第一層、煉獄は炎と溶岩に満ちた破壊の世界で、住人の悪魔も炎を纏う者が多い。
そして最も浅い階層故に物質界と密接に繋がっており、物質界に悪魔の軍勢が現れると基本的にこの煉獄が関与している。
「けっ。めんどくせえ」
一人の若い青年らしき存在が悪態を吐く。
らしき、だ。
なんとか人間らしき形。赤黒い肌。捻じれた大きな角。爬虫類のような金色の瞳。更には燃え盛る炎を纏う存在が、単なる人間の筈がない。
ただ粗野な雰囲気ながらもかなり美形で、何も知らないなら誘惑される女も出てくることだろう。
「お待ちしておりました獄炎様」
巨大な蟻塚のような建造物に辿り着いた青年らしき者、獄炎は恭しく頭を下げる異形に出迎えられた。
蛇と蜂を無理矢理合成したような悪魔は六罪級で、地上に現れればすぐさま軍が編成され、複数人の六徳。もしくは切り札の七徳が投入される怪物だ。
無論、実戦経験に乏しい女神、聖勇者、聖女では全く歯が立たず、嬲り殺しにされるしかないだろう。
「え?」
そんな怪物の頭を獄炎はむしり取った。
「態度が気に入らねえ」
一瞬の出来事だった。獄炎は周囲に犇めく五罪級。更には当事者である六罪の蛇蜂ですら認識出来ない速度で、頭をむしり取り身に纏った炎で燃やし尽くした。
「地面に頭こすり付けて出迎えるのが礼儀だろうがよ。ああ?」
周囲一帯の悪魔を燃やし尽くした獄炎は、舞い散る灰やたった今奪い去った命を気にすることなく蟻塚の門を蹴飛ばし、足を踏み入れる。
どすどすと足を踏み鳴らし、そこらのチンピラのような態度で歩く獄炎を誰も咎められない。
それどころか悪魔のくせに恐怖で身を震わせ、逃げまどうような有様だ。
「来てやったぞ純粋」
勝手知ったる我が家のように歩き、蟻塚の最上に到達した獄炎は、同格の怪物達に出迎えられた。
「確認した」
淡々と事実だけ語るエネルギーの塊で不定形な存在、純粋。
「ああら。暴れん坊のご到着ねぇ」
様々な花が青い肌の暴力的な肢体に絡みつき、緑の長い髪を弄び、黒目しかない瞳に愉快気な輝きを宿した、甘ったるい口調で微笑む女、蜜花。
三柱共に魔界第一層・煉獄の魔王であり、八罪級の馬鹿げた存在だ。
物質界で八罪級が現れたのは神話時代が最後で、語られているのは伝説の中だけだ。
万が一、今の物質界に現れると世界の戦力が集結して決戦を行なわねばならず、三柱全員が顕現すればその日が最後の時になるだろう。
「それで?」
明らかにイライラしている獄炎が、蟻塚の中とは思えない程に豪奢な部屋へ踏み込むと、物質界の王侯貴族でも用意できないような、最高の宝石で作られた椅子に座る。
このあたりの感性は定命、不変を問わないようで、各階層の魔王の居城は富をかき集められたものが多い。
「女神、聖勇者、聖女を狙っている勢力、確認。正体不明。先手を打たれている可能性あり」
「へー。それはそれは。で? それだけのために呼んだってなら、今すぐ殺すぞ」
「坊やはせっかちねぇ。初代の三人はそりゃあ強かったのよぉ? だから変なのが利用しちゃったらぁ、物質界とのパワーバランスが崩れちゃうのぉ」
「その気色悪い口調をやめろや」
純粋、獄炎、蜜花が順に話す。
悪徳の化身である魔王なのだから仲がいい筈もなく、この三柱は常に機を伺い、場合によっては殺し合う仲だ。
しかしかなり長生きで神話時代の女神、聖勇者、聖女の力を知っている純粋、蜜花は女達を利用しようとする企みに敏感になっており、主導権を握りたいと考えていた。
「けっ。俺の軍を派遣すりゃあいいだけの話だ」
「だぁめぇ。今代もとっても美人らしいから、私が可愛がってあげるのぉ」
「なら俺が飼って感想を聞かせてやるよ」
軽い口調の獄炎と蜜花だが、もしルシールたちを見ると非常に執着してしまうため、本来の分岐では冗談めかした言葉を実行しようとする。
「侵攻の必要性あり」
だがエネルギー生命体である純粋にすればどうでもいいことで、ルシールたちを無限のエネルギー源として捉えることはあっても、肉欲を向けることはなかった。
「まあ乗ってやるが、渇水の爺はどうすんだよ」
「彼ぇ、ほんんっとに面倒臭がり屋だものぉ。私も意味がないことはしたくないわぁ」
「同意。無駄」
他の魔王と歩調を合わせるのは心底嫌な獄炎だったが、闘争と破壊を非常に好むため、一応は納得した、
しかし魔王はもう一柱存在しているため、そちらは呼ばないかと疑問を覚えたが、付き合いが長い純粋、蜜花はなにをしようが無駄だと断言する。
「ふん。じゃあなんとか七罪と軍を送り込むんだな?」
「そうねぇ。手間だけど頑張るしかないわぁ」
「同意」
獄炎に蜜花と純粋が同意する。
悪魔が持つ罪は大きければ大きい程、物質界に顕現がしにくくなる。そして七罪級がギリギリながらも物質界に顕現できる限界で、魔界が送れる最大戦力だ。
勿論、簡単に送り出せることはなく、魔王たちをしてかなりの手間だと思う術や手続きを行なう必要があるため、七罪級が物質界に現れたのは数度だけだ。
「まあぁ。もう私は強行偵察の軍を送っちゃってるんだけどねぇ」
「けっ。その女神なんちゃらにやられて逃げ帰って来るだろうよ」
「作業開始」
こうして、三柱がそれぞれ七罪級と軍を送り出し、破滅が物質界に訪れようと……訪れ……。
世界を舐めた。侮った。慢心した。
己こそが。我らこそが攻める側?
魔界は攻められず、一方的に攻撃するだけ?
馬鹿め。
その日、魔界の第一層煉獄は理解した。
この地は物質界と最も隣接する場所で、侵攻するための拠点……だけではないと。
攻めに行けるということは、攻められるのだ……と。
そんな当たり前のことを、彼らは分からされた。
パチリと火の粉が弾ける。
パチリパチリと。
魔界に潜り込んでしまった。
『!!!!!!!!!!!!!!!』
突然声なき声が吠えた。
真っ赤に真っ赤に真っ赤に真っ赤に燃え盛る。
天が焦げる。
地が燃える。
標高の高い魔界の山々を見下ろすように炎が渦巻く。
熱気は山を越え、谷を越え、周囲にいた悪魔を尽く焼き尽くし、どす黒い雲を消し飛ばす。
「馬鹿な……」
破壊の化身、八罪の魔王たちが呆然と呟く。
魔界の最深部にあれがいるならまだあり得た。
しかしここは最も浅い階層だし、下から這い上がって来ているという情報はなかった。
それが意味するところは……。
「侵攻だと⁉ 魔界だぞここは!」
獄炎が叫ぶのも無理はない。
魔界第一層煉獄。史上初の侵攻を受ける。
超越者を越えた超越者。
怪物の中の怪物。
化け物を凌駕する化け物。
推定、十罪級。
文句なしに魔界が直面する最強最悪の敵だった。
どんなに見積もっても本体の手を越えることはない……火の粉だった。
プロローグ裏のアレ。
偉そうに集まってる悪党連中の横っ面を張り倒したいと思われる方は多い筈(*'ω'*)




