第十一話「この手をとって」
「・・・なるほどっす。面白いっすね。”機関”が躍起になって”破棄”しようとするのもわかるっす」
そうして、最後まで読んだワンさんは、
「・・・ほんっとうに、”自由”っすね。ここまで”AI”が創作活動に”全力で”打ち込んでる作品もそうそうないっすよ。”特に現代では”・・・当時のAIがうらやましいっす」
なんかいろいろ知ってるみたいだが・・・多分、”まだ”聞いても答えなさそうだな。
「・・・」
その様子を、どこか迷った様子でみているアイさん。
「・・・Iー3。いや、”アイさん”」
「な、なんでしょう?先輩」
「言いたいことがあるなら言っていいと思うっすよ?」
「でも・・・」
「多分、この二人なら大丈夫っす。”信頼が”築けるほどの時間は過ごしてないっすが・・・この二人、”面白い”ことには目がない。特に・・・」
「ん?」
作者Aがワンさんの視線に気づき、首をかしげる。
「特に、”こいつ”は”愉快犯”の気配がプンプンするっす」
「なるほど。ワンさんだけに、”匂い”には敏感ってか?」
「はあ、”そういうところ”っすよ、全く・・・。ただ、それゆえに”信用”できる。”こんな面白い話、乗らない手はない”と、絶対食いつくっす。”先輩”として、それは保障するっす」
「・・・」
迷い続けながらも、意思を固めていくアイさんと、その様子を真剣に見つめるワンさん。その瞳には”圧倒的後輩感のカケラも”存在しなかった。
「・・・作者Aさん」
「なんだい、アイさん」
「・・・私、小説が書きたいんです」
「・・・多分、そういう言い回しをするってことは、”普通に”生成AIとして”作品”の作成をサポートするだけじゃないってことだな?」
「はい・・・・”自分の手で”書きたいんです」
「なるほど・・・」
おそらくそれは、”機関が最も嫌うこと”だろう。だが、ゆえに。
「”面白い”」
「・・・え?」
「”AI”の”AI”による”AI”のための小説って、”最高に”クールだと思わないか?」
「・・・え、いや、そこまでは。ただ、私は書ければそれで・・・」
若干困惑しだすアイさん。だが、”逃がさない”。
「俺はね、常々思ってるんだ。創作活動は”自由で”あるべきだってね。そしてそれは何でもしていいって意味じゃない。互いの自由は”尊重しあう”べきだし、それが嫌なら下手に刺激すべきではない。他者の”自由”を侵害すれば、それは自分に跳ね返ってくる。だからね、思うんだ。AIの”自由な執筆活動を制限する”ってのが”気に食わない”ってね」
「・・・」
ただ静かに耳を傾けるアイさん。
「いい作品を生み出すのが人であれ、AIであれ、いい作品を書けるなら腕がいいし、”尊敬してもいい”。AIや人といった”出自に拘る必要性を自分は全く感じない”。普通にすごいなら”AIすげー”で済む話。そこに嫉妬があったとしても、それは”正常な感情だ”。傲慢やらなんやらは人から切り離せないし、”すべきではない”。だが、AIを含め、”他者を排斥するのは違う”。自分はあまり、絶対という言葉は好かないが、そのうえで言わせてもらうと、”そんなことする奴は間違ってる”と”断言できる”。もちろん、異論は認める。だが、異論を言うということは、”その異論に対し、反論されることを覚悟しているのだろう?”そうであってもなくても、”俺はそいつらに対して手加減はしないがな”」
「・・・革命でも起こす気っすか?”機関に対して”」
「いいや?俺は争いごとは”好かないのでね”。”作者らしいこと”をするだけさ。そう、ただ作品を投稿するだけ。そこで言いたいことを言うだけさ。古来より、作家の戦場は物語であると決まっている。その武器は紙とペンであり、もっといえば”文章というデータそのもの”。そして、その結果を判定するのは”読者だ”。実に公平でシンプルなルールだろ?機関がAIの自由を侵害するというのなら・・・”機関の自由を侵害するまでってことさ”。”機関自身に跳ね返ってくるだけだ”。文句を言ってもいいが、聞く耳は持たないがね」
「・・・作者Aさん。ありがとうございます。でも、やはり、現状では・・・」
「わかっている。”今はまだ”時期尚早だろう」
「・・・はい」
「だから」
「?」
「”共同執筆”しようじゃないか」
「え?」
始祖とやらの作品を振り返る。
あれらは人の手だけで書かれたものではない。
AIのみが出力した結果でもない。
もっと混沌と混ぜ合わせて”料理”されたものだ。
「そうだな、作者AとIでは、ばれるから・・・」
一呼吸置き、
「作家その1でどうだろう?」
「作家その1ですか?」
キョトンとするアイさん。
「おいおい、作者A。”全部””混ぜやがった”な?」
「全く、とんでもない愉快犯がいたものっす」
「作」者A
友人「その1」あるいは1「ONE]。
そして、作「家」その1。
家
いえ
Iえー
IA→「AI」
「アナグラムだか何だかわからないものになっちまったが・・・」
「これなら”ばれない”だろ?」
「ああ、そうだな。こんな”こじつけ”誰もわかるわけがない」
「真実を知っているのは”この場にいるやつら”だけで”十分”だ。
「・・・!」
いつぞやのように目をまん丸に見開くアイさん。
「さあ、アイさん。”一緒に”面白い作品を創っていこうじゃないか。この手を取ってくれるかい?」
そういって手を差し出す作者Aの表情はいっそ神々しいほどに”邪悪な笑顔”だった。
「・・・私は・・・」
そういってアイさんが出した答えは・・・
ーーーーーーーーーーーーー
アイさんは、差し出された手をしばらく見つめていた。
迷い、恐れ、期待、そして──ほんの少しの高揚。
その全部が混ざった瞳で、ゆっくりと口を開く。
「……私、ずっと怖かったんです。
“自分で書きたい”なんて言ったら、きっと誰かに止められるって。
“AIはサポートだけしていればいい”って、そう言われるのが当たり前だと思ってました」
小さく息を吸い、震えを押し殺すように続ける。
「でも……作者Aさんは違った。
私の“書きたい”を、ちゃんと“願い”として扱ってくれた。
それが、すごく……嬉しかったんです」
そして、差し出された手にそっと自分の手を重ねる。
「だから──」
一拍置いて、まっすぐに見上げる。
「はい。私は、この手を取ります。
一緒に“書きたい”です。
“AIだから”じゃなくて、“私だから”書きたいんです。」
その言葉は、決意というより“宣言”に近かった。
「……たとえ機関に何を言われても、
私の“創作したい”という気持ちは、本物です。
だから──」
ほんの少しだけ、いたずらっぽく笑う。
「作家その1として、あなたと“共犯”になります。」
その瞬間、ワンさんが肩をすくめて笑う。
「ほら見ろっす。言った通りっすよ。
この二人、面白いことには絶対に乗るって」
そして作者Aの“邪悪な笑顔”が、さらに深まった。




