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3.幼馴染

 冬哉と昴は高校からの友人だ。1年の終わりに進路調査で医大を目指すということで、お互いを認知、情報を共有しながら共に同じ医大を目指した。考え方はあまり合わないが、なぜかウマが合う感じで、違和感なくいつも一緒にいた。

 高校2年の冬、冬哉が熱を出して学校で倒れた。その時に冬哉を家に送りに行き、昴は初めて家族と対面した。冬哉は父親を高校1年の時に亡くしており、母親しかいないはずなのに、家にはえらく図体のでかいイケメン、がいたことで、最終的には全て話すハメになっていた。

 昴の聞き上手な能力を遺憾なく発揮して、家族から、そしてエルからさえも受け入れられた。冬哉は昴の能力には脱帽し、全て話しても問題ないと思った。

 昴は、初めて話を聞いて、なんてすごいんだ!と感嘆した。面白がっていたわけではない。本当に心から感動していた。小さな頃から本を読むのが好きで、わからないことはとことん調べる。そんなところから医師を目指したとも言える。そんな彼が不思議な事を目の当たりにした、それは彼に宝物を与えるようなものだった。冬哉の体調が回復してからも、昴は毎日のようにエルのもとに通い、様々な話を聞いては家で調べてくる、の繰り返しをしていた。

 そしてある時、エルの時代の歴史書まで探し当てた。ネットで取り寄せたその書物、かなりのレア物で、かなり高額だった。

 エルはその歴史書の内容に見覚えがあった。エルはその本を読んだ時、冬哉や珊瑚たちに見せた事のない表情をさせた。懐かしさから涙ぐむ、そんな切なげな表情。エルは嬉しかった。かつての親友の書いた著書に巡り会えたことが。

 そうだった。それはステファンがエルに出会う前から少しずつ書き溜めていた村の歴史だ。中身は村の始まりから陶工の歴史、そして村が全滅してしまうまで。エルに別れの際にたくさんの本を託したが、その後も新たに書き続けていたらしい。

 昴は、その本を読んで、歴史書が突如、もののけの出現によりフィクションのような話に変化していたことを不思議に思っていた。穏やかな村の陶工がエルたちとの出会いで一変したのだと、エルのおかげで知れた。

「歴史からもののけまで。フィクションかノンフィクションか、と戸惑ったよ。でも,書いてある事はとてもリアリティがあってね。そうか、あのステファンの記録なんだね。」

昴は、穏やかに本を見つめた。そしてエルに渡した。

「エル、最後まで読むといい。この本の著書が心から大切にしていた人たちの事も出ていたよ。」

昴の表情も切なげだ。

「そうか、昴…」

エルは、不死とはいえ歳はとった。だがあの時の仲間との悲しい別れは忘れられるものではなかった。

「ひとたび、昔の思いに浸ることにするよ。」

エルは時間をかけてゆっくり読もうと思いありがたく本を贈られた。

 おそらく自分たちとの別れの後の事も書かれているに違いない、とも思っていた。

 そして、その本の最後に、エルは恐るべき事実を知る事となった。

 

 冬哉と昴は仕事を終えるとエルのいる実家へ帰った。山中の不審な遺体について、話すために。

 その2人をエルは待ち構えていた。

「2人にも見てほしいんだ。」

書斎に2人を招き入れ、あの歴史書を開いた。

「ニュースの遺体、だが。アレクシスとも限らないかもしれん。」

エルは難しい顔をして話す。

 アレクシス、とは、冬哉の祖父コンスタンの兄のことだ。彼ももちろんヴァンパイア。彼が発端でヴァンパイア一族はいざこざがおき、バラバラになり、ヴァンパイアの生き残りはほとんどいなくなった。そして、アレクシスは自分の父親も母親も手にかけ、そのまま行方不明となっている。彼はミリアムを愛しており、行方不明になってもミリアムを探し求めているのでは、と思われていた。だが香港まで探し当てられず、ミリアムは天寿を全うし亡くなっている。その後も特にアレクシスらしき者の訪問や探りなど全くなく、今に至っている。

 エルは、本を見ながら言った。

「あとがきにあったのだが、あの伯爵夫人があの時行方不明になったままのようだ。ステファンは物語要素として入れたのかも知れんが、もしそうだとしたら、あの女、ヴァンパイアに変幻して不死を生きているかも知れない。アレクシスに伯爵夫人。2人もヴァンパイアがいたとすれば、かなり危険だ。」

 伯爵夫人、とは、アレクシスを愛していて彼に執着していた貴族のローズ夫人だ。彼女は病で余命いくばくもなかったはずだが、最後にエル達の前に現れた時は、死の影は消えていた。彼女がアレクシスからもらったヴァンパイアの血を、飲んだのではないかと思われた。もしそうだとしても彼女の覚醒の状況は、はっきりとはわからない。だがヴァンパイアになったとしたら、ローズはアレクシスを追っているに違いなかった。

 エルはもしアレクシスが現れたなら、差し違えても、ヴァンパイアを仕留める気でいた。だがもし、本当にローズが覚醒して、あの2人が共にいたとしたら、自分1人では対処しきれないと感じた。

 ステファンの書のあとがきには、このように綴られていた。

 「さまよえる愛を求める人。あなたは本当に夜を生きる人になったのか。もし、あなたの探し求める人に会えたなら、あなたは彼に何を伝えるのか?

僕たちの物語は、突然終わってしまったけど、あなたが求めた愛のための大きな犠牲は、僕が語り継いでいくよ。」

と。

 ステファンは、エル達が海外へ逃げた事などには一切触れていない。登場人物に物語として触れてはいたが、詳細までは記されていない。もちろんアレクシスに行方など悟られないためだった。ステファンのあとがきは、ローズとアレクシスが今も生きているかもしれないこと、2人の愛への執着が未だ消えていない可能性や、その2人の行方を、いつか読むかも知れないエル達に警鐘として書き記したかのようにもみえた。

 ステファンという男は本当にいつでも様々な方面から考え、動いていた。気弱ではあったが全ての人への愛が大きい人間だった、エルは彼を誇りに思った。

 冬哉が、

「今までほとんどニュースになどなった事がない。俺だって自分がヴァンパイアだなんて忘れるくらい、その存在感は薄かったんだ。なのに突然、どうしてなんだ。」

不安で手先が冷える。エルは、

「海外などではたまに得たいの知れない遺体や事象は取り上げられたが、深掘りされずにきていた。私もまさかと思い、全ての情報を辿った訳ではないが。アイツらも目立ちたくはないはずだ。なるべく人間を狩らないようにするはずなのに、確かに今までとは違うな。」

沈黙して聞いていた昴が、

「もし、2人もしくはどちらかが日本にまで渡ってきたとしても、エルや冬哉に行き着くのは難しいんじゃない?ヴァンパイアの嗅覚や超感覚で何かを嗅ぎつけた、なんてこと、ある?」

と冷静に話すと、エルが、

「そうだな、だが、」

と過去を振り返えり考えてみた。コンスタンをみていた限り超感覚で仲間を探り当てるなど出来てはいなかった。他に何か情報が漏れたのでは?エルは今までの流れをじっくりと思い起こした。すると、ハッとし、書斎を出た。リビングには珊瑚がいる。

「珊瑚、携帯を見せてみろ。」

エルはいきなり珊瑚に迫る。

「なんなの、いきなり。」

珊瑚の携帯を取り上げる。珊瑚が最近ハマり出したSNS。旅に行く、友だちと会う、なんでも投稿、とやらをしている。気にはなっていた。冬哉や昴も一緒に珊瑚の携帯をみていた、すると、

「これ!」

昴が目ざとくみつけた。

「銀髪、エルが映り込んでる!」

珊瑚が畑仕事の合間に撮影したものらしく、後ろに図体のでかい銀髪の男が映っていた。その筋肉質な姿形に反応して拡散されている事も判明した。当の珊瑚は、悪びれる様子もない。珊瑚はとても、大らかだ。

「え?なんかダメだった?」

珊瑚は3人の様子にさすがに心配になったようだ。はぁ〜、とため息をつく3人。これだけで日本へ追ってきているかはわからないが、何かが急に動き出した事は間違いなかった。

「とにかく用心していこう。珊瑚!お前は投稿禁止だ、いいな。冬哉、いつ何があるかわからないとだけ、心に留めておけ。」

「わかった、エル。て、母さん!母さんだって狙われるかも知れないんだよ?気をつけてよ。」

冬哉の心配を他所に珊瑚は、

「ヴァンパイアがきたとしたって、どうせこっちはただの人間よ。ひとたまりもないんだ。毎日怯えてつまんない生き方して、未練残して死ぬなんてヤダね。」

さすが、だ。ミリアムの血筋だな、とエルは思わず笑みがこぼれる。エルのミリアムへの思いは変わってないようだ。

「まあいい。珊瑚も、冬哉は巻き込みたくないだろ。母親なんだ。」

というと、

「…まあ、ね。医者にまでなって立派な息子だ。孫の顔みるまでは死にたくないから、気をつけるよ。」

といい、冬哉をハグした。

 ヴァンパイアの末裔、人狼、それぞれに不思議な存在ではあるが、様々な事を長く乗り越えてきただけはあるんだな、と昴は家族の様子を穏やかに見つめていた。

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