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2.山中の事件

 冬哉は、朝、いつものように出勤し、外来へ向かう。外科外来の自分の机に座る。予約者は今日も多い。

「先生、内科の昴先生から連絡ありましたよ。」

看護師が伝言を伝えてきた。

「ああ、ありがとう。」

冬哉は、内線電話から連絡をする。

「昴?なんだ、用事は。」

「おはよう、冬哉。悪いな、朝から。」

電話の相手は、朝比奈昴あさひなすばる。冬哉の医大同期の医師、幼馴染ともいえる友人だ。昴は内科の呼吸器科専門医だ。

「この間話してた患者なんだけど、」

と、内科患者を外科で診てほしいという連絡だった。午後、その患者の病棟で落ち合う約束をし、電話を切った。

 外来は混んではいたが、元々手先以外も器用な冬哉は、手間取ることもなく診察を終えた。昴と待ち合わせまで少し時間がある。冬哉はカフェテリアで少し休むことにした。

 カフェテリアでコーヒーを飲みながら手帳を見て予定など確認していると、カフェテリアのテレビのニュース報道に目が行った。

『○○県の山中に不審な遺体が発見されました。』

九州の山中で発見されたという遺体は、体内の血液がすべて抜かれたような状態だったという。出血するような傷は小さな咬み傷だけで、原因がわからない、というものだった。

 まるで、ヴァンパイアの仕業みたいだな。

 冬哉は頭に浮かんだ言葉に思わず立ち上がった。

 ヴァンパイアだと?

 自分で思いついていながら、その考えに全身がざわつくのを覚えた。そんな訳があるか、ヴァンパイアなんて。だけど、自分もヴァンパイアの末裔。他にいないとも限らない、だけど、と、考えてもはっきり出来ない状態に苛ついてしまう。

 すると、携帯が鳴る。エルだ。

「ニュース、みたか?」

エルは先程みた報道について、冬哉に連絡をしてきたのだ。

「たまたまだけど見たよ。まさか、そんな事ってありうるのか?」

冬哉は不安に苛まれて落ち着かなかった言葉をエルに投げかけた。エルは、

「あり得ない、と言いたいが、お前ならわかるだろう、もし、それが本当にヴァンパイアだとしたら、それが誰なのか。」

エルは冷静に話す。冬哉ももちろんそれは一瞬考えた。だけど、あれから何年経っていると思うんだ。あの御伽話の中の事がいきなり目の前に現れ、混乱していた。

「…アレクシスかもしれん。私は少し探ってみる。心配するな。」

エルは、穏やかな口調で言う。

「でも!」

冬哉はエルの落ち着きように、返って不安になってしまう。

「冬哉。」

エルは冬哉がさらに何か言おうとしたのを遮る。

「大丈夫だ。それがアレクシスだとしても、私がいる。」

そういうと電話を切った。

 私がいる?エルの言葉は安心して良いとは言えない言葉だ。つまりは自分が矢面に立ち、ヴァンパイアを食い止めるために犠牲になる、という事だ。ヴァンパイアを消滅させるには人狼によって傷を負わせる、または、相打ち、ヴァンパイア同士の共食い、だ。相打ちの場合は人狼も消えてしまう。まさかエルはそのつもりなのか?冬哉は不安でいても立ってもいられない。

「大丈夫か?」

昴が声をかけてきた。

「カフェテリアに居るって聞いたからさ。何かあったのか?顔色が悪いぞ。予定、後日にしようか?」

冬哉の様子から心配になったようだ。そんな昴の気遣いに我に返る。

「いや、大丈夫だ。行こう。」

と、病棟へ向かって歩き始めた。昴は、そのあとを追いかけた。

 内科病棟で対象となっている患者について話をし、1週間後には外科へ移し手術に備える運びとなった。

「コンサル、ありがとな。メールでもよかったんだが、やっぱ診てほしくてさ。」

昴が安心した表情で話す。だが、冬哉は先程の事が頭にあり、表情が重い。

「何があったんだ?話なら聞くけど。」

昴は、昔から人の顔色から心配ごとなど、よく気づいて相談にのっていた。それは友だちだろうと誰であっても親身になる。相変わらず心根の良いやつだ、と冬哉は昴をみて昔のことを思い出していた。

「お前に隠し事は難しいな。」

まさに内科医向きの昴に、冬哉は観念した、という顔をして話を始めた。

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