11.ガラス工房
どのくらいの時間、ガラスを見ていたのか?奥の工房から水瀬がコーヒーを入れて戻ってきた。
「冬哉先生、ガラス、お好きなんですか?」
水瀬は先程までの冬哉の様子をみて、質問した。
「いや‥」
と、一言返す。まだ言葉がうまく発せない。
「ほとんどがおじいちゃんの作品です。おじいちゃんは一代でずっとガラス製品を作ってます。私も作ってますけど、おじいちゃんみたいなのはなかなか作れません。見るだけで心が震える作品て、そうは出会えないですよね。」
と水瀬がコーヒーをテーブルに並べた。コーヒーカップもガラス製品だ。
「これも?」
と冬哉が尋ねると、
「そうです。と言っても、私の作品です。おじいちゃんには及ばないけど綺麗でしょう?」
と恥ずかしそうに話す。
「いや、これも美しいよ。そうか、君も作っているんだったね。」
と、カップを眺めた。
「どれか、買えるかな?自宅で使いたい。」
冬哉はこのガラスの作品のどれかを欲しいと思った。
「それなら、これはどうですか?」
とペアのコーヒーカップとソーサーを見せてくれた。青色のものと緑色のものペアで、凸凹したガラスの表面が光に当たるたびいろんな表情をみせる。
「いいね、これ。」
冬哉はとても気に入った。
「ありがとうございます!」
と水瀬は嬉しそうに商品を梱包し始めた。包み紙を折り畳む水瀬を見ていて、ふと、冬哉は、
「昴のこと、好きなんだよね?」
と、いきなり言った。水瀬は、
「え、え、えー?!」
と驚いた。
「なんですか、いきなり!」
動揺を隠せない。
「あ、ごめん‥。」
冬哉は何も考えず思わず口にしたことを反省した。
「冬哉先生は、冷静かつ、丁寧なお医者様ですもんね。観察眼はさすがです。」
と、水瀬は誤魔化すのは諦めて笑った。
冬哉は、そんなことを言っておきながら、水瀬のその笑顔を綺麗だと思っていた。昴のことを好きなこの子のことを、もっと知りたいと思ってしまっていた。
「はい、お待たせしました。この子とよい時間を過ごせますように。」
と商品を渡す。その水瀬をじっと見つめる冬哉。
「冬哉先生?」
なかなか受け取らない冬哉を不思議に思い、水瀬は声をかける。
「あ、ああ、ありがとう。」
商品を受け取り、支払いを済ませた。
「あの、また、見にきてもいいかな?」
冬哉は聞いた。
「もちろんですよ。よかったら、工房にもいらしてください。」
と水瀬が嬉しそうに答える。
「ありがとう、また、くるよ。」
と、冬哉は店を後にした。水瀬が店の前で見送っている。水瀬の目線に背中がくすぐったい感じがしていた。
家に帰るとすぐに先程のカップを出した。窓の方から入る夕焼けの光にキラキラ輝いている。冬哉はキッチンカウンターにそれを並べて置いた。とても綺麗だ、いいな、これ。触り心地も色も。俺も作ってみたいな。
と、そんなことまで考えていてハッとした。なんでこんなに?自分でも不思議だった。
それ以来、ほとんど毎日のように、工房に通うようになるとは、冬哉自身が一番驚く事になる。




