第4話 不思議な違和感
ニワトリ捕獲作戦の一件以来、俺はすっかり「リナの相棒」と呼ばれるようになった。恥ずかしいあだ名だが、それは確かに、俺がこの村に居場所を得ている証のようでもあった。
季節は巡り、村は収穫祭の準備で大忙しだ。俺もリナや子供たちと一緒に飾り付けを手伝っていた。
「見て、ユウ! こんなに綺麗な葉っぱ!」
「本当だ、赤くてすごいな」
リナが嬉しそうに笑う。その笑顔に釣られて、俺の口元も自然にほころんだ。
そんな時、事件は起きた。
木の実を運んでいた少年が、足を取られて前のめりに倒れそうになった。――その瞬間、世界が静止した。
音が消える。
時が止まる。
そして、俺の視界が不意に"巻き戻る"。
転がる木の実、崩れるカゴ、驚きの声。全てが逆再生のように戻り、次の瞬間、少年がまだ転んでいない姿が目の前にあった。
「危ない!」
思わず腕を引き寄せる。少年は転倒を免れ、カゴも無事だった。
その瞬間、こめかみがズキンと痛んだ。軽い目まい。一瞬、視界が揺れる。
だがすぐに収まる。気のせいだろうか?
「……え?」
少年がきょとんとした顔で俺を見ている。周りの子供たちも不思議そうに首をかしげていた。
「どうしたの、ユウ?」リナが駆け寄る。
「あ、いや……なんとなく危ない気がして」
苦しい言い訳をするしかなかった。額を軽く押さえる。さっきの痛みは、もう消えている。
それからだ。時折、同じようなことが起こるようになった。
皿が落ちる前に、なぜかその軌道が見えて手が勝手に動く。そのたび、軽い頭痛。
かくれんぼでは、目を閉じているのに皆の隠れ場所が頭に浮かぶ。目の奥がチリチリと痛む。
ほんの一瞬、世界が逆再生したかのように。
これから起こるはずの出来事を、先に見てしまうかのように。
そして――使うたびに、身体の奥が少しずつ削られていく感覚。
「……なんなんだ、これ」
胸の奥がざわついた。不安と、そして――痛みへの恐怖。
理解より先に、恐怖が走った。
ようやく手に入れた穏やかな日常。その全てを、この得体の知れない力が壊してしまうのではないか。
祭りの喧騒が聞こえる村を眺めながら、秋風のような冷たい不安が、静かに心に吹き込んでいた。
だが――脳裏にリナの笑顔がよぎる。
この力も、誰かを守るために使えるのなら。




