第2話 村人たちとの温かい歓迎
リナに手を引かれて森を抜けると、視界がぱっと開けた。
光が、一気に世界を満たす。
なだらかな丘に寄り添うように小さな村が広がっている。石造りの家には赤い瓦屋根、庭には花が咲き、畑では屈強な男たちが鍬を振るっていた。煙突から上がる白い煙、子供のはしゃぐ声、風に乗る鐘の音――それらは交響曲のように重なり合い、都会の無機質な景色とはまるで違う、温かな暮らしの旋律を奏でていた。
「ただいまー!」
リナが声を張ると、畑仕事をしていた村人たちが一斉に振り向いた。
見慣れない俺の姿に驚き、遠巻きにひそひそと噂話をしている。その詮索するような視線に、俺は思わずリナの後ろに隠れた。
そんな俺をかばうように、リナが胸を張る。
「この子、森で迷子になってたの! 私が連れてきたんだから、いじめないで!」
彼女の堂々とした態度に村人たちは苦笑し、道を開けてくれた。
リナに連れられた家はこぢんまりとした石造り。扉を開けるとパンの香ばしい匂いが漂ってきた。
「おかえり、リナ。早かったのね」
奥から現れたのは、リナによく似た女性――母親のエルナだった。事情を聞くと彼女は驚きつつもすぐに俺に視線を合わせ、微笑んだ。
「まあ、大変だったわね。温かいスープがあるから、食べていきなさい」
差し出されたスープとパン。ぎこちない手つきでスプーンを持つ俺を見て、リナは笑い、エルナは「ゆっくりでいいのよ」と冷ましてくれる。
一口飲むと、野菜の優しい甘みが胸に沁みて、張り詰めていた心がほどけていった。
「お名前は?」
「……ユウ、です」
本当の名前を隠しつつ、繋がりを残す最後の欠片だけを口にした。
「いい名前だね!」とリナが声を弾ませ、エルナも「ユウ君ね」と頷いた。
「記憶が戻るまでここにいるといいわ。部屋なら余っているから」
驚く俺に、奥から現れた父親グランがぶっきらぼうに言う。
「……リナが連れてきた客だ。好きにさせろ」
短い言葉に拒絶はなく、温かさがにじんでいた。
案内された屋根裏の小部屋。木の匂いが漂う清潔なベッドに腰を下ろすと、胸の奥にざわめきが広がった。
転生、記憶喪失、知らない村、見ず知らずの家族の温もり。
あまりに多すぎる出来事に、頭は追いつかない。
窓から聞こえる村の喧騒を耳にしながら、思わず呟いた。
「……居場所、か」
理解より先に、胸が温かくなった。
静かな部屋にその言葉は吸い込まれていった。
闇の中でしか、光を見つけられないのなら――それでも進もう。
ここで。この村で。




