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第9話 村の人々の信頼を

 俺とリナが盗品を抱えて村に戻ると、広場はざわめきに包まれた。

 盗難の濡れ衣を着せられていた旅商人ロレンツォは、周囲の冷たい視線に晒されて肩を落としていた。


「待って! 盗んだのはロレンツォさんじゃない!」

 リナが大声で訴える。俺も盗品を掲げて続けた。

「犯人は森の洞窟に潜んでたゴブリンでした。こいつらが盗んだんです!」


 村人たちが息をのむ。

「ゴブリンだと……?」

「確かに、盗まれた品が戻ってる……」


 俺たちの言葉に嘘はなかった。実際、燭台もブローチも木のおもちゃも、すべて揃っている。


 ざわめきが広場を満たす。驚き、安堵、そして――恥じらい。

 ロレンツォへ向けられていた視線が、次第に逸らされていく。重苦しい沈黙の後、誰かが小さく息を吐いた。それが合図となり、空気が一変する。


 疑いの視線はやがてロレンツォから離れ、安堵の表情へと変わっていった。

「ロレンツォさん、すまなかった……」

「外から来た人間だからって、疑ってしまって……」

 村人たちが口々に謝る。ロレンツォは柔らかく笑い、首を横に振った。

「いいんです。誤解は解けましたから」


 その様子を見て、胸の奥がじんと熱くなる。

 ロレンツォも、きっと俺と同じ"外の人間"なんだ。よそ者として見られ、疑われる痛みを知っている。だからこそ、この瞬間の安堵が――誤解が解ける喜びが、胸に響く。

 俺とリナが役に立てた。居場所をくれるこの村のために、何かを守れたんだ。


「ユウ、ありがとう!」

 リナが満面の笑みを向ける。その言葉に、頬が自然と緩んだ。

 村人たちも俺に感謝の言葉をかけてくれる。

「よくやったな、坊主!」

「勇敢だったぞ!」


 不器用なグランも、ぽつりと一言。

「……大したもんだ」


 それは短い言葉だったが、確かな重みがあった。

 理解より先に、涙が出そうになった。

 前世で誰かに褒められることなんて、ほとんどなかった俺が、今この村で「認められている」。その事実が胸に広がり、熱くこみ上げてくる。


 夜、家に戻るとエルナが温かいシチューを用意してくれていた。

「お疲れさま。今日はユウに助けられたわね」

 優しい声に、胸の奥がさらに温かくなる。エルナは俺の髪をそっと撫でてくれた。その手の温もりが、こわばっていた肩の力を抜いてくれる。

「でも、無理はしないでね。リナのことも、ユウ自身のことも……大切にしなさい」

 グランも台所から顔を出し、無言で頷いた。その眼差しは厳しくも、温かかった。


 俺はスプーンを握りながら、心の中でそっと呟いた。

(……この村でなら、俺は本当にやり直せるかもしれない)


 信じてくれる人がいるのなら――それは闇の中でも、光になる。

 その光は、確かに温かかった。手のひらに、胸の奥に、静かに灯り続けている。

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