表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/54

プロローグ

 俺は、前世で物理学者だった。

 といっても、偉大な発見を成し遂げたわけでもなければ、名を馳せたわけでもない。まだ若く、研究室に籍を置く一人の研究者に過ぎなかった。


 専門は「時間と因果の物理学」。

 子どもの頃からずっと抱いていた問い――「時間とは何か」「未来と過去は本当に一方通行なのか」――その答えを求め、ひたすら机にかじりついていた。


 だが現実は厳しかった。

 論文はなかなか採択されず、同僚たちにも「夢想家」と笑われた。

 学会では拍手もなく、ただ冷たい沈黙が返ってくる。

 それでも俺は、諦めきれなかった。


 なぜなら、俺にとって「時間の謎」を解き明かすことは、生きる意味そのものだったからだ。

 けれど、そんな執念も報われることはなかった。

 ある日、不意に訪れた事故――研究所で試作していた「因果反転結晶炉」の制御系が臨界を超え、時空構造そのものが崩壊した。


 眩い紫の光。

 時間が逆流し、因果が断ち切られ、世界の法則が砕け散る。

 結晶が共鳴するような高音が響き渡り――意識が闇に沈む、その刹那。


『……居場所を、探してみるか?』


 誰のものとも知れぬ声が、確かに耳に届いた。

 声と同時に、断片的な映像が脳裏をよぎる。――光の中で固く結ばれた、自分のものではない、小さな二つの手。栗色の髪を揺らして笑う、見知らぬ少女の顔。そして、魂が焦がれるほどの、温かい感覚。


 それが誰の声で、何を見せられたのかは分からない。

 ただ、悠真は思わず頷いていた。


「……あるなら、見つけたい」


 理解より先に、心が答えていた。


 そう答えた瞬間、全てが光に飲み込まれ――。


 闇の中でしか、光を見つけられないのなら――それでも進もう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ