手とキミのくせ
「ねえ、水族館行かない?」由依ちゃんが不意に提案した。
「いいね!」「いいな」私と慎二くんの声がぴったり重なる。
「じゃあ、決定だね!」
水族館に到着すると、私は改めて思った。ここはまさに“リア充”の聖域だと。そして、私たちも今、その真っ只中にいる。
「うわぁ、すごく綺麗……」思わず感嘆の声が漏れる。
「地元とは全然違うな」慎二くんが隣で呟く。
「東京のすごさが伝わってくる」
私も頷いた。確かに、私たちが住む場所とは比べ物にならないほど、東京は人で溢れ、心躍る施設で満ちている。
歩いていると、私の手と慎二くんの指先が、不意にそっと触れ合った。「あ……」私たちはお互い気まずくなり、みるみる顔が赤くなる。
すると、慎二くんが私の手をぎゅっと握った。その表情からは、「もうこうなったら!」という決意がはっきりと読み取れる。慎二くんは、感情がすぐに顔に出るタイプなのだ。
少し後ろを歩いていた明と由依は、満足そうに顔を見合わせて頷いた。「やっぱ水族館にして良かったな」「うん。そうだね。結月ちゃんが幸せそうで何より」
さらにその背後では、遥グループの四人がひそひそと会話を交わしていた。
「前の前って、慎二と結月ちゃんじゃない?」
「確かに……」莉音は、嫉妬を滲ませたむすっとした表情で答える。
「おい、二人の手を見てみろよ」光が小声で囁いた。
全員の視線が、慎二と結月の手に集中する。
「手を繋いでる……?」莉音がさらに小声で呟いた。
「こんなに見られてるのに、気にせず手を繋いで……。バカップルの誕生だな!」光はけたけたと笑う。
「結月さんに失礼だろ」淳司がたしなめた。
「すんまへん……」
「慎二くんは……?」遥がぽつりと漏らす。
光は反省の色もなく、「あいつは、ああいうのが好きだからいいんじゃね? あと元々バカだし」と言い放つ。
「言い過ぎだっ!」と淳司。
「お腹へったー」私は無意識に口にした。
「あ、もう昼食の時間か。チェーン店は嫌だな」
「確かに。どこでも食べられるからね」
「確かに。どこでも食べられるからね」
「あそこ、良くない?」私が指差したのは、『らぁ麺 澄すみ』という店だった。
スマホで調べると、ネット上では値段も手頃で雰囲気も良いと評判らしい。この辺りはラーメンが有名だそうで、私たちは迷わずそこに決めた。
慎二くんは味噌、私は醤油、由依ちゃんは塩、明くんは豚骨。それぞれが違う味を選んだ。
「あ、美味しい!」
「確かに!」
この店に来て正解だった。
すると、「ん? どれ?」慎二くんが私の醤油ラーメンを一口、ずるずるとすすった。
前にも同じようなことがあった気がする。あの時はドリンク専門店だったけれど。
「あ……」
慎二くんは、何も考えずにただ麺をすすり続けている。時々私の方を見るけれど、それでも箸は止まらない。
かっこいい。だけど、麺がどんどん減っていく。もう食べるのをやめてほしいな。そう思ったけれど、結局私は何も言えなかった。
「慎二、結月が戸惑ってるぞ。あと長い」明くんが助け舟を出してくれた。
「あ」慎二くんは我に返り、「ごめん。つい……」と苦笑いをした。
「だ、大丈夫!」私は気にしないふりをして、笑顔で答えた。