うれしくて、はずかしくて
計画は飛ばして当日。
「うわーっっっ! マジで都会だぁっっっ!」
東京は、私にとって初めての世界だった。テレビの中でしか見たことのない高層ビルや雑踏、人の波に、胸が高鳴る。まるで夢の中にいるような気分だった。
「田舎とは違うなー」
「それな?」
テンションが爆発しているのは、どうやら私ひとりだけらしい。他のみんなは少し引き気味で、反応も薄め。うん、ごめん、ちょっと浮かれてたかも……。
「じゃあ、さっそくあそこ行こーっっ!」
「あ、うん……」
勢いだけで引っ張ってしまって、みんなあんまり乗り気じゃない。空気、読めてなかったかも……。
一方、遥班。
班長、遥、副班長、淳司、保健係、莉音、地図担当、光。こちらもなかなか個性的なメンバーがそろっていた。
「じゃあ、早速あそこ行こうぜーっっ!」
光が声を弾ませる。どうやら、私と同じ場所を目指していたらしい。
「早くね?」
「まあまあ!」
莉音は内心、やった! 行きたかったとこだ! と、わかりやすくテンションが上がっていた。
目的地にて
「着いたー! ……って、あれ? 遥ちゃんの班じゃない?」
「ほんとだ……」
気づいてしまった私たちは、少し気まずくなりつつも、お互い知らないフリをして足を進めた。
同じ頃──
「あれ、結月さんたちじゃね?」
「たしかに!」
遥班もこちらに気づいたらしいが、特に絡むことなく、自然に店内へ。
広くて明るい店内。私は思わず駆け出してしまった。
「あっ、あれ……好きなアニメのコーナーじゃん! 意外と……デカッ!」
夢にまで見た、推しのコーナー。テンションはMAX。
「……まったく……」と慎二はあきれ顔だったけれど、「いいんじゃない?」と由依が笑ってくれた。
「え?」
「だって、結月ちゃん、今まで辛かったんだから」
「……そうだな」
「最初はちょっと遠慮してたけど、今はあんなふうに……。私、今の結月ちゃんの方が──」
由依が言いかけたそのとき。
「お待たせーっっ!」
私が両手いっぱいの袋を抱えて戻ってきた。
「おかえり、結月」
「って、結構買ってないか?」
「まぁ、ちょっとだけ」
テーブルの上に、袋の中身を並べる。
……“ちょっと”どころじゃなかった。十個以上あった。
「このキャラ、慎二くんに似てない?」
遥ちゃんがそう言って笑う中、慎二くんは無言だった。
私はそっと彼のそばに寄り、ささやいた。
「……ごめん。これ全部、慎二くんなの。他の人には、言わないでね」
「わかった。他の人には、黙っとくよ」
一方その頃、遥班では──
「うわっ、かっこよ……! 尊すぎるって……!」
莉音が、グッズコーナーで独り言を呟いていた。
「それ、誰なの?」
「私の推し」
そう、莉音にも“推し”がいた。
──莉音の推し愛があまりに長すぎたので、ここでカット──
結月班、再び
「ふぅ〜、推しグッズも買えたし、そろそろ帰ろうかな〜」
冗談めかして駅の方へと歩き出す。そんな私の腕を、慎二がそっと掴んだ。
「結月。一緒に回ろう。まだ時間、結構あるし……スカイツリー、行ってみよう」
「……うん!」
胸がぎゅっとなった。こんなふうに、誰かと一緒にどこかへ行くなんて、いつ以来だろう。
東京スカイツリーにて
「うわーっ、高っ!」
私はテレビで観ただけだった。相当高いのは知っていたが、想像以上だった。しかも、景色がとても良い……!
だが、展望台に立った瞬間、足がガクガク震えだした。
「結月、どうした?」
慎二くんが私の足元を見て声をかける。
「ふぇっ……?」
変な声が出た。
「足が震えてるよ」
「ちょっと、怖くて……」
「こうすれば、大丈夫?」
慎二くんがそっと、私の手を握ってくれた。
「……///」
恥ずかしくて、顔を上げられなかった。
その少し離れた場所で、由依ちゃんと明くんがぼそっとつぶやく。
「……ここ来るなら、水族館の方がよくない?」
「……確かに……」
気まずそうなふたりの会話が、ちょっとだけ聞こえてきて、私は少し笑いそうになった。