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わくわくっ!

 まるで夏のような青空と、じりじりと肌を焼く暑さ。

そんな初夏の空気に包まれながら、私は登校していた。

ところが、突然──

「ヤバい! 雨だ!」

 空が豹変し、大粒の雨が滝のように降り始めた。天気予報なんて見ていないし、傘も持ってきていない。

慌てて、私は駆け出した。服が濡れるのも気にせず、ただ家を目指して──。

「あ、結月さん」

突然、背後から声をかけられた。振り向くと、そこに立っていたのは光くんだった。

「あ、光くん……」

私の姿を見て、光くんは少し戸惑ったように、けれど優しく言った。

「あの、傘……良ければ、入る?」

「えっ、いいの?」

「うん、もちろん!」

私は遠慮なくその申し出を受けた。光くんの傘に入ると、少しだけ雨の冷たさが和らいだ気がした。

けれど、そんな束の間の安心も、すぐに打ち破られることになる。

「……あれ、結月」

今度は別の声が背中越しに聞こえた。振り向くと、そこには慎二くんが立っていた。

「あ、慎二くん……」

彼の視線が、光くんに向けられる。鋭く、警戒するような目だ。

「結月に……何かしたか?」

「い、いや! 何もしてないよ!」

光くんは苦笑いしながら、少しだけ肩をすくめた。私は慌てて説明した。

「あ、傘を貸してくれたの」

「そっか……」

慎二くんはふっと表情をゆるめると、少し間を置いてから言った。

「俺の傘に、入る?」

その目を見たら、断れなかった。私は小さくうなずいた。

「うん……」

光くん、ごめんね。心の中でそう謝りながら、私は慎二くんの傘に入った。


 数日後。教室の空気がざわついたのは、先生の一言がきっかけだった。

「今年の校外学習は……東京です!」

「イェーイ!」

クラス中が一斉に盛り上がる。東京か……。確かに、楽しみだけど、人も多そうだ。

「まず、班を自由に決めてください。四~五人でお願いします。決まったら、行きたい場所も考えてね」

「結月、一緒の班になろう」

「うん!」

 こうして、一班は私、由依ちゃん、慎二くん、明くんという顔ぶれになった。ちなみに遥ちゃんと莉音と淳司くんと光くんは二班だ。

その後ろで、光くんがぽつりと呟いた。

「東京か……」

「どうした?」と淳司くんが首を傾げる。

「アニメグッズ買いに行きたいな……」

「ダメだって!」淳司くんがすかさずツッコむ。

その隣の班からも、同じような会話が聞こえてきた。

「……確かに、行きたいなぁ」

私がそう漏らすと、慎二くんが笑って言った。

「頑張れば、行けそうだけどな」

そのとき、ひとりのクラスメイト──通称オタクくんが先生にナイスな質問をしてくれた。

「先生、アニメグッズ専門店って行っても大丈夫ですか?」

先生は少し考えてから答えた。

「ダメとは言いません。ただ、お金の使い方には気をつけてね」

先生、優しいなぁ、と私は心の中で深く思った。


やった。行ける……!

「じゃあ、候補に入れよう!」

その瞬間、私は自分でも分かるほどテンションが上がっていた。周りの子たちはきっと「キャラ変わったな」と思っているだろう。


先生が「ちょっといい?」と声をかけ、話を戻す。

「係決めを忘れてました。班長、副班長、保健、地図係を決めてください」

「はい!」とクラス全員が胸が躍る気持ちを不器用に隠しながら返事をした。

私は、視線を先生から班のメンバーに戻し、「班長やりたい人ー?」と訊いた。

だが、しーんとしていた。

誰も手を挙げない。やっぱりか。

(早く情報集めたいし、もう……やっちゃう?)

私はこういう時間が大嫌いだ。時間の無駄だし、早く計画を立てたいからだ。

私は意を決して「じゃあ、私がやる!」と言った。

「やる気満々だな。てか、結月ってキャラ変わったよな」

慎二くんが呆れたように笑うと、周囲も「うんうん」と頷いていた。

(だって……あそこ行けるんだよ⁉︎)

私はあそこに行ければ班長だって、荷が重い仕事だって、何でもできるんだ。

 最終的に、係はこう決まった。

班長は、私、副班長は、慎二くん、、保健係は、由依ちゃん、地図係は、明くん。

 班長なんて初めてだ。テンションが妙に高くて、自分でもおかしいって分かる。

「色んな店舗回っちゃう? 例えば、渋谷、池袋、秋葉原……?」と私が提案すると、慎二くんが真顔で言った。

「結月、それはやめろ。流石に怒られる」

推しにそう言われたら、もう何も言えない。

「……分かった!」元気よく返事をして、私は笑った。

「そうだ、あそこも候補に入れようぜ」

「どこ?」

「東京のシンボル。紅白の塔と、すごく高いやつ」

「……それ、東京タワーとスカイツリーじゃん」

「だな」

そう言って笑い合った。


 東京──楽しみすぎて、心の中がワクワクでいっぱいだった。

ふふ、棒読みじゃないよ? 本当に、心からそう思ってる。

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