そうだったんだね
*
立ち直れない。胸の奥が、ずっと痛いまま。
もう、嫌だ。
そんなときだった。
「莉音ちゃん、大丈夫?」
優しい声が聞こえた。振り返ると、そこには結月ちゃんが立っていた。
……ああ、なんで、今あの子がここにいるの。
結月ちゃんは、本当に“いい子”だ。
私より頭が良くて、私よりピアノも上手くて、慎二くんにだって好かれてて。
まあ、運動だけは私の方が得意だけど……そんなの、何の意味もない。
今となっては、全部が劣って見える。
──あの子なんか、いなければよかったのに。
気づけば、私は怒鳴っていた。
「黙って!」
「あ……ごめん……」
結月ちゃんは戸惑った顔をしていた。
私は、その顔が嫌いだった。何も悪くないみたいなその目が、何も言い返さないその声が。
どうしてあんなに“完璧”なの?
どうして、私じゃダメなの?
*
最近、莉音ちゃんの様子がおかしい。
心ここにあらずというか、いつも何かを背負ってるみたいで──。
「莉音ちゃん、大丈夫?」と声をかけたときだった。
「黙って!」という強い声が返ってきた。
「あ……ごめん……」
私は思わず謝ってしまった。けど、その理由がわからない。
多分、慎二くんなら、何か知ってる気がした。
「莉音が告ってきて、俺は……結月がいるから断った。そしたら莉音が結月の悪口を言ってきて、俺が怒った。たぶんさっきのは、結月が羨ましかったんだと思う」
「そっか……謝った方がいいのかな」
「いや、結月は悪くない。謝ってまた莉音がキレたら、今度はもっと傷つくかもしれないだろ。気をつけろよ」
「うん……」
*
昼休み。
「昼ご飯、ここで食べよう」
「うん」
慎二くんと一緒にお弁当を開いた、そのときだった。
なんだろう……誰かの視線を感じる。
「ねぇ、そこにいるの、誰?」
物陰から、ひょこっと顔を出したのは──莉音ちゃんだった。
「一緒に食べよう」
私がそう言うと、莉音ちゃんは首を横に振った。
「来なよ」
慎二くんも、優しく声をかけた。
莉音ちゃんは、しばらく俯いていたけど、やがて静かに私たちの方へ歩いてきた。
「ねぇ、結月ちゃん……私、たくさん悪口言ったのに……どうしてそんな奴と関わってくれるの……?」
私は静かに、でもまっすぐに言った。
「私、小学生の頃、いじめられてたの。毎日悪口を聞かされて、友達がいなくなった。信じてた二、三人にも裏切られて……だから、莉音ちゃんみたいに感情を出せる人と、友達になってみたかったんだ」
莉音ちゃんは、目を見開いて、唇を噛んだ。
「……ごめん……悪口言ったり、当たったりして……」
「大丈夫。私たち、友達でしょ?」
「友達……」
ぽつりと、莉音ちゃんはつぶやいた。
*
──あんなにひどいことをしたのに、“友達”って言ってくれるなんて。
私は今まで、一体何をしてきたんだろう。
何もかもが手に入らないようで、全部持っているように見えるあの子。
でも本当は、誰よりも深い孤独と優しさを知っている人だった。
私は、少しずつ──本当の意味で、変わっていける気がした。