新しいともだち
「慎二くん、おはよう」
「あ、ゆ、結月か。おはよ」
結月ちゃんが転校してきて、まだ三日しか経っていないのに、どうして慎二くんとあんなに仲良くなれるんだろう。
あ、自己紹介が遅れたね。私は久木元 莉音。最近、結月ちゃんのことをこっそり観察している。
「気持ち悪い」なんて言わないで。違うの、ただ仲良くなりたいだけ。
「じゃあ話しかければいいじゃん」って? でもね、慎二くんと話してる時間が長すぎて、私には話すタイミングがないの。だから、つい観察しちゃうんだ。
そんなことを考えていると、結月ちゃんがふとこちらを振り向いた。目が合った瞬間、心臓がドキリと跳ねた。
*
最近、誰かに見られている気がして仕方がない。
「気のせいかな?」と思って振り返ると、目が合ったのは莉音ちゃんだった。
「まさか……」
彼女は照れくさそうに言った。
「あの……私、結月ちゃんのこと、こっそり見てて……転校してきてからずっと気になってて……仲良くなりたいな、って思ってて……もしよかったら、友達になりませんか?」
急な告白に驚きながらも、心の奥があたたかくなるのを感じた。
私、今までずっといじめられてきたから、「友達」という言葉はすごく特別だった。
「気にしてないよ。友達になろう!」と、自然に言葉が出て、彼女の手を握った。
*
そう、言うことにしたんだ。
あの時、目が合ったから。
「あの……私、結月ちゃんのこと、こっそり見てて……転校してきてから気になってて……仲良くなりたいな、って思ってて……もしよかったら友達になりませんか?」
言葉は詰まったけれど、勇気を出して伝えた。
結月ちゃんはにっこり笑って「気にしないよ。友達になろう!」と、握手を返してくれた。
*
「こっち来て」
「え?」
私は莉音ちゃんを慎二くんのところに連れて行き、「今さっき友達になった莉音ちゃんでーす!」と元気に紹介した。
慎二くんは笑った。
「え? 笑うところ?」
「いや、友達になったところ見てたから」
「そっか」
私も笑った。
「……かわいい」
慎二くんが小声でつぶやいたのが、はっきり聞こえた。
「聞こえてるよ」
*
「……かわいい」
「聞こえてるよ」
この会話、なんだか不思議だった。
慎二くん、さっき「かわいい」って言ったよね?
結月ちゃんは笑いながら「聞こえてたよ」と返した。
もしかして……付き合ってるのかな?
転校してきてまだ数日なのに、ふたりはすごく仲がいい。
「かわいい」って、彼氏が言う言葉だよね。友達に言うかな?
でも聞くのは怖かった。
「ねぇ、結月ちゃんって彼氏いる?」
気づけば口から出ていた。
*
「ねぇ、結月ちゃんって彼氏いる?」
急に訊かれて驚いた。
もし「いるよ」って答えたら、数日後にはきっと、「結月ちゃん、彼氏いたんだね」や、「似合わない」、「慎二くんもちゃんと選ぼうよ」、「〇〇ちゃんの方がかわいいよね」とマイナスな言葉がクラスメイトの口から出てくるだろう。
そんな噂が流れるのが怖かった。
「誰?」って聞かれたら、どう答えればいい?
「慎二くん」って言ったら、またみんなの声が聞こえてきそうで。
だから、思わず嘘をついた。
「いないよ」
と。
*
「いないよ」
やっぱり誤解だったのかな。考えすぎかもしれない。
でも、なんだか嘘っぽい感じがした。