表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悲しみの彼シャツ

作者: 和野 咲

「彼シャツをしてみたい!」

「なんて?」


みーこが突拍子もないことを言い出すのは今に始まったことではないが、大樹はやはり毎回多少面食らう。


「だから、彼シャツ!彼氏のシャツ着たらブカブカ

 〜何も履いてないみたい〜可愛い〜ってやつした

 いの!大ちゃんも可愛い彼女の彼シャツ姿見たい

 でしょ?」

「結構です。」

「なんでよ!」


付き合って1年ちょっと、家で一緒に過ごすことももちろんある。でも彼シャツとやらは別に見たいと思わない。


「いいじゃん〜。お願いだよぉぉ!」

「別にみーこが着る物なら他のがあるだろ。」

「大ちゃんのシャツが着たいんだよぉぉ!」

「却下。」

「意地悪〜!」



そんな会話をしてから1週間後。

すっかり忘れていた日の朝、俺はみーこの声で目が覚めた。


「えぇ!?なんか思ってたのと違う!」


彼女の方が早起きなのはいつも通りだか、いつもと様子が違う。なにやらクローゼットの前でベソをかいている。


「…何…どうしたの…。」


睡眠に戻りたがる頭をなんとか制御して聞くと、こんな答えが返ってきた。


「彼シャツしようと思ったら…ちょっと大きめのシ

 ャツ着ただけになっちゃった…。」

「そうだろうよ…。」


彼女と自分では15センチほど身長差はあるが、自分は肉も筋肉もないから身長の割に服のサイズはさほど大きくない。加えて彼女はもともと水泳をやっていたこともあり、割としっかりした体型だ。

2つの条件が合わさった結果、彼女の予想に反してなんとも悲しい結果になってしまったようだ。


「体型のこと忘れてた…悲しい…。」


自分からしたらわかりきったことだが、彼女にとってはそうではなかったらしい。目に見えて落ち込んでいる。


「だから言ったじゃん。」

「大ちゃんは結構ですとか却下とかしか言ってな

 い!どうなるか言ってくれたら素直に諦めたの

 に!」

「いやそれはないだろ。」


理由を話したとて、彼女は諦めるどころか絶対に違うことを証明する!と言ってその場でやり始めるに違いない。なんとなく流して話題を変え、気を逸らして忘れさせた方がこうなる確率は低かったのだ。今回は忘れてくれなかったようだが。


「わかったら早く脱いでくれ。なんとかしようとし

 てシャツが伸びてる。」

「大ちゃんの意地悪!彼女の果敢なチャレンジを少

 しは讃えてくれても良くない!?」

「果敢だと分かってるならやらないでくれ。んで早

 く脱げ。」

「せめて慰めてよ〜!」

「はいはい、よく頑張ったな。」

「雑!!」


どうでもいいから早く着替えて欲しい。丈が足りていないということは、下着が見えているのだ。でなければ、水族館に行きたい!と言うからわざわざ予約したチケットが無駄になってしまう。


「いいから着替えろ。みーこに似合う服、そこに出 してあるから。」

「え、ほんと!?わー可愛い!!」


よかった、これで着替えてくれそうだ。

上機嫌で支度をし始めた彼女を横目で見つつ、自分も着替えを始めた。

しばらくすると、支度が終わった彼女がこちらに来た。


「大ちゃん、可愛い?」

「はいはいそうだな。」

「雑!!」


可愛いに決まってるだろ、俺が着せたい服を着てるんだから。


とりあえず今日のところは彼女の機嫌は持ちそうだなと思いながら、予定より少し遅い時間に家を出たのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ