禁断アイテム?
ノヒローが最終手段を使用します。
魔法が効かない以上、肉弾戦に活路を見出すしかない。そう判断してノヒローは覚悟を決める。どちらかというと魔法での戦いに長けているが、肉弾戦も苦手というわけではないのだ。雷鳴のような速さで迫るマモンに最短距離でパンチを放つ。
そのパンチはマモンがギリギリ届かない場所に止まったことで当たることはなかった。そこでノヒローは貫手の形に変え、そこから爪を伸ばす。伸びた爪がマモンの顔面を捉えたと思った瞬間、ノヒローの視界からマモンが姿を消す。「どこだ?」。慌ててマモンを追おうとして気づく。マモンはダッキングしてノヒローの真下に身を屈めていた。「しまった!」。そう思ったときにはもう遅い。立ち上がるような動きとともに拳を伸ばして、思いきり顎を打ち抜かれノヒローは昏倒する。
倒れながらノヒローはマモンの分身体に食らった発勁のような技を思いだしていた。あのときも酷いダメージを負ったものだが、今回の攻撃はあれとはまったくレベルが違う。このまま死んでもおかしくないくらいの強烈なものであった。
そして無情にもマモンは無理やりノヒローを起こしてさらに打撃を加える。倒れようとすると攻撃されて、倒れることすら許されない。遠のく意識の中でマモンが何かをつぶやいているのにノヒローは気づいた。
「アキラくんの竜田揚げ、アキラくんの竜田揚げ」
聞いたことがない、おそらく料理のメニューだと思われる単語を繰り返しながら自分を追い詰めていくマモン。「強いのはわかっていたが、同じ幹部でもここまで力量に差があるとは。完全に私は思い違いをしていたのだな」
思い返してみれば、サタンやマモンをはじめとした古くからの幹部たちは自分を褒めてくれることが多かった。
「その若さでこれだけの成果を挙げるとはたいしたものだ」
「私たちもウカウカしていられないな」
「私が貴殿と同じ年齢のときには、まだまだ下っ端だったぞ。末恐ろしいな」
それらの言葉を額面どおり受け取っていた。なんなら「これくらいのこともできないって。幹部といってもその程度か」とバカにしていた。だからこそ「サタンに取って代わって魔界を手に収める」などという野望を持ってしまった。
ところがどうだ。現実はマモンに手も足も出ず、一方的になぶられている。しかも相手は自分が反撃したらどう対処するかなど一切考えず、勝利後の食事に気を向けている。「どうにもできないか。私はこのまま消えるのか」。そういう考えが頭をよぎったものの、思いなおす。「勝つのは難しいだろう。しかしせめて一矢報いないとな」
殴られ、蹴られながらノヒローは懐に忍ばせていた漆黒の球体を飲み込む。明らかに禍々しいその球体。ノヒローが飲み込む前、一瞬だけ目にしたマモンが攻撃の手を休めノヒローに問う。
「まさかそれは常闇の月か?」
その言葉にノヒローは答えない。正確には答えられないというほうが正しいのだが。
「常闇の月」。悪魔がとことん追い詰められたときに使用してきた究極の禁断アイテムである。体内に取り込むことで大幅に攻撃力、防御力をアップさせることができる。その代わり理性などは一切失い、ただ荒れ狂うだけの獣となる。そして暴れるだけ暴れたら、最終的に体が崩壊して消滅する。
敵から仲間を逃すときなど絶体絶命のピンチに使用されてきたが、やはり暴力の権化となり最終的に消滅するというのは魔界においても倫理に反するということで、ずいぶん前に使用を禁止されたものだ。その時点で現存していた常闇の月はすべて処分され、現時点で残っているものは皆無のはずであった。
「どこからその亡霊のような道具を掘り起こしてきたんだか」。呆れるマモン。勝利への執念は理解できなくもないが、勝ったところで消滅するのであればその勝利にどれほど意味があるというのか?
「ノヒロー。お前の執念だけは認めてやる。しかし貴様が消滅する前に、私がこの手でトドメを刺してやる。安心して逝くがいい」
その言葉はもはやノヒローには届かないのだが、マモンはあらためてゆっくりと歩を進めるのであった。
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