防具の意志?
喋る防具、アイリー。タックは天才なのです。
お腹が膨れたところで、パズズが持ってきた防具をみんなで見ることにした。ひととおり見た後、サタンが静かに話す。
「これはすごいですね。意思疎通ができる防具ですか。デモンズシールドは伝説になっていますが、さすがに意思疎通はできないでしょう。これはまた違った方向で伝説の防具と言えるかもしれませんね」
「そうやろう。サタン様。これ本当にすごかとよ」
サタンの言葉にパズズが同意したとき、手にしていた防具が大きな声を挙げる。
「ちょっと! これとは何よ。私にはちゃんと名前があるんだからね」
「ちょっと待たんね、名前あると?」
「そうよ。アイリーという立派な名前があるわよ」
その名を耳にしたベルゼブブが考える。「今の声、そしてアイリーという名前……どこかで聞いたことがある」。ただそれがどこだったかハッキリと思い出せない。
「私はもともと悪魔だったけど、前に天上界と戦争したときに死んじゃったの。それで生まれ変わったら、こういう状態ってわけ。まさかアクセサリーや防具を作る素材に生まれるとは思わなかったわよ」
それを聞いてベルゼブブが思い出す。
「アイリー! まさか魔界の西で最強と言われた、あの“蒼白の堕天使”アイリーですか?」
「あぁそういう呼ばれ方をしていたわね、前世では」
そう言うと、アイリーは盾の形から人形に変化する。
「あなたが蒼白の堕天使”。一度お会いしたいと思っていたのですよ」
サタンが感心したような顔で言う。生前会ったことはなかったが、蒼白の堕天使の異名は魔界に広く伝わっていたのだ。
「あの戦争で死んだ子たち、私のように素材に生まれ変わった子もいるの。ただほとんどの場合は意思疎通なんてできないわ。なぜなら私たちの言いたいことを聞き取れる悪魔がいないからね。でもタックさんは私の声が聞こえたの。そしてそのタックさんが手を加えたから、こうして他の悪魔たちにも私の声が聞こえるようになったというわけ」
それを聞いてパズズが感心して「やっぱりタックさんはすごかね」とつぶやく。当のタックは戸惑っているようだ。サタンがタックに向かって言う。
「タックさん、あなたはすごい才能を持っているのですね。魔力量は他の悪魔よりも低いかもしれませんが、こういう才能は誰も持っていません。もちろん私にも同じことはできませんし、他の幹部たちもできないことです。誇っていいことだと私は思いますよ」
サタンに褒められてタックは嬉しいのと恥ずかしいので赤面してうつむいた。
「他の素材の子も早く防具にしてあげてよ。あの子たちもきちんとした形になれば話ができるはずだから。もちろんタックさんが作らないとダメだけどね」
アイリーの言葉を聞いてタックが決意したような毅然とした表情になる。
「アイリーさん、自分の言いたいことが誰にも伝わらなくて悔しい思いをしましたよね。きっと他の子たちもそうですよね? 僕が防具にしてそれが伝わるなら、そしてその防具でサタン様たちのお役に立つなら全力で作ります!」
アキラは「魔界っておもしろいな。道具だと思っていたら意思を持っているなんて。僕もいつも使っている調理道具に感謝しないと」と考えながら黙って成り行きを見ていた。テシオンは「すげえな。こんなの見たことないわ」とこちらも黙って話を聞いていた。
「タックさん、では落ち着いたら製作に取りかかってください。部屋と道具は用意してあります。足りないものがあったら行ってくださいね」
アスモデがそう言うと、タックは「すぐに始めます」と答えたので製作室へと案内される。ふとアキラは思いついてテシオンに話しかける。
「テシオン、タックさんこれから頑張って防具を作るんだよね。休憩時間になにかつまめるものとか、おやつがあったほうがいいだろうから、僕なにか作ってもいいかな?」
アキラの「おやつ」という単語を聞いて、テシオンだけではなくサタンたち幹部連も目を輝かせる。
「アキラ、さすがだね。あんた気遣いの男だよ!」
テシオンが声を上げると、サタンがおずおずと尋ねる。
「あの……アキラくん。そのおやつというのは私たちの分も?」
不安そうなサタンの顔を見てアキラは笑いそうになる。
「もちろん! みなさんの分も作りますよ」
その言葉で一同が子供のような笑顔を浮かべる。
「さて。じゃあタックさんは防具作り、僕はおやつ作りを頑張りますか!」
そう言って、アキラはコージー城のキッチンへと向かうのだった。
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