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普通ってなに?

母親、キレてます。

 辺り一面にガラス片が散らばっている。パズズたち3人は何が起こったのかと固まっていた。そのときタックの家から怒鳴り声が聞こえた。

「いい加減にしなさい! あんたいつまでこういう生活を続けるつもりなの?」

 声の主は女性であった。ヤーサには聞き覚えがある声。

「おばさんだ。おばさんがキレてる」

 そう言うと、タックの家にヤーサが飛び込んでいく。家の中には俯くタックと怒りで震えるタックの母・フッサがいた。

「ちょっと、おばさん。どうしたの? これはどういうこと?」

「あらヤーサちゃん。みっともないところを見られたわね」

「とにかく! いったん落ち着いてよ、おばさん」

 ヤーサの姿を見て冷静さを取り戻したフッサだったが、まだ怒りは収まっていない。

「何があったの?」

 ヤーサの質問にフッサが答える。家から出ないで物作りに没頭する息子。自分が生きている間はそれでもいいだろう。しかしこのままの生活をいつまで続けられるかわからない。自分が死ぬ前に家から出て普通の暮らしをしてほしい。そのことについてずっと話し合ってきたが、あまりにも変わらない息子に堪忍袋の緒が切れたというのが真相であった。

「おばさんの気持ちもわからなくはないけど、タックにはタックの良いところがあるんだよ。無理に外に出ないといけないということはないと思うけど」

 ヤーサの言葉にフッサは首を横に振る。

「そりゃね。私だって無理矢理やりたくないことをやらせたいわけじゃないよ。でもこのままでいいわけがないじゃないか。ヤーサちゃんのように立派に働いている子はいいよ。でもうちの子は……。せめて普通の生活を送ってほしい、普通の人生を送ってほしいんだよ」

 フッサの悲痛な訴えにヤーサが黙り込む。そこに口を挟んだのはパズズであった。

「俺は部外者やけどさ、普通ってなんね? どがんことが普通って考えとると?」

 その言葉にフッサは顔を向ける。

「なんだい、あんた? どこの誰かもわからないヤツに口を挟んでほしくないね」

 不機嫌そうに返すフッサにモシハが答える。

「フッサ、お前も名前くらいは聞いたことがあるだろう。魔界の大幹部・パズズだよ。地元の出世頭だな」

「え! あなたがあの有名なパズズさん?」

 驚くフッサに苦笑いを浮かべながらパズズが答える。

「有名かどうかは知らんけど、俺がパズズばい。それでタックさんが外に出らんで、どがん問題のあると? 普通の生活って、何が普通かは悪魔ひとによって違うやろうもん」

 地元で知らぬ悪魔はいない有名人であるパズズの言葉にフッサは反論できずにいた。

「タックさんは確かに外に出らん。それは多くの悪魔とは違う生活かもしれんけど、ヤーサさんのアクセサリーば作ったり活動ば支援しとうよ。ご当地悪ドルの活動ば支援しとるということは、地域にも貢献しとるってことじゃなかね。しかもあがん精巧なアクセサリーば作れるとか。すごか才能やし、努力もしとるっちゃなかね? 親のあんたがそいば認めてやらんでどがんすっと」

 確かに一理ある意見だが、それでもフッサはなんとか反論した。

「パズズさんはそう言いますけど、それはあなたが魔界の大幹部に出世して立派な仕事をしているからでしょう? 結局他人事じゃないですか」

 フッサの言葉にパズズは静かに首を横に振った。

「お母さん、本当になんも知らんとね。ここに来るまでに調べたけど、タックさんはアクセサリー類を通販で展開しとるよ。ずいぶん人気のあって、注文しても数ヶ月待ちって状態の続いとるとよ。ちゃんと仕事しとるたい。それに立派な仕事ってなんね? 俺の仕事もタックさんの仕事も、仕事は仕事やろうもん。どっちが立派とか偉かとかなかよ」

 タックは新鮮な気持ちでパズズの言葉を聞いていた。自分を理解してくれるのは、ヤーサとモシハしかいない。母親ですら自分のことを認めてくれていない。魔界の大幹部ともなれば母親に同調して「外に出て働け」と言われるとばかり思っていた。しかし目の前にいるパズズは自分の生活、仕事を認めてくれている。モシハ以外で自分を否定しない大人に初めて会ったのだ。静かにタックが口を開く。

「母さん、心配ばかりかけてごめんね。でもパズズさんの言うとおり、今アクセサリー販売できちんと収入はあるから食べていくのには困らない。もちろんずっとうまくいく保証はないけど、自分のことは自分でやるから。恥ずかしい思いさせて本当にごめん」

 タックの言葉を聞いてフッサは涙を浮かべながら否定する。

「何も恥ずかしい思いはしてないよ。ただ私はあんたの将来が心配で仕方ないだけ。あんたは心が優しいから、外に出たら傷つくことも多い。でも一生家の中で暮らすわけにもいかない。そう思うと私の目が黒いうちになんとかしたかったんだ」

 フッサはタックのことが心配だからこそ怒っていたのだ。それはタックもじゅうぶんわかっていた。

「でもパズズさんの話を聞いて目が覚めたよ。あんたにはあんたらしい生き方があるんだろう。それは他の多くの悪魔とは違うかもしれないけど、それはそれで認めないといけない。あんたもそろそろいい大人になるんだし、親がどうこう言うことじゃないよね」

 フッサがタックのことを認めてヤーサやモシハも安堵した表情を浮かべている。話がひと段落したところでフッサが疑問を口にする。

「それでパズズさんはどうしてうちに来たのでしょうか? 私たちの親子喧嘩を仲裁するために来たわけではないでしょう?」

 その問いにパズズの代わりにヤーサが答える。

「パズズさん、タックに協力してほしいことがあるんだって。タックを見込んでお願いしたいってさ」

「え! 僕なんかでお役に立てることがあるんですか?」

 先ほどのパズズの言葉を聞いてタックは当然協力する気持ちではあったが、「アクセサリー職人の僕にできることなんてあるだろうか?」と疑問を持った。そんなタックにパズズは優しく微笑んで「タックさんにしかできんことやけんお願いしたかとよ」と口にするのであった。

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