テシオンの責務?
ゼウスとテシオンがアキラの治療に挑みます。
病室へたどり着いたゼウスとテシオン。2人ともふつうの人間には見えない状態であるため、集中治療室の中に入っても騒ぎにはならない。
「この子がアキラくんですね」
「そうだよ」
眠り続けるアキラを見て優しい笑顔を浮かべるゼウス。
「自分を犠牲にして他者を助ける。言葉で言うのは簡単ですが、それを実行できる人はなかなかいません。しかも命をかけてまで……。本当に優しい子なんですね」
ゼウスは心から感心していた。自己犠牲、天上界に行くための条件の1つである。それをこの若さで実践しているというのは、いかにアキラの心が崇高なものかを表している。こういう子を死なせてはいけない。そう強く思うのであった。
「それでは私の魔法で……」
そうゼウスが口にした瞬間、テシオンが待ったをかける。
「ちょっと待ってほしい。ゼウスさん」
「どうしましたか?」
「アキラの回復、あたしがやりたいんだ」
ゼウスはテシオンの言う意味がわからなかった。人間を回復させるには聖属性の回復魔法でなければならない。当然悪魔であるテシオンに聖属性の魔法は使えないのだ。使えないというよりは、使ってはいけない。これはテシオンが下級悪魔だからということではなく、たとえサタンであってもそうだ。悪魔が聖属性の魔法を使うと信じられないくらいのダメージを負ってしまう。最悪の場合、消滅することもあるのだ。だから悪魔にとって聖属性の魔法は「使えないことはないが、使うわけにはいかない」というもので、実質使えないのと同義である。
「あなたの気持ちはわかりますが、アキラくんを回復させる魔法は悪魔であるあなたには使えないでしょう」
「でもこれはあたしがやらないといけないことなんだ。あたしが付いていながら、アキラにこんな怪我をさせた。治療するのはあたしの責務だよ。どうしてもダメだったら……もしくはあたしが消えてしまったらそのときは助けてよ」
そうゼウスに言うと、テシオンは全魔力を持ってアキラが回復するように魔法をかけ始めた。あまりの魔力にゼウスは驚いている。
「これだけの魔力量……サタンや私に匹敵する? いやそれ以上かもしれない」。デタラメな魔力量。テシオンの潜在能力が「アキラを救いたい」という思いの元に発揮される。
「クソ! 腕が……。なんのこれしき!」
悪魔であるテシオンが無理やり聖属性の回復魔法を唱えるているので、腕はボロボロになっている。
「やめましょう! 私が引き継いでやりますから」
見かねたゼウスが叫ぶが、テシオンは一向にやめる気配がない。
「やめるわけにはいかない。やめられるはずがない! 絶対にアキラはあたしが救うんだ!!」
テシオンは強靭な意志でアキラに回復魔法をかけ続ける。アキラの傷はみるみる良くなっていくが、対照的にテシオンはどんどん傷ついていく。
ゼウスは信じられなかった。「これだけ自己犠牲ができる人間がいるのも驚きだが、悪魔が自己犠牲を行なっている。いったいどうなっているんだ?」。目の前でテシオンがやっていることは、自己犠牲にほかならなかった。
しばらくするとアキラの傷が見た目にもわからないくらい回復した。事故前と同じか、それ以上に健康的な状態になったのだ。
「ふぅ、ふぅ……。どうにかなったみたいだね」
息も絶え絶えにテシオンが言うと、ゼウスは驚きと賞賛が入り混じった笑顔でテシオンに言葉をかける。
「すごいですね。アキラくん完璧に回復していますよ。悪魔であるあなたに、ここまで見事な回復魔法が使えるとは思いませんでした」
「おかげでこっちはボロボロだけどね」
そう言って笑うテシオン。とりあえずホッとひと息付いている。そのときアキラの意識体が病室へ帰ってきた。
「おう! アキラ。もう心配ないぞ。あたしの回復魔法で君は完治したからな」
「え! 何その急展開。でもありがとうね。それでテシオンそちらの男性は?」
「神様」
「へ?」
「ゼウスさんだよ。さっき友達になったんだ」
テシオンの言葉を聞いて「私たち友達なんでしょうか?」とゼウスは疑問に思ったが、規格外の悪魔と親しくするのも面白いと考えたので、テシオンに同意する。
「初めましてアキラくん。テシオンさんのお友達です。ゼウスと言います」
「この間は、サタンさんで今度はゼウスさん……。テシオンの人脈、どうなってるの?」
アキラはあまりのことに驚きすぎていた。死の淵にあった自分が回復したのもそうだが、天上界のトップともこうして出会うことになったのだから。
「アキラ、いつでも肉体に戻って大丈夫だぞ。すぐに戻ってみんなを安心させてやりな」
テシオンが優しくそう言ったが、アキラはその言葉を否定する。
「いや。もう少しこのままでいるよ」
「はぁ?」
アキラの意外すぎる反応にテシオンは言葉を失うのであった。
肉体に戻ることを保留したアキラの真意は?
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